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6-1 早瀬の過去
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6月2日、土曜日。20時。
箱根の温泉プールで遊んでから、一週間が経った。あれから俺は、よく早瀬の家に遊びに行くようになった。今日も早瀬の家に行く。
今、楽器店でバイト中だ。店の裏側へモップを片づけた後、レジの背後にあるテーブルに向かった。閉店までの間に、ホーページの更新をやるために。
今日と明日の2日間は、有名ギタリストの特別教室が開催される。今日、一日目が終わったところだ。講師はベテルギウスというバンドのギタリストの植本さんだ。今日のブログには、教室で撮影したものを載せる。参加者の全員からOKがもらえたから、写真が選び放題だ。 その中には、桜木さんの姿がある。そのカッコよさに、ため息が出た。
「カッコいいなあ。明日は一緒に参加できるから良かった~」
明日はバイトが休みだから、この教室に参加する。ブログに載せる写真には、桜木さんが演奏中のものと、植本さんと並んで話しているものをセレクトした。恋人だという中山伊吹さんも写っている。夏樹のお兄さんであり、かなりクセのある人だと聞いた。この写真からは想像できないのに。俺達の大学に通っていた人で、先輩達が怖がっている。夏樹に下心で声をかけた人が、伊吹さんの弟だと知って、逃げ出したことがあった。
「どうして怖がっているんだろう?これでよし……」
「悠人君!早瀬君が迎えにきたよ」
「はいっ」
「恋人の迎えだよー」
「はい」
オーナーから声を掛けられた。そして、早瀬と話しているバイト仲間からも声を掛けられて、返事をした。大学内のみで恋人同士のフリをするつもりだったのに、そうではなくなってきている。いつものパターンで、早瀬のペースに呑まれた結果だ。この間の早瀬との会話を思い出した。
『まずは形から入ろう。恋人同士だと宣言しようね』
『宣言しなくてもいいよ。大学内で広まるし』
『徹底的にしよう。切り替えなくて済むから楽だよ』
この楽器店では、一週間前から公認カップル扱いをされている。今日は土曜日で、早瀬の仕事が休みだから、店まで送ってくれた。帰りも迎えに来てくれて、同じ家に帰る。傍から見れば付き合っているように見えるだろう。しかし、俺はそう思っていない。
奥のスタッフルームで着替えをした後、裏の勝手口から外へ出た。店の自動ドアのそばで、オーナーと早瀬が話していた。俺のことに気づくと話を切り上げて、早瀬が手を振ってきた。
「お疲れ様」
「うん」
手を振り返すのが照れくさくて、足早に早瀬の元へ行った。すると、彼が俺の持っていた荷物を手に取った。その様子をオーナーが笑って見ていたから、顔から火が出そうなほどに恥ずかしくなった。ここまでやらなくてもいい。その言葉を飲み込んで、一刻も早く帰ることにした。
「オーナー、お疲れ様でした!」
「お疲れ様。食事をして帰るのか?」
「えーっと……」
「いえ、今夜は僕が作ります。休日はそうしようと思って」
「そうなのか。よく食べるから、作り甲斐があるだろう?」
「ええ、それはもう。食べている彼のことを、僕が食べたくなっています」
何を言い出すのか?あたふたしているうちに、オーナーが店内へ戻って行った。誤解を解いてから帰りたいと思ったのに。そういう俺のことを見て、早瀬が微笑んだ。
「『モップ』」
「う……っ」
「俺達は恋人同士だ。買い物をしてから帰ろうね」
「ああ……」
「返事は?」
「分かったよ!」
「『はい』だよ。噛みつかれたいのか?」
「は、はい……」
急に口調が変わるから、背中に冷たい汗が流れた。 いつもは優しい人なのに、いじめっ子に変身してしまう。抵抗が出来ないまま、大人しく付いて行った。
箱根の温泉プールで遊んでから、一週間が経った。あれから俺は、よく早瀬の家に遊びに行くようになった。今日も早瀬の家に行く。
今、楽器店でバイト中だ。店の裏側へモップを片づけた後、レジの背後にあるテーブルに向かった。閉店までの間に、ホーページの更新をやるために。
今日と明日の2日間は、有名ギタリストの特別教室が開催される。今日、一日目が終わったところだ。講師はベテルギウスというバンドのギタリストの植本さんだ。今日のブログには、教室で撮影したものを載せる。参加者の全員からOKがもらえたから、写真が選び放題だ。 その中には、桜木さんの姿がある。そのカッコよさに、ため息が出た。
「カッコいいなあ。明日は一緒に参加できるから良かった~」
明日はバイトが休みだから、この教室に参加する。ブログに載せる写真には、桜木さんが演奏中のものと、植本さんと並んで話しているものをセレクトした。恋人だという中山伊吹さんも写っている。夏樹のお兄さんであり、かなりクセのある人だと聞いた。この写真からは想像できないのに。俺達の大学に通っていた人で、先輩達が怖がっている。夏樹に下心で声をかけた人が、伊吹さんの弟だと知って、逃げ出したことがあった。
「どうして怖がっているんだろう?これでよし……」
「悠人君!早瀬君が迎えにきたよ」
「はいっ」
「恋人の迎えだよー」
「はい」
オーナーから声を掛けられた。そして、早瀬と話しているバイト仲間からも声を掛けられて、返事をした。大学内のみで恋人同士のフリをするつもりだったのに、そうではなくなってきている。いつものパターンで、早瀬のペースに呑まれた結果だ。この間の早瀬との会話を思い出した。
『まずは形から入ろう。恋人同士だと宣言しようね』
『宣言しなくてもいいよ。大学内で広まるし』
『徹底的にしよう。切り替えなくて済むから楽だよ』
この楽器店では、一週間前から公認カップル扱いをされている。今日は土曜日で、早瀬の仕事が休みだから、店まで送ってくれた。帰りも迎えに来てくれて、同じ家に帰る。傍から見れば付き合っているように見えるだろう。しかし、俺はそう思っていない。
奥のスタッフルームで着替えをした後、裏の勝手口から外へ出た。店の自動ドアのそばで、オーナーと早瀬が話していた。俺のことに気づくと話を切り上げて、早瀬が手を振ってきた。
「お疲れ様」
「うん」
手を振り返すのが照れくさくて、足早に早瀬の元へ行った。すると、彼が俺の持っていた荷物を手に取った。その様子をオーナーが笑って見ていたから、顔から火が出そうなほどに恥ずかしくなった。ここまでやらなくてもいい。その言葉を飲み込んで、一刻も早く帰ることにした。
「オーナー、お疲れ様でした!」
「お疲れ様。食事をして帰るのか?」
「えーっと……」
「いえ、今夜は僕が作ります。休日はそうしようと思って」
「そうなのか。よく食べるから、作り甲斐があるだろう?」
「ええ、それはもう。食べている彼のことを、僕が食べたくなっています」
何を言い出すのか?あたふたしているうちに、オーナーが店内へ戻って行った。誤解を解いてから帰りたいと思ったのに。そういう俺のことを見て、早瀬が微笑んだ。
「『モップ』」
「う……っ」
「俺達は恋人同士だ。買い物をしてから帰ろうね」
「ああ……」
「返事は?」
「分かったよ!」
「『はい』だよ。噛みつかれたいのか?」
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