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マンションのロビーを歩いている。一人でアンを連れて歩くのは3回目で、久しぶりだと思った。いつも黒崎も一緒だからだ。外に出る前に受付の人と話して、散歩に行ってくると声をかけた。黒崎との約束だからだ。
「そこまで危ない場所じゃないのにな。ここに住んでいる人は優しそうだし。アンも怖くないよね?え?パパの方が怖いけど、言わないことにしているんだって?……気を遣っていたのか。優しい子だねーー。今日はカモミールの方へ行ってみようか」
この間、ハーブ類が一面に生えている場所を見つけた。小高い丘のようになっている。通っている人から見えやすいし、急な坂ではないから危なくない。明日、黒崎をそこへ連れて行きたいと思った。
ラインを開くと、母からのメッセージが入っていた。今日の夕方までに電話をして来なさいと言う内容だった。昨日は万理から電話が入った。その時の会話を思い出して、胸の奥が痛くなった。
(……お兄ちゃん。心臓の検診を受けていないよね?お母さん達は気づいているよ。このままだと黒崎さんへ話すしかないの。嫌だよね?)
(ごめん……。明日の夜に話すって約束する。沙耶さんが遊びに来るから、その後がいい)
(分かった。お母さん達へ伝える。体のことを心配しているんだからね。言い出せないことを怒っていないから……)
母からの電話は励ましだと分かる。そういう文面になっている。怒らないから体調のことを聞かせなさいと書いてあった。今から母に電話をかけて。まずは謝ろうと思った。すーっと深呼吸して画面をタップすると、すぐに母が出た。大あくびをしながらだったから、緊張感が無くなって良かったと思った。黒崎から電話で近況を知らせてもらっているから、心臓の検診ことを黙っていることは、様子を見ていたそうだ。父と伊吹は黒崎のことを信用していることも言っているそうだ。電話で話していると、母から心配されていたことが分かった。
(……何も怖くないから話してあげなさい。黒崎さんこそ、あんたのことを聞きたいはずなのよ)
「……うん。もっと過保護にされるかも。森本にも聞かれたよ。話していないだろうって。今晩、話すよ。どうだったか、夜にラインを入れるよ。話したってことだけでも。詳しいことは明日電話するよ。ありがとう」
(緊張しなくて構わないと思うわよ。大丈夫だから、話しておきなさいね)
「うん」
電話が終わった後、アンを抱き直してエントランスを出た。
もうすぐで10月が終わるのか。空を見上げると晴れ渡っているのに、落ち着いた色をしていた。これから段々と寒くなり、12月を迎える。外は寒くても、黒崎と手を繋いでいれば温かい。
煉瓦木目の舗装された道を通り抜けると、銀杏並木へ出た。たった一日でこんなに色が変わるのかと、ぼんやりして地面を眺めた。まるで黄色の絨毯のようだ。ここを通ればドッグランがあるが、あまりに綺麗すぎて、踏んで行くのが勿体ない。
「……カモミールの方へ行くんだった。アンーー、先に行かないでよ。待ってよーー」
ここを通れば近道だが、ゆっくり散歩できるから丁度いい。ドッグランの看板を横切り、奥の方に見えている小さな丘へと向かった。この場所からでも、カモミールが咲いているのが見える。ユーカリの方へ着いた時、黒崎に電話をかけたい。
「けっこう生い茂っているなー。抱っこするよ。危ないからだよ……」
背の高い草の場所は心配だから、アンのことを抱き上げて登った。そして、だんだんとハーブの匂いが近づき、風が吹いて来たことで包み込まれた。
「そこまで危ない場所じゃないのにな。ここに住んでいる人は優しそうだし。アンも怖くないよね?え?パパの方が怖いけど、言わないことにしているんだって?……気を遣っていたのか。優しい子だねーー。今日はカモミールの方へ行ってみようか」
この間、ハーブ類が一面に生えている場所を見つけた。小高い丘のようになっている。通っている人から見えやすいし、急な坂ではないから危なくない。明日、黒崎をそこへ連れて行きたいと思った。
ラインを開くと、母からのメッセージが入っていた。今日の夕方までに電話をして来なさいと言う内容だった。昨日は万理から電話が入った。その時の会話を思い出して、胸の奥が痛くなった。
(……お兄ちゃん。心臓の検診を受けていないよね?お母さん達は気づいているよ。このままだと黒崎さんへ話すしかないの。嫌だよね?)
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(分かった。お母さん達へ伝える。体のことを心配しているんだからね。言い出せないことを怒っていないから……)
母からの電話は励ましだと分かる。そういう文面になっている。怒らないから体調のことを聞かせなさいと書いてあった。今から母に電話をかけて。まずは謝ろうと思った。すーっと深呼吸して画面をタップすると、すぐに母が出た。大あくびをしながらだったから、緊張感が無くなって良かったと思った。黒崎から電話で近況を知らせてもらっているから、心臓の検診ことを黙っていることは、様子を見ていたそうだ。父と伊吹は黒崎のことを信用していることも言っているそうだ。電話で話していると、母から心配されていたことが分かった。
(……何も怖くないから話してあげなさい。黒崎さんこそ、あんたのことを聞きたいはずなのよ)
「……うん。もっと過保護にされるかも。森本にも聞かれたよ。話していないだろうって。今晩、話すよ。どうだったか、夜にラインを入れるよ。話したってことだけでも。詳しいことは明日電話するよ。ありがとう」
(緊張しなくて構わないと思うわよ。大丈夫だから、話しておきなさいね)
「うん」
電話が終わった後、アンを抱き直してエントランスを出た。
もうすぐで10月が終わるのか。空を見上げると晴れ渡っているのに、落ち着いた色をしていた。これから段々と寒くなり、12月を迎える。外は寒くても、黒崎と手を繋いでいれば温かい。
煉瓦木目の舗装された道を通り抜けると、銀杏並木へ出た。たった一日でこんなに色が変わるのかと、ぼんやりして地面を眺めた。まるで黄色の絨毯のようだ。ここを通ればドッグランがあるが、あまりに綺麗すぎて、踏んで行くのが勿体ない。
「……カモミールの方へ行くんだった。アンーー、先に行かないでよ。待ってよーー」
ここを通れば近道だが、ゆっくり散歩できるから丁度いい。ドッグランの看板を横切り、奥の方に見えている小さな丘へと向かった。この場所からでも、カモミールが咲いているのが見える。ユーカリの方へ着いた時、黒崎に電話をかけたい。
「けっこう生い茂っているなー。抱っこするよ。危ないからだよ……」
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