恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖

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9-4(黒崎視点)

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 11時。

 沙耶と並んで2年生が出場するリレーを眺めた。沙耶から呼ばれて振り向くと、見覚えのある女性が立っていた。こういう人の多い場所では思わぬ再会があるものだと思った。そして、まさか声をかけられるとは思わなかった相手が近くにいた。

 黒崎君。久しぶりね。そう声を掛けてきた西原は、この開明高校で音楽を教えている教師だ。夏樹を迎えに来た時、一度挨拶のみをかわしたことがある。かつてデートをしていた女性のうちの一人だ。正門で顔を合わせたとき、夏樹に悟られないようと焦った記憶がある。西原の方も気まずそうにしていた。夏樹と付き合っているのを知ってるからだろう。 

 あれは2年前のことだった。西原とは同級生の結婚披露宴で再会した。友人を通じて食事に誘われ、その夜に告白された。俺が男女関係なくデートをしている噂を耳にしているはずだが、それでもいいと言われた。

(……俺のことをか?恋人にはならないぞ。デートをする相手は他にもいるぞ) 
(……それでもいいの。その中の一人でいいから)
(……明日、構わないぞ。どうする?)

  その日から1年間、たまに食事をする関係を続けた。そして、彼女から告白された時と同じように真剣な目をして言われた。 

(……つらくなったの)  
(……そうか) 

 彼女とは、たまに会って食事をしながら、お互いのことを話していた。俺が不誠実だと言いふらされようが構わなかった。かえって好都合だ。余計な期待感を持たせないためになる。俺は誰かと付き合うなんて思っていなかったからだ。また喧嘩になるだろうかと考えていると、沙耶から肩を叩かれた。西原とデートをしていたのを知っているからだ。 

「黒崎君。何を考え事しているのかしら?西原さんよ」
「久しぶりだな」
「ええ……」

 こういう光景の中で向かい合うとは、思いもしなかった。夜のレストランの中でなく、晴天の空の下、体操着姿の学生達が走り回っている。男女のもめ事なと似合わない。だから釘を刺したのにと、沙耶から呟かれた。 

 西原の方から話しかけられた。叩かれるのか?なじられるのか?夏樹に見られたくないが、仕方がない。罰が当たったということだ。

「黒崎君、話したいことがあるの」
「……どうしたんだ?」
「私も一緒にいるわ」 
「あの。2人にしてもらえない?」 
「……あんたね。何をやったのよ?」
「誤解するな。何もしていない。ここで用件を聞く」 
「2人だけがいいんだけど……」 

 西原が俺と2人で話したのだと言い出すと、沙耶が俺の肩を叩いた。まだもめ事があるのかと言いながら。夏樹が現れた後、俺はデートをしていた相手に別れを告げてきた。そして、西原とは1年前に終わっている。話したいことがあるなら聞くつもりだ。しかし、2人きりにはならない。ここで話せと西原に言うと、沙耶から叱られてしまった。言い方を柔らかくしろと言っている。しかし、俺らしくなく、気持ちが動揺した。夏樹がいる学校だからだ。
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