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14-1 結んだ約束(夏樹視点)
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10月30日、土曜日。22時。
目を覚ますと、マンションの寝室のベッドで寝ていた。枕元ではアンが寝息を立てている。今日、俺は散歩中に倒れて、救急車で病院に搬送された。その時に一度目を覚ました。まだ胸が苦しかったけれど、今は落ち着いている。病院で検査と診察を終えた後、入院せずに、連れて帰ってもらった。壁の時計を見ると、こんなに時間が経っていたのかと驚いた。さっき寝たのは19時ぐらいだった。
「アン……。今日はありがとう。ごめんね。怖い思いをさせたね……」
アンが吠えて、俺のことを探しに来てくれた黒崎と沙耶さんに居場所を教えてくれた。まるで泣いているような目をして、俺に寄り添ってくれていたそうだ。今はこうして体を撫でて、安心させることが出来る。アンが俺と同じタイミングで目を覚ました。そっと抱き上げて膝の上に座らせた。すると、軽く尻尾を振って、鼻先をくっつけて来た。
「ありがとう。晩ご飯は何を食べたの?黒崎さんは?」
コンコン……。寝室のドアがノックされた後、沙耶さんが入って来た。ずっと付き添ってくれている。疲れていると思うのに、遠慮しないでねと言い切られては、甘えるしかない。心強いから嬉しい。
「喉が渇いたでしょう。白湯を用意して来たわ。卵のおかゆ、鶏ささみのおかゆ、どっちがいい?両方、用意しているのよ。半分ずつにしようか?」
「ありがとう。作ってくれたの?」
「そうよー。向こうで話しているから、その間に食べておきましょう。発作じゃなくて良かった……。過呼吸を起こしたのは、初めてじゃなかったのね。こうして話ができるから、まずは良かったとしましょう。ご両親も同じ気持ちよ。黒崎君のことを叱っていないし、謝られてしまったわ。悪いのは黒崎君の方なのに」
「そんなことないよ……」
白湯を飲んだ後、赤いカーディガンを枕元に置き直した。これは祖母のマデリンがらプレゼントされた物で、小学3年生の時に心臓のカテーテル治療をする前日の夜、病室のベッドで掛けて寝たことがある。赤は赤ちゃんの生命力の色だ。胸の上に置くことで、血の代わりになりますように。だから、身体からは流さないで欲しいという願いを込められている。実家から持ってきていた。黒崎が両親から話を聞いて、掛けてくれたようだ。
いつか使う日がくるかもしれないと思っていた。なのに、検診を受けずに、体調が崩れたことを隠していた。風邪気味ぐらいに思っていたからだ。
沙耶さんがベッドの縁に座った。小さな声で良いから少し話したいのだと言った。もちろん俺は頷いた。
「色んな事があったから、精神的にも疲れたんでしょう。一人で外出できないことも、ご両親には内緒にしていたんでしょう。冗談に受け取られるぐらいの言い方とか。あいつ、猛反省しているわよ」
「不安が消えるならいいって、思っていたんだ」
「こういう例えがあるわ。自分が我慢すればい。自分が悪いって、思ったんじゃないかしら。ダメ男を見捨てられない典型よ。本人は自覚しているからね」
「俺の方こそ、何も分かっていないよ」
「あんな男のそばにいてくれてありがとう」
「大好きなんだ」
「一度ぐらいは、大嫌いになるといいわ。黒崎君は明日から休みを取ったそうよ。あなたが望む方法で介抱されてね。……明日は万理ちゃんと食事に行くの。行ってきてもいいかしら?それとも、ここに来てもらう?」
「行ってきてよ。万理が喜んでいると思うよ。ありがとう。黒崎さんの様子を見て来るよ。謝って来る」
「ううん。まだベッドにいてね」
「そっか。うん……」
沙耶さんから止められて、ベッドに戻った。まさか黒崎との同棲を止めさせられるだろうか。その覚悟をして、白湯を飲み続けた。空になった後、カップを握りしめて待った。
シーツばかりを見つめていると、沙耶さんが小さな笑い声を立てた。心配することはないと言いながら。すると、廊下から話し声が聞こえて来た。両親と万理の話し声だった。
「お父さん達だね。このまま一緒に暮らしてもいいのかな?」
「どうかしらねー?」
「あれ?こっちに来ないね?」
「お許しが出たのねーー」
「……黒崎さんだよね?」
「とうとう来たのねーー」
ドアの向こうから物音がするのに、なかなか入って来ないから心配になった。早く顔が見たい。ここへ帰る時に抱き上げられていたが、話しかけられる雰囲気がなくて黙っていた。
まずは先に謝り、お礼を伝える。これからどうしていくのかを話す。検診を受けること、体調が悪い時は、隠さずに話すこと。これらに絞り込んでおいた。これでよしと呼吸を整えて黒崎が入ってくるのを待った。でも、入ってこないから心配になった。
「黒崎さん?どうしたの!?」
「夏樹君。まだ起き上がらないでね」
「ダメだよ。泣いているのかも!黒崎さん!」
ドアの向こうで立ち止まってほしくない。もう待っているのをやめた。俺の方から迎えに行けばいいと思った。
目を覚ますと、マンションの寝室のベッドで寝ていた。枕元ではアンが寝息を立てている。今日、俺は散歩中に倒れて、救急車で病院に搬送された。その時に一度目を覚ました。まだ胸が苦しかったけれど、今は落ち着いている。病院で検査と診察を終えた後、入院せずに、連れて帰ってもらった。壁の時計を見ると、こんなに時間が経っていたのかと驚いた。さっき寝たのは19時ぐらいだった。
「アン……。今日はありがとう。ごめんね。怖い思いをさせたね……」
アンが吠えて、俺のことを探しに来てくれた黒崎と沙耶さんに居場所を教えてくれた。まるで泣いているような目をして、俺に寄り添ってくれていたそうだ。今はこうして体を撫でて、安心させることが出来る。アンが俺と同じタイミングで目を覚ました。そっと抱き上げて膝の上に座らせた。すると、軽く尻尾を振って、鼻先をくっつけて来た。
「ありがとう。晩ご飯は何を食べたの?黒崎さんは?」
コンコン……。寝室のドアがノックされた後、沙耶さんが入って来た。ずっと付き添ってくれている。疲れていると思うのに、遠慮しないでねと言い切られては、甘えるしかない。心強いから嬉しい。
「喉が渇いたでしょう。白湯を用意して来たわ。卵のおかゆ、鶏ささみのおかゆ、どっちがいい?両方、用意しているのよ。半分ずつにしようか?」
「ありがとう。作ってくれたの?」
「そうよー。向こうで話しているから、その間に食べておきましょう。発作じゃなくて良かった……。過呼吸を起こしたのは、初めてじゃなかったのね。こうして話ができるから、まずは良かったとしましょう。ご両親も同じ気持ちよ。黒崎君のことを叱っていないし、謝られてしまったわ。悪いのは黒崎君の方なのに」
「そんなことないよ……」
白湯を飲んだ後、赤いカーディガンを枕元に置き直した。これは祖母のマデリンがらプレゼントされた物で、小学3年生の時に心臓のカテーテル治療をする前日の夜、病室のベッドで掛けて寝たことがある。赤は赤ちゃんの生命力の色だ。胸の上に置くことで、血の代わりになりますように。だから、身体からは流さないで欲しいという願いを込められている。実家から持ってきていた。黒崎が両親から話を聞いて、掛けてくれたようだ。
いつか使う日がくるかもしれないと思っていた。なのに、検診を受けずに、体調が崩れたことを隠していた。風邪気味ぐらいに思っていたからだ。
沙耶さんがベッドの縁に座った。小さな声で良いから少し話したいのだと言った。もちろん俺は頷いた。
「色んな事があったから、精神的にも疲れたんでしょう。一人で外出できないことも、ご両親には内緒にしていたんでしょう。冗談に受け取られるぐらいの言い方とか。あいつ、猛反省しているわよ」
「不安が消えるならいいって、思っていたんだ」
「こういう例えがあるわ。自分が我慢すればい。自分が悪いって、思ったんじゃないかしら。ダメ男を見捨てられない典型よ。本人は自覚しているからね」
「俺の方こそ、何も分かっていないよ」
「あんな男のそばにいてくれてありがとう」
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「行ってきてよ。万理が喜んでいると思うよ。ありがとう。黒崎さんの様子を見て来るよ。謝って来る」
「ううん。まだベッドにいてね」
「そっか。うん……」
沙耶さんから止められて、ベッドに戻った。まさか黒崎との同棲を止めさせられるだろうか。その覚悟をして、白湯を飲み続けた。空になった後、カップを握りしめて待った。
シーツばかりを見つめていると、沙耶さんが小さな笑い声を立てた。心配することはないと言いながら。すると、廊下から話し声が聞こえて来た。両親と万理の話し声だった。
「お父さん達だね。このまま一緒に暮らしてもいいのかな?」
「どうかしらねー?」
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「……黒崎さんだよね?」
「とうとう来たのねーー」
ドアの向こうから物音がするのに、なかなか入って来ないから心配になった。早く顔が見たい。ここへ帰る時に抱き上げられていたが、話しかけられる雰囲気がなくて黙っていた。
まずは先に謝り、お礼を伝える。これからどうしていくのかを話す。検診を受けること、体調が悪い時は、隠さずに話すこと。これらに絞り込んでおいた。これでよしと呼吸を整えて黒崎が入ってくるのを待った。でも、入ってこないから心配になった。
「黒崎さん?どうしたの!?」
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