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12-7(黒崎視点)
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16時。
今、母と話をしている。そろそろ帰ろうかと母と頷き合ったところだ。現実感があるようで、そうでもない。母と向かい合って話すことは、もう無いだろうと思っていた。離れていた間の時間を埋めることは出来ないが、思い出を共有することは出来る。
母と話している間、二葉が朝陽を叱りつけた声が聞こえてきた。彼らの空気がおかしいことに気づき、母とそばに行こうとした時、二葉から強く止められた。そして、夏樹が朝陽と話し始めた。その後、彼らのテーブルからは賑やかな笑い声が聞こえるようになり、俺も母も安心した。
二葉がアンを抱き上げて連れて来ると、夏樹が朝陽の手を引いて来た。朝陽の強張った顔が優しくなり、俺の方を見て照れくさそうにした。
こうして会う前に、二葉の名前は知っていた。企業主催のビジネスコンテストに参加し、賞を取り、名前を見たことがあるからだ。黒崎製菓主催の分で2位を獲ったのは、去年の11月のことだ。父が二葉の名前を耳にし、大学を通じて、黒崎製菓への入社エントリーの誘いをかけたと聞いている。その返事がどうだったのかは聞いていない。母の前の夫が社長を務める会社が嫌では無いかと思った。
(父の子だろう。よく似ている……)
二葉の戸籍に書かれている実父欄は『黒崎隆』になっている。倉口とは養子縁組をし、養女になっている。当時、女性は6か月の再婚禁止期間があった。その間に生まれた子は、前の夫の子供になる。本当の父親は倉口だろう。二葉はどんな気持ちだろう。しかし、俺は二葉を見たとき、戸籍にある通り、父の子供ではないかと思った。父によく似ているからだ。
母とコーヒーを飲みながら、夏樹達のテーブルを眺め合った。気が合ったのか、笑い声が聞こえ続けている。
「夏樹がよく話している。珍しいことだ」
「人見知りをするのね?二葉も同じなの。気が合ってよかった」
「俺もそうだった。知っておくべきだから、ストレートに質問したい。構わないか?」
「ええ。心の整理がついているわ」
「お父さんの娘だろう?」
「そうよ。そんな顔をしないで」
やはりそうだったのかと驚いた。父は実の娘だと分かっているだろうか。母は知っているはずだと言っていた。これ以上は人を恨みたくないが、二葉を妊娠した時の状況を想像した。父が関係が壊れた母を無理なことをしたのではないかと思った。そうであれば、母がかわいそうだと思った。他に男がいる母を恨んだはずが、消えてなくなる感覚がした。そして、母に二葉が事実を知っているのか聞いておきたくなった。
「二葉は知っているのか?」
「ええ。17歳の誕生日の後に打ち明けて、本人は納得できたって言っていたわ。ああして座っていると、圭一がいるみたい。男の子みたいでしょう?」
「女の子にしか見えないぞ」
「本人は女の子らしい服装が苦手みたい。私が選んだ服なら、スカートをはいてくれるようになったの」
「付き合っている相手はいるのか?」
「いいえ。全く興味がないの。同年代の子とは話が合わなくて。バイト先では上手くいっているみたい。お店を始めたいそうよ。小さい頃から話していたの」
「朝陽はどういう子だ?部活をやっているのか?」
「陸上部を一か月でやめたわ。何でも続かなくて。やめるなら最初から入るなって、二葉が叱っているのよ。朝陽は優しい子だから、それでいいと思う」
「ママ。具合が悪いのか?」
「大丈夫よ」
「無理をするな。そろそろ帰ろう。また会える」
母が疲れを見せ始めた。俺の方から帰ろうと促したが、もう会えない気がするからと言って拒まれた。そうならない。来月また会おうと約束し、帰り支度を始めた。
今、母と話をしている。そろそろ帰ろうかと母と頷き合ったところだ。現実感があるようで、そうでもない。母と向かい合って話すことは、もう無いだろうと思っていた。離れていた間の時間を埋めることは出来ないが、思い出を共有することは出来る。
母と話している間、二葉が朝陽を叱りつけた声が聞こえてきた。彼らの空気がおかしいことに気づき、母とそばに行こうとした時、二葉から強く止められた。そして、夏樹が朝陽と話し始めた。その後、彼らのテーブルからは賑やかな笑い声が聞こえるようになり、俺も母も安心した。
二葉がアンを抱き上げて連れて来ると、夏樹が朝陽の手を引いて来た。朝陽の強張った顔が優しくなり、俺の方を見て照れくさそうにした。
こうして会う前に、二葉の名前は知っていた。企業主催のビジネスコンテストに参加し、賞を取り、名前を見たことがあるからだ。黒崎製菓主催の分で2位を獲ったのは、去年の11月のことだ。父が二葉の名前を耳にし、大学を通じて、黒崎製菓への入社エントリーの誘いをかけたと聞いている。その返事がどうだったのかは聞いていない。母の前の夫が社長を務める会社が嫌では無いかと思った。
(父の子だろう。よく似ている……)
二葉の戸籍に書かれている実父欄は『黒崎隆』になっている。倉口とは養子縁組をし、養女になっている。当時、女性は6か月の再婚禁止期間があった。その間に生まれた子は、前の夫の子供になる。本当の父親は倉口だろう。二葉はどんな気持ちだろう。しかし、俺は二葉を見たとき、戸籍にある通り、父の子供ではないかと思った。父によく似ているからだ。
母とコーヒーを飲みながら、夏樹達のテーブルを眺め合った。気が合ったのか、笑い声が聞こえ続けている。
「夏樹がよく話している。珍しいことだ」
「人見知りをするのね?二葉も同じなの。気が合ってよかった」
「俺もそうだった。知っておくべきだから、ストレートに質問したい。構わないか?」
「ええ。心の整理がついているわ」
「お父さんの娘だろう?」
「そうよ。そんな顔をしないで」
やはりそうだったのかと驚いた。父は実の娘だと分かっているだろうか。母は知っているはずだと言っていた。これ以上は人を恨みたくないが、二葉を妊娠した時の状況を想像した。父が関係が壊れた母を無理なことをしたのではないかと思った。そうであれば、母がかわいそうだと思った。他に男がいる母を恨んだはずが、消えてなくなる感覚がした。そして、母に二葉が事実を知っているのか聞いておきたくなった。
「二葉は知っているのか?」
「ええ。17歳の誕生日の後に打ち明けて、本人は納得できたって言っていたわ。ああして座っていると、圭一がいるみたい。男の子みたいでしょう?」
「女の子にしか見えないぞ」
「本人は女の子らしい服装が苦手みたい。私が選んだ服なら、スカートをはいてくれるようになったの」
「付き合っている相手はいるのか?」
「いいえ。全く興味がないの。同年代の子とは話が合わなくて。バイト先では上手くいっているみたい。お店を始めたいそうよ。小さい頃から話していたの」
「朝陽はどういう子だ?部活をやっているのか?」
「陸上部を一か月でやめたわ。何でも続かなくて。やめるなら最初から入るなって、二葉が叱っているのよ。朝陽は優しい子だから、それでいいと思う」
「ママ。具合が悪いのか?」
「大丈夫よ」
「無理をするな。そろそろ帰ろう。また会える」
母が疲れを見せ始めた。俺の方から帰ろうと促したが、もう会えない気がするからと言って拒まれた。そうならない。来月また会おうと約束し、帰り支度を始めた。
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