94 / 164
10-2
しおりを挟む
黒崎のことを病院に連れて行きたいのに、本人が首を縦に振らない。子供の頃のことを思い出すそうだ。入院したことがあるそうで、その時は、よく一番上のお兄さんが見舞いに来てくれていたそうだ。その時は寂しくなかったと言っていた。でも、お母さん話題が無い。来てくれなかったということだろうか。母にそれを聞くと、さすがに来ていたと思うと言っていた。そして、話題は、今度の日曜日に黒崎がお母さんに会いに行くことに入った。
「黒崎さんのお母さんの立場だったら、どう思う?会いたいって思わないのかな?」
(……もちろん会いたいわよ。ほとんどのお母さんが、心の底ではそう思っているんじゃないかしら?お母さんのことを知らないし、想像でしか言えないけど。私だったらどう思うかで、話すわよ?)
「うん。聞かせてほしい」
(後ろめたいのよ。子供を置いて出なくちゃならない事情もあるから。お父さんとの離婚の条件もあっただろうし。大喧嘩をして家を飛び出したのかも知れないわよ。これから住む家が決まってから、迎えに行こうとしたのかも知れないのよ。……その時には遅かったかも知れない。会わせてくれなかったとかね……)
「好きな人が出来て、離婚したって聞いたよ。自分のことが邪魔だったのかなって、黒崎さんは思っている気がするんだ……」
(好きな人が出来たのは、本当かしらね?お母さんを悪く言いたい人が、勝手にそう言った可能性もあるのよ?……肩を持つわけじゃないの。お父さんと上手くいかなくて、誰かに頼りたくなって、他の人を好きになった可能性もあるわ。どっちが一歩的に悪いことはないの。……圭一君っていう、小学6年生の子供がいる立場だったから、いいことだとは思えないけど。人の心は教科書通りじゃないから……)
「……うん。お母さんに話しかけても、ほとんど無視されたんだって。絵を描いても、見てもらえなかったってさ……」
(……何があったのかしらね。全部分かっていると思うのよ。大人だし、色んな人を見て来ているから。それでも割り切れているようで、そう出来ない。どんな形でも、心の中で決着をつけようとしているのは応援しなさい。いい子ねー?あんたが素直に話を聞くなんて……)
「余計なことを言いそうで怖いよ。どんな風に話したらいいと思う?」
(無理に話そうとしなくていいのよ。一人になりたそうなら、黙ってそうしなさい。でも、そばにいること。難しいでしょう?)
「……コルクボードと指を傷つけることで、生きてるって感じてたんだ。でも、黒崎さんと会ってから捨てられたし、使いたいって思わなくなった。今度は黒崎さんの力になりたい」
(……泣いたら慰めなさい。茶化すんじゃないわよ?どうしようって迷った時には、連絡をしてきなさい。……もう切るわよ)
「うん、ありがとう」
電話を切った後、胸のつっかえが楽になった。こうして話せることに感謝できたのは、黒崎との出会いが大きい。 子供の頃は母がいることが当たり前で、煩わしいと思っていた。しかし、今は違う。恵まれているのだと分かった。両親がいることをありがたいと思った。
「黒崎さんのお母さんの立場だったら、どう思う?会いたいって思わないのかな?」
(……もちろん会いたいわよ。ほとんどのお母さんが、心の底ではそう思っているんじゃないかしら?お母さんのことを知らないし、想像でしか言えないけど。私だったらどう思うかで、話すわよ?)
「うん。聞かせてほしい」
(後ろめたいのよ。子供を置いて出なくちゃならない事情もあるから。お父さんとの離婚の条件もあっただろうし。大喧嘩をして家を飛び出したのかも知れないわよ。これから住む家が決まってから、迎えに行こうとしたのかも知れないのよ。……その時には遅かったかも知れない。会わせてくれなかったとかね……)
「好きな人が出来て、離婚したって聞いたよ。自分のことが邪魔だったのかなって、黒崎さんは思っている気がするんだ……」
(好きな人が出来たのは、本当かしらね?お母さんを悪く言いたい人が、勝手にそう言った可能性もあるのよ?……肩を持つわけじゃないの。お父さんと上手くいかなくて、誰かに頼りたくなって、他の人を好きになった可能性もあるわ。どっちが一歩的に悪いことはないの。……圭一君っていう、小学6年生の子供がいる立場だったから、いいことだとは思えないけど。人の心は教科書通りじゃないから……)
「……うん。お母さんに話しかけても、ほとんど無視されたんだって。絵を描いても、見てもらえなかったってさ……」
(……何があったのかしらね。全部分かっていると思うのよ。大人だし、色んな人を見て来ているから。それでも割り切れているようで、そう出来ない。どんな形でも、心の中で決着をつけようとしているのは応援しなさい。いい子ねー?あんたが素直に話を聞くなんて……)
「余計なことを言いそうで怖いよ。どんな風に話したらいいと思う?」
(無理に話そうとしなくていいのよ。一人になりたそうなら、黙ってそうしなさい。でも、そばにいること。難しいでしょう?)
「……コルクボードと指を傷つけることで、生きてるって感じてたんだ。でも、黒崎さんと会ってから捨てられたし、使いたいって思わなくなった。今度は黒崎さんの力になりたい」
(……泣いたら慰めなさい。茶化すんじゃないわよ?どうしようって迷った時には、連絡をしてきなさい。……もう切るわよ)
「うん、ありがとう」
電話を切った後、胸のつっかえが楽になった。こうして話せることに感謝できたのは、黒崎との出会いが大きい。 子供の頃は母がいることが当たり前で、煩わしいと思っていた。しかし、今は違う。恵まれているのだと分かった。両親がいることをありがたいと思った。
1
あなたにおすすめの小説
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
猫カフェの溺愛契約〜獣人の甘い約束〜
なの
BL
人見知りの悠月――ゆづきにとって、叔父が営む保護猫カフェ「ニャンコの隠れ家」だけが心の居場所だった。
そんな悠月には昔から猫の言葉がわかる――という特殊な能力があった。
しかし経営難で閉店の危機に……
愛する猫たちとの別れが迫る中、運命を変える男が現れた。
猫のような美しい瞳を持つ謎の客・玲音――れお。
彼が差し出したのは「店を救う代わりに、お前と契約したい」という甘い誘惑。
契約のはずが、いつしか年の差を超えた溺愛に包まれて――
甘々すぎる生活に、だんだんと心が溶けていく悠月。
だけど玲音には秘密があった。
満月の夜に現れる獣の姿。猫たちだけが知る彼の正体、そして命をかけた契約の真実
「君を守るためなら、俺は何でもする」
これは愛なのか契約だけなのか……
すべてを賭けた禁断の恋の行方は?
猫たちが見守る小さなカフェで紡がれる、奇跡のハッピーエンド。
【完結】少年王が望むは…
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―
なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。
その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。
死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。
かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。
そして、孤独だったアシェル。
凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。
だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。
生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー
海のそばの音楽少年~あの日のキミ
夏目奈緖
BL
☆久田悠人(18)は大学1年生。そそかっしい自分の性格が前向きになれればと思い、ロックバンドのギタリストをしている。会社員の早瀬裕理(30)と恋人同士になり、同棲生活をスタートさせた。別居生活の長い両親が巻き起こす出来事に心が揺さぶられ、早瀬から優しく包み込まれる。
次第に悠人は早瀬が無理に自分のことを笑わせてくれているのではないかと気づき始める。子供の頃から『いい子』であろうとした早瀬に寄り添い、彼の心を開く。また、早瀬の幼馴染み兼元恋人でミュージシャンの佐久弥に会い、心が揺れる。そして、バンドコンテストに参加する。甘々な二人が永遠の誓いを立てるストーリー。眠れる森の星空少年~あの日のキミの続編です。
<作品時系列>「眠れる森の星空少年~あの日のキミ」→本作「海のそばの音楽少年~あの日のキミ」
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
新緑の少年
東城
BL
大雨の中、車で帰宅中の主人公は道に倒れている少年を発見する。
家に連れて帰り事情を聞くと、少年は母親を刺したと言う。
警察に連絡し同伴で県警に行くが、少年の身の上話に同情し主人公は少年を一時的に引き取ることに。
悪い子ではなく複雑な家庭環境で追い詰められての犯行だった。
日々の生活の中で交流を深める二人だが、ちょっとしたトラブルに見舞われてしまう。
少年と関わるうちに恋心のような慈愛のような不思議な感情に戸惑う主人公。
少年は主人公に対して、保護者のような気持ちを抱いていた。
ハッピーエンドの物語。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる