恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖

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 黒崎のシャツの胸元を片手で掴んだ。そして、大きく揺さぶった。こうでもしないと本心を聞けそうも無いからだ。そして、俺のことを見てほしい。さっきから目をそらされたままだ。黒崎が呆然と立ち尽くして、俺のされるがままになっている。彼らしくないと思った。今、何を考えているのだろう。俺が見つめると、さらに目をそらされてしまった。

「黒崎さん!ちゃんと俺の名前を呼べよ!」
「夏樹……」
「まだ分からないのかよ?……寂しいならそう言えよ!」

 搾り出すように声を張り上げて、両手でシャツを掴んで、黒崎のことを乱暴に揺すった。 

「ちっとも俺には聞こえないんだよ!1番でも2番でも関係ない。どうでもいい。ちゃんと俺を見ろよ!ここに居るだろ?」 

 行くな。寂しい。離さない。 これが大事な言葉だと思う。 いくら優しく言い聞かされても、言いくるめられているようにしか感じない。心が存在しているのかと思ってきた。俺の方から答えを言う。いつまで経っても黒崎が本音を言おうとしないからだ。 

「俺のことが欲しかったら、本気で求めてこいよ!俺の未来を決めるのは、あんたが不安だからだろ。俺がいなくなると思ってない?欲しい物があったら自分の力で獲れよ!でもそれは、束縛するっていうことじゃないんだ。あんたは寂しいんだろ?そう言えよ!それが本音なんだろ?」 

 黒崎から悲しい目で見つめられている。どうして悲しそうにするのか?俺のことが欲しくないのか?俺は黒崎のことが、どうしても欲しい。

「早く頭を撫でろ!俺はあんたのことが欲しい!だから、あんたも言えよ。風邪を引いてもいいのかよ?看病したかったら、ちゃんと言えよ!寂しいって言えよ!そうじゃないと触らせないよ!」
「夏樹……」

 まるで子供が駄々をこねているようだ。それでもいい。本当の気持ちだからだ。呆れるほどに声が掠れて、何を言っているのかすら分からなくなった。それなのに、いくら待っても、黒崎からの返事はない。

「まだ言わないんだ?駄目ってことなの?俺には打ち明けて貰えないのかよ?」 
「夏樹……。俺は誰かが居なくなるのが怖い。お前まで居なくなられるのが、堪らなく怖い」
「よかった……。黒崎さん……」 

 やっと黒崎が本音を言ってくれた。俺は嬉しくなり、やっと微笑みかけることが出来た。黒崎の頬を伝った涙を見て、心配になりがらも安心した。そして、もう一度名前を呼ばれたから、両手で頬を優しく包み込んだ。 

「黒崎さん。ここにいるよ」
「夏樹。どこにも行かないでくれ」
「俺はそばにいる。恋人だから。年が上とか下とか関係ない。俺があんたのことが必要だからだよ。あんたが決めることじゃない。一緒に行くけど、俺は大学卒業後は働きたい。でも、あんたのそばを離れないようにするよ。もしも仕事の都合で離ればなれになることがあっても、俺はあんたの恋人だよ」 

 お互いの目線を合わせると、黒崎の目には、自分の姿が映っていた。 やっと本気で向かい合ってくれたから、愛しさと嬉しさで、胸がいっぱいになった。
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