眠れる森の星空少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 重い空気を作ることは自分らしくない。いつも賑やかで笑っているべきだ。実は暗い奴だなんて、知られたくないし、知りたくない。

「無理に笑わなくてもいい。聞き出したのはこっちだ」 
「重たい空気が苦手なんだよ……」 
「やっぱり真面目だね」 
「俺が?」 
「そうだよ。バイト中は笑顔を絶やさない。桜木君が困っていると思って、助けに来ただろう?真っ直ぐに、ぶつかっている。その分、傷ついているだろう?そうやって無理に笑うということは、傷を癒やすことにはならない。自分で閉じ込めて悩んでいる。100%の力を出し切っていると、別の力が加わった時に受け止められくなる。もっと自由になるといい」
「どうして?」
「こういうことを言った理由?」 
「うん」
「君のことが大切で、好きだからだよ。他に理由はない」 
「うん……」 

 どうしよう。胸と背中がきゅうっと痛くなった。言い切ったところが男として憧れる。それだけではない。もっと近づきたいと思ってしまった。運転席から腕が伸ばされて、肩を叩かれた。するとその時だ。この真剣な空気の中で、空腹を知らせる腹の虫が鳴り響いてしまった。 

「ぐ~きゅるるる~、ぎゅる~~」
「ははは……」
「ああ……」
「さっき、食べただろう?」 
「うん。すごい音だったね!」

  自分の腹から鳴らしたのに驚いてしまった。お互いの笑い声が落ち着いた後、車のエンジンが入った。カーナビの行き先は大学の寮だ。なんだか寂しいと思っていると、早瀬がパネルを操作した。 

「ここじゃなかったね」
「え?」 
「こっちだった。着替えも下着も置いてあるからいいよね?寮まで取りに行かなくても」 
「ああ……」 

 早瀬のマンションに変わったから、気持ちが明るくなった。もやもやしたものが消えて、笑いかけて我慢した。そして、本当は嬉しいのに、反対のことを言ってしまった。

「強引だよ!」
「大学まで近いよ?楽器店にもね。いっそのこと俺の家に住めばいい。ああ……」

 早瀬が口ごもった。高校時代の話を思い出したのだろう。 それは過去のことだから、大きく首を振って見せた。

「裕理さんの家に住んだら、何か特典があるわけ?」 

 俺が投げやりに言い返すと、早瀬がホッとした顔になった。しかし、俺はそのことに気づかないふりをして、窓の外へ向いた。すると、早瀬が何か考える仕草をした後、笑い出した。

「寝起きが悪い君のことを、一発で起こしてあげるよ。美味しい朝食、夕食付き。休日は昼食も作るよ。ギター弾き放題。時間が合えば、大学へ送って行く。どう?」 
「起こす方法って、どんなやつ?」

 どうせロクな方法じゃないだろう。布団を引き剥がして床に転がされるか、足の裏をくすぐられるのだろう。さっそく言い返す言葉を用意した。

「悠人君が嫌がるやり方だよ」 
「ええ?ど、どんな?」
「やって見せようか?」 

 早瀬が運転席から身を乗り出してきたが、シートベルトが邪魔で距離を取ることが出来ない。そして、伸びてきた手が頭の後ろに添えられて、固定された。思わず息を飲むと、頬へ噛みつかれて、ペロリと舐められてしまった。

「ひいいいっ。噛み付くなよ!」 
「これなら起きられるよね?逃げられないうちに連れて帰るよ。マリーズカフェで、コーヒーとサンドイッチをテイクアウトする」 

 ガチャッ。車のドアがロックされた。普通の音なのに、捕らえられた気がした。しかし、ホッとした。苛められるだろうが、優しい人だから悪くないと思った。そして、ナビが行き先ルートを変更して表示した後、目的地へ向けて発進した。
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