恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖

文字の大きさ
117 / 164

12-7(黒崎視点)

しおりを挟む
 16時。

 今、母と話をしている。そろそろ帰ろうかと母と頷き合ったところだ。現実感があるようで、そうでもない。母と向かい合って話すことは、もう無いだろうと思っていた。離れていた間の時間を埋めることは出来ないが、思い出を共有することは出来る。

 母と話している間、二葉が朝陽を叱りつけた声が聞こえてきた。彼らの空気がおかしいことに気づき、母とそばに行こうとした時、二葉から強く止められた。そして、夏樹が朝陽と話し始めた。その後、彼らのテーブルからは賑やかな笑い声が聞こえるようになり、俺も母も安心した。

 二葉がアンを抱き上げて連れて来ると、夏樹が朝陽の手を引いて来た。朝陽の強張った顔が優しくなり、俺の方を見て照れくさそうにした。

 こうして会う前に、二葉の名前は知っていた。企業主催のビジネスコンテストに参加し、賞を取り、名前を見たことがあるからだ。黒崎製菓主催の分で2位を獲ったのは、去年の11月のことだ。父が二葉の名前を耳にし、大学を通じて、黒崎製菓への入社エントリーの誘いをかけたと聞いている。その返事がどうだったのかは聞いていない。母の前の夫が社長を務める会社が嫌では無いかと思った。

(父の子だろう。よく似ている……)

 二葉の戸籍に書かれている実父欄は『黒崎隆』になっている。倉口とは養子縁組をし、養女になっている。当時、女性は6か月の再婚禁止期間があった。その間に生まれた子は、前の夫の子供になる。本当の父親は倉口だろう。二葉はどんな気持ちだろう。しかし、俺は二葉を見たとき、戸籍にある通り、父の子供ではないかと思った。父によく似ているからだ。

 母とコーヒーを飲みながら、夏樹達のテーブルを眺め合った。気が合ったのか、笑い声が聞こえ続けている。

「夏樹がよく話している。珍しいことだ」
「人見知りをするのね?二葉も同じなの。気が合ってよかった」
「俺もそうだった。知っておくべきだから、ストレートに質問したい。構わないか?」
「ええ。心の整理がついているわ」
「お父さんの娘だろう?」
「そうよ。そんな顔をしないで」

 やはりそうだったのかと驚いた。父は実の娘だと分かっているだろうか。母は知っているはずだと言っていた。これ以上は人を恨みたくないが、二葉を妊娠した時の状況を想像した。父が関係が壊れた母を無理なことをしたのではないかと思った。そうであれば、母がかわいそうだと思った。他に男がいる母を恨んだはずが、消えてなくなる感覚がした。そして、母に二葉が事実を知っているのか聞いておきたくなった。

「二葉は知っているのか?」
「ええ。17歳の誕生日の後に打ち明けて、本人は納得できたって言っていたわ。ああして座っていると、圭一がいるみたい。男の子みたいでしょう?」
「女の子にしか見えないぞ」
「本人は女の子らしい服装が苦手みたい。私が選んだ服なら、スカートをはいてくれるようになったの」
「付き合っている相手はいるのか?」
「いいえ。全く興味がないの。同年代の子とは話が合わなくて。バイト先では上手くいっているみたい。お店を始めたいそうよ。小さい頃から話していたの」
「朝陽はどういう子だ?部活をやっているのか?」
「陸上部を一か月でやめたわ。何でも続かなくて。やめるなら最初から入るなって、二葉が叱っているのよ。朝陽は優しい子だから、それでいいと思う」
「ママ。具合が悪いのか?」
「大丈夫よ」
「無理をするな。そろそろ帰ろう。また会える」
 
 母が疲れを見せ始めた。俺の方から帰ろうと促したが、もう会えない気がするからと言って拒まれた。そうならない。来月また会おうと約束し、帰り支度を始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

猫カフェの溺愛契約〜獣人の甘い約束〜

なの
BL
人見知りの悠月――ゆづきにとって、叔父が営む保護猫カフェ「ニャンコの隠れ家」だけが心の居場所だった。 そんな悠月には昔から猫の言葉がわかる――という特殊な能力があった。 しかし経営難で閉店の危機に……
愛する猫たちとの別れが迫る中、運命を変える男が現れた。 猫のような美しい瞳を持つ謎の客・玲音――れお。 
彼が差し出したのは「店を救う代わりに、お前と契約したい」という甘い誘惑。 契約のはずが、いつしか年の差を超えた溺愛に包まれて――
甘々すぎる生活に、だんだんと心が溶けていく悠月。 だけど玲音には秘密があった。
満月の夜に現れる獣の姿。猫たちだけが知る彼の正体、そして命をかけた契約の真実 「君を守るためなら、俺は何でもする」 これは愛なのか契約だけなのか……
すべてを賭けた禁断の恋の行方は? 猫たちが見守る小さなカフェで紡がれる、奇跡のハッピーエンド。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―

なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。 その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。 死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。 かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。 そして、孤独だったアシェル。 凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。 だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。 生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

新緑の少年

東城
BL
大雨の中、車で帰宅中の主人公は道に倒れている少年を発見する。 家に連れて帰り事情を聞くと、少年は母親を刺したと言う。 警察に連絡し同伴で県警に行くが、少年の身の上話に同情し主人公は少年を一時的に引き取ることに。 悪い子ではなく複雑な家庭環境で追い詰められての犯行だった。 日々の生活の中で交流を深める二人だが、ちょっとしたトラブルに見舞われてしまう。 少年と関わるうちに恋心のような慈愛のような不思議な感情に戸惑う主人公。 少年は主人公に対して、保護者のような気持ちを抱いていた。 ハッピーエンドの物語。

海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖
BL
☆久田悠人(18)は大学1年生。そそかっしい自分の性格が前向きになれればと思い、ロックバンドのギタリストをしている。会社員の早瀬裕理(30)と恋人同士になり、同棲生活をスタートさせた。別居生活の長い両親が巻き起こす出来事に心が揺さぶられ、早瀬から優しく包み込まれる。 次第に悠人は早瀬が無理に自分のことを笑わせてくれているのではないかと気づき始める。子供の頃から『いい子』であろうとした早瀬に寄り添い、彼の心を開く。また、早瀬の幼馴染み兼元恋人でミュージシャンの佐久弥に会い、心が揺れる。そして、バンドコンテストに参加する。甘々な二人が永遠の誓いを立てるストーリー。眠れる森の星空少年~あの日のキミの続編です。 <作品時系列>「眠れる森の星空少年~あの日のキミ」→本作「海のそばの音楽少年~あの日のキミ」

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

処理中です...