眠れる森の星空少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 12時。

 大学の午前中の授業が終わり、学食『薄味』で食事をしている。今日も沢山の料理を取って来た。テーブルの上には、3000カロリー分の料理が並んでいる。同じテーブルには森本と山崎と真羽しんばがいる。真羽は山崎と同じ高校の同級生であり、最近知り合った。とても真面目な子だ。俺が食べる量を見て驚いていた。そして、夏樹の小食さにも驚いていた。 

「森本。この黒米、美味しいよ!」
「それで2杯目だぞ。よく入るな」 
「大食いだからね。夏樹との差が大きいよ」

  夏樹の分のトレーを見ると、小さめの茶碗に五穀米が盛られている。おかずは、焼き魚、冷やっこ、サラダ、味噌汁だ。これで満腹になるという。森本の計算では600カロリー分だ。いくらデザートを食べるとはいっても、少ないと思う。俺よりも背が高いし歩き回っているのに。体が弱いことも心配している。その夏樹は今、席を外している。

「もっと食べないのかなー」 
「昔からだ。けっこう元気だぞ」
「まあ、そうだね……」

  話題の主が、同じドイツ語クラスの女の子と盛り上がって話している。この間の北添達との一件の後、彼は女の子に人気が出た。恋人候補ではない。同じ目線で語れる友達というものだ。その会話が聞こえてきた。

「お姉ちゃんの彼氏が浮気したのよーー」 
「どうやって分かったんだよ?」 
「下着を裏返しにして履いていたんだって~」
「なにそれ~」
「夏樹君、男の人がそういうことするのは普通かな?」 
「ううん。いくら大雑把な男でも、パンツの裏返しはないよ~」
「そうなのねー」 

 彼氏の浮気の話で盛り上がっている。黒崎さんは浮気をするのだろうか?そうは思えないが、あんなに真剣に話しているのなら、怪しいことがあったのかも知れない。そして、ふと、早瀬のことが思い浮かんだ。

(裕理さんって、モテるよね?温泉施設のレストランで声を掛けられたし……)

 早瀬はモテルと思う。かっこいいし優しいからだ。温泉施設でナンパされた時のことを思い出し、落ち着かなくなった。さらに夏樹達の話が続いていく。気になってしまう。

「君のことが好きだって言うだけでも、全然違うわよ。お姉ちゃんの彼氏って、付き合い始めてからは言わなくなったんだって」
「それって寂しいよね~」 
「夏樹君は言ってもらっている?」 
「うん。たまに言ってくれる~」 
「いいなあ。ニュースで流れていたのを見たのよ。カッコいい!」 
「結婚してから落ち着いて、さらにモテ始めたんだよ~」
「あー、なるほど。人のものほど欲しくなるってやつ?」 
「それよりはね。包容力が出て、カッコよく見えるんだよ……」
「そっかー。それでね、すれ違いが出来たんだって。もう別れそう」
「ああ……、そうなんだ……」

 黙々と食べながら、聞き耳を立てた。好きだと言うのは大事らしい。自分から早瀬に言ったことがない。このままだと浮気をされるだろうかと、急に焦りが出てきた。このままだと壊れるかもしれないとまで思った。そして、手元のスマホを覗き込み、昨日の早瀬とのラインのやり取りを読んだ。 

「『早瀬裕理 お礼の先払いがまだだよ。話を流されたい?』……『忘れていただけだよ』……『早瀬裕理 裕理さんが大好き。このメッセージを返してくれたらOKだ』 ……『なんで?』……『早瀬裕理 無かったことにするぞ』……好きだよ。まだ返信できていないんだっけ」 

 こうして読むだけでも、胸がドキドキしている。顔だって熱い。今朝の駅の構内でされたキスのことを思い出すと、会いたくなってしまった。

 どうしよう。好きだと伝えらなければならない。深呼吸をしてメッセージを打った。大好きだよと。そして、大げさに気合を入れて送信した後、目的が達成されて力が抜けた。

 椅子にもたれ掛かると、向かいの森本が首を傾げた。とても事情を話せない。早瀬から返信はあるのかな。いつもならラインを送って来る時間だ。そわそわして待っていると、期待通りの展開になった。返信が入った。耳の下まで鼓動が響き、スマホを両手で握りしめた。 

「『早瀬裕理 :遅延料金分を追加する』か。打ち忘れただけだよ……。『早瀬裕理: 今日は外で食事をしよう。京橋駅で待ち合わせしよう』……NO!『早瀬裕理:大学へ迎えに行くよ。逃げても無駄だ』……分かったよ。京橋駅でね。送信っと……」

 甘い囁きのような軽口が返ってくるかと思えば、いじめっ子発言の方だった。きっと苛められるのだろう。今朝のような言葉が欲しかった。俺も好きだよと。自分から言ったことがないから要求は出来ない。そして、夏樹達の話が聞こえてきた。 

「それでねー。彼氏から好きだって言われて……」
「魔法の言葉だよね。俺も黒崎さんから……、ヒャーッ」
「いいなあ~」 

 森本と顔を見合わせて頷き合った。お互いに恋愛のことで悩んでいるからだ。それから後は、早瀬からのラインは来なかった。 
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