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1-1 同棲開始(夏樹視点)
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7月23日、金曜日。11時。
黒崎のマンションで暮らし始めて、約二週間が経った。両親からの許可が出て、公認カップルとしての同棲生活のスタートを切ったばかりだ。でも、順風満帆とは言えない状況だ。それには理由がある。
黒崎と恋人同士になった直後のことだ。友人の山岡達也からの告白を断った後、彼の車で連れ去られそうになるという事件が起きた。その時に怪我をしてしまい、今も痛みが続いている。そして、精神的なショックからだと思うが、気持ちが塞ぎ込んでいる。黒崎には心配をかけているのに、元気になれない状況だ。
新生活の三日後から体調が悪化し、起きているのか、眠っているのか分からない状態になった。今、病院から勧められて、寝る前に精神安定剤を飲んでいる。学校は休んでいる。医師から学校を休むように言われたからだ。登校は2学期からになる。こうして寝ている間も受験対策の授業が気になっている。希望通りの大学に入れるだろうかと不安にもなっている。
(ここはどこだっけ?あ、社長室だった……)
目を覚ますと、見慣れない天井が視界に入った。ここは黒崎が社長を務めている黒崎ホールディングスの社長室だ。黒崎が俺のことを一人で寝かせておけなくて、彼が仕事中の時は、この社長室で過ごすことになった。昨日からだ。部屋の奥をパーテーションで区切った場所にソファーが置かれている。そのソファーで寝て過ごしている。時々早瀬さんが様子を見に来てくれて、話し相手になってくれている。
ソファーから起き上がると、さわり心地のいいタオルケットが体にかけられていた。さっき寝るときに使っていた毛布ではない。なんとなく眺めていると、パーテーションの向こうから、早瀬さんに声をかけられた。
「夏樹君。起きましたか?」
「早瀬さん。迷惑をかけてごめんなさい」
「僕の方は大丈夫ですよ。気になさらないでくださいね」
「このタオルケット、ふわふわして気持ちいいね」
「ええ。僕が家で使っている物と同じ物です。いいでしょう。気に入ってくださってよかった。社長は一時間後に戻ります。心細いですか?」
「大丈夫だよ。早瀬さんがいるし……」
「ここで仕事をしますからね。何でも話してください。……ああ、寝ますか?ソファーを倒します」
「ありがとう……」
早瀬さんがソファーベッドの角度を変えてくれた。そして、秘書室に戻らずに、そばにある机で仕事を始めた。すぐ近くには黒崎の机が見えている。彼は午前中から会議で外出している。その間、早瀬さんが俺の看病をしてくれている。申し訳ないし恥ずかしい。でも、黒崎は俺のことを一人にしたくないというし、早瀬さんも心配してくれているから、日中はここにいることになった。
昨日、森本達や田中先生が見舞いに来てくれた。これで二回目だ。美味しいドーナツをお土産に貰った。たくさんあったから早瀬さんも食べないだろうかと思って持ってくると、とても美味しいと言って喜んでくれた。今の自分はそれしかお礼が浮かばなかった。
「早瀬さん。やっぱり俺、迷惑じゃないかな」
「いいえ。一人でいると落ち込むでしょう。僕は社長の意見に賛成です。ああいうことをしてはいけませんよ」
「うん」
一昨日の夜、一体どうしたのかと自分でもみっともないと思うことをしてしまった。星を眺めたくてベランダに出たとき、そこから飛び降りたくなってしまい、下の道路を見つめているところを黒崎に見つかってしまった。本気で飛び降りるつもりはなかった。どうしてそう思うのかと不思議に思って見つめていただけだった。でも、黒崎に心配をかけてしまった。そういうわけで、昼間は社長室で療養することになった。
(あ、黒崎さんかも……)
するとその時だ。部屋のドアが開かれた。そして、声をかけられた。夏樹と。黒崎が帰ってきたようだ。なるべく元気に見えるように返事を返すと、黒崎から笑われてしまった。無理をするなと言いながら。そして、パーテーションの向こうから入ってきた黒崎に笑顔を向けた。ありがとうという言葉と共に。
黒崎のマンションで暮らし始めて、約二週間が経った。両親からの許可が出て、公認カップルとしての同棲生活のスタートを切ったばかりだ。でも、順風満帆とは言えない状況だ。それには理由がある。
黒崎と恋人同士になった直後のことだ。友人の山岡達也からの告白を断った後、彼の車で連れ去られそうになるという事件が起きた。その時に怪我をしてしまい、今も痛みが続いている。そして、精神的なショックからだと思うが、気持ちが塞ぎ込んでいる。黒崎には心配をかけているのに、元気になれない状況だ。
新生活の三日後から体調が悪化し、起きているのか、眠っているのか分からない状態になった。今、病院から勧められて、寝る前に精神安定剤を飲んでいる。学校は休んでいる。医師から学校を休むように言われたからだ。登校は2学期からになる。こうして寝ている間も受験対策の授業が気になっている。希望通りの大学に入れるだろうかと不安にもなっている。
(ここはどこだっけ?あ、社長室だった……)
目を覚ますと、見慣れない天井が視界に入った。ここは黒崎が社長を務めている黒崎ホールディングスの社長室だ。黒崎が俺のことを一人で寝かせておけなくて、彼が仕事中の時は、この社長室で過ごすことになった。昨日からだ。部屋の奥をパーテーションで区切った場所にソファーが置かれている。そのソファーで寝て過ごしている。時々早瀬さんが様子を見に来てくれて、話し相手になってくれている。
ソファーから起き上がると、さわり心地のいいタオルケットが体にかけられていた。さっき寝るときに使っていた毛布ではない。なんとなく眺めていると、パーテーションの向こうから、早瀬さんに声をかけられた。
「夏樹君。起きましたか?」
「早瀬さん。迷惑をかけてごめんなさい」
「僕の方は大丈夫ですよ。気になさらないでくださいね」
「このタオルケット、ふわふわして気持ちいいね」
「ええ。僕が家で使っている物と同じ物です。いいでしょう。気に入ってくださってよかった。社長は一時間後に戻ります。心細いですか?」
「大丈夫だよ。早瀬さんがいるし……」
「ここで仕事をしますからね。何でも話してください。……ああ、寝ますか?ソファーを倒します」
「ありがとう……」
早瀬さんがソファーベッドの角度を変えてくれた。そして、秘書室に戻らずに、そばにある机で仕事を始めた。すぐ近くには黒崎の机が見えている。彼は午前中から会議で外出している。その間、早瀬さんが俺の看病をしてくれている。申し訳ないし恥ずかしい。でも、黒崎は俺のことを一人にしたくないというし、早瀬さんも心配してくれているから、日中はここにいることになった。
昨日、森本達や田中先生が見舞いに来てくれた。これで二回目だ。美味しいドーナツをお土産に貰った。たくさんあったから早瀬さんも食べないだろうかと思って持ってくると、とても美味しいと言って喜んでくれた。今の自分はそれしかお礼が浮かばなかった。
「早瀬さん。やっぱり俺、迷惑じゃないかな」
「いいえ。一人でいると落ち込むでしょう。僕は社長の意見に賛成です。ああいうことをしてはいけませんよ」
「うん」
一昨日の夜、一体どうしたのかと自分でもみっともないと思うことをしてしまった。星を眺めたくてベランダに出たとき、そこから飛び降りたくなってしまい、下の道路を見つめているところを黒崎に見つかってしまった。本気で飛び降りるつもりはなかった。どうしてそう思うのかと不思議に思って見つめていただけだった。でも、黒崎に心配をかけてしまった。そういうわけで、昼間は社長室で療養することになった。
(あ、黒崎さんかも……)
するとその時だ。部屋のドアが開かれた。そして、声をかけられた。夏樹と。黒崎が帰ってきたようだ。なるべく元気に見えるように返事を返すと、黒崎から笑われてしまった。無理をするなと言いながら。そして、パーテーションの向こうから入ってきた黒崎に笑顔を向けた。ありがとうという言葉と共に。
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