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14時30分。
黒崎と二人で海岸線へ出た。こんなに綺麗だと思わなかったと思うぐらい、景色が綺麗だ。目の前に広がる海面の向こうには、水平線が見えている。グラデーションになった空に線を引いていた。そこには雲がかかっている。10月の涼しい空気と、穏やかな日差しが心地いい。ここを歩いていると、高揚した気持ちが落ち着いた。黒崎も同じだろうか。
今日の晩ご飯は何にしようかと話したり、明日の学校の話を話したりしながら、黒崎と二人で砂浜に降りていった。海からの風が気持ち良い。
「黒崎さんの好きな季節は何?」
「春が好きだ。お前は夏か?」
「ううん。夏より秋の方が好きなんだ」
「『夏樹』のくせに?そうか。お母さんの名前は”あき”さんだったな」
「お母さんが好きだからじゃないよーーー。うん。お母さんの名前は、”秋桜”って書くんだよ」
「綺麗な字だな。コスモスだ」
「漢字だけを見ると読めないから、困ることはあるけどね。マデリンおばあちゃんが呼びやすいもので考えたんだって。10月に日本に来たとき、コスモスが咲いていたんだって」
「そうだったのか。あき、いぶき、なつき。みんな”き”が付いている。どうして万理ちゃんだけ『万理』なんだ?」
「かわいい名前が良いと思ったそうだよ。お父さんが付けたんだ」
「確かに可愛い名前だ。由来があるんじゃないのか?」
「四字熟語の”万里一空”だって言っていたよ。世界の全ては、同じひとつの空の下にある。どこまでも同じひとつの目標を見据え、たゆまぬ努力を続けるっていう言葉だよ」
「良い名前だ」
「そうだよね。俺の名前は、”夏の大三角”から付けて、夏樹なんだ。黒崎さんの名前は、お母さんが付けてくれたの?」
「いや、母方の祖父だ」
「お母さんってモデルさんだったんだよね?いくつからやっていたのかな?ずっと続けていたの?」
「17歳からモデルをやっていたそうだ。親父と付き合い始めたのが、21歳のはずだ。俺が生まれた後、やめている」
「お父さんって、いくつ?」
「今年で78歳だ」
「22歳の年の差じゃん。けっこうあるね」
「父の愛人の一人だった。年の差があるのは母だけだ。母と結婚後は愛人を作っていないそうだ」
「最後の人なんだね……」
「そういう事だろう。父にとっては最後の相手でも、お互いに愛情があるから再婚したわけじゃないようだ。俺のことを手元で育てたいから、父は再婚を考えたそうだ。親子らしい会話をしたことはない。よく話はした。質問に対して答えを返した。その繰り返しだった」
「それで、今の黒崎さんがいるんだね。その話し方って、似ているよ。俺、あんたと話していて、そう思うことがあるもん」
「似ているのかもしれない」
黒崎の目が悲しそうな色に変わった。お父さんとの共通点があることが嬉しくないようだ。思い空気に変わったから、空気を変えたいと思った。この砂浜のどこかに座って話したい。でも、黒崎は一人になりたいように感じた。
「そこのコンビニで飲み物を買ってくるよ。温かい方がいい?」
「一緒に行く」
「いいから。温かい方と冷たい方、両方買うから。じゃあね」
黒崎の返事を待たずに走った。これなら黒崎が止める間が無い。彼を一人にしてあげられる。この作戦は今後も使えそうだ。でも、心配をかけるから、すぐに戻ってこよう。短時間でも一人にさせられたらいいと思った。
黒崎と二人で海岸線へ出た。こんなに綺麗だと思わなかったと思うぐらい、景色が綺麗だ。目の前に広がる海面の向こうには、水平線が見えている。グラデーションになった空に線を引いていた。そこには雲がかかっている。10月の涼しい空気と、穏やかな日差しが心地いい。ここを歩いていると、高揚した気持ちが落ち着いた。黒崎も同じだろうか。
今日の晩ご飯は何にしようかと話したり、明日の学校の話を話したりしながら、黒崎と二人で砂浜に降りていった。海からの風が気持ち良い。
「黒崎さんの好きな季節は何?」
「春が好きだ。お前は夏か?」
「ううん。夏より秋の方が好きなんだ」
「『夏樹』のくせに?そうか。お母さんの名前は”あき”さんだったな」
「お母さんが好きだからじゃないよーーー。うん。お母さんの名前は、”秋桜”って書くんだよ」
「綺麗な字だな。コスモスだ」
「漢字だけを見ると読めないから、困ることはあるけどね。マデリンおばあちゃんが呼びやすいもので考えたんだって。10月に日本に来たとき、コスモスが咲いていたんだって」
「そうだったのか。あき、いぶき、なつき。みんな”き”が付いている。どうして万理ちゃんだけ『万理』なんだ?」
「かわいい名前が良いと思ったそうだよ。お父さんが付けたんだ」
「確かに可愛い名前だ。由来があるんじゃないのか?」
「四字熟語の”万里一空”だって言っていたよ。世界の全ては、同じひとつの空の下にある。どこまでも同じひとつの目標を見据え、たゆまぬ努力を続けるっていう言葉だよ」
「良い名前だ」
「そうだよね。俺の名前は、”夏の大三角”から付けて、夏樹なんだ。黒崎さんの名前は、お母さんが付けてくれたの?」
「いや、母方の祖父だ」
「お母さんってモデルさんだったんだよね?いくつからやっていたのかな?ずっと続けていたの?」
「17歳からモデルをやっていたそうだ。親父と付き合い始めたのが、21歳のはずだ。俺が生まれた後、やめている」
「お父さんって、いくつ?」
「今年で78歳だ」
「22歳の年の差じゃん。けっこうあるね」
「父の愛人の一人だった。年の差があるのは母だけだ。母と結婚後は愛人を作っていないそうだ」
「最後の人なんだね……」
「そういう事だろう。父にとっては最後の相手でも、お互いに愛情があるから再婚したわけじゃないようだ。俺のことを手元で育てたいから、父は再婚を考えたそうだ。親子らしい会話をしたことはない。よく話はした。質問に対して答えを返した。その繰り返しだった」
「それで、今の黒崎さんがいるんだね。その話し方って、似ているよ。俺、あんたと話していて、そう思うことがあるもん」
「似ているのかもしれない」
黒崎の目が悲しそうな色に変わった。お父さんとの共通点があることが嬉しくないようだ。思い空気に変わったから、空気を変えたいと思った。この砂浜のどこかに座って話したい。でも、黒崎は一人になりたいように感じた。
「そこのコンビニで飲み物を買ってくるよ。温かい方がいい?」
「一緒に行く」
「いいから。温かい方と冷たい方、両方買うから。じゃあね」
黒崎の返事を待たずに走った。これなら黒崎が止める間が無い。彼を一人にしてあげられる。この作戦は今後も使えそうだ。でも、心配をかけるから、すぐに戻ってこよう。短時間でも一人にさせられたらいいと思った。
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