恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖

文字の大きさ
126 / 164

14-3

しおりを挟む
  黒崎から名前を呼ばれて顔を上げると、目元や頬に温かいものが触れた。黒崎が涙を食べてしまったように感じた。とても優しい仕草だと思った。

「泣いてばかりだな」
「夢のない表現だね……。涙が綺麗だって言ってみればいいのに……」
「だからこそ、現実だ。夢のない言い方でも構わない。夢と現実の両方で繋がろう。教会でも礼拝堂でもないから、牧師がいない。立会人を頼んでおいた」
「沙耶さん……」

 沙耶さんがドアのそばに立っていた。静かに頷きながら、約束するのを見届けると言われた。一体どうしたのだろう。返事すらできないのに戸惑っていると、黒崎から両手を離されてしまった。

 すると、黒崎がそばにあるサイドテーブルから何かを取って、またテーブルの上に置いた。それは長方形のケースだった。それを黒崎が開くと、ネックレスが入っていた。そのチェーンには、指輪が通されていた。

「これは結婚指輪だ。お前の年だと恥ずかしいだろう。チェーンに通せば、身に着けてもらえるか?学校では恥ずかしいか?禁止だったか?」
「前は自由に着けてよかったけど、今は禁止なんだ。家の中で着けるよ」
「そうか」

 お互いに緊張しているのが分かり、急がないように静かに呼吸をした。二人分が重なったから、どっちの息遣いなのか分からない。黒崎が俺の肩に手をお置いた。指輪を着けてくれるようだ。それが嬉しくて、ドキドキしながら待った。

 ベッドに座ってもいいのにと声を掛けると、見上げさせてくれと言い返された。そして、小さく深呼吸をした後、もう一度見上げられた。迷いのない目であり、力がこもっていた。

「中山夏樹さん。僕と一緒に歩いて下さい」
「……幾久しく、よろしくお願いします」
「本当に高校三年生なのか?」
「……そうだよ。18歳の男の子だよ……っ」

 黒崎が笑っている気配がした。そして、チェーンから指輪が抜き取られた後、左手の薬指に通された。サイズが合っている。いつ計ったのだろうかと不思議に思った。身に着けたことが無いから、詳しいことが分からなくても、ピッタリだと分かった。

「寝ている間に計った。食事をした帰りに、ジュエリーショップの前で、指輪を眺めていただろう?公園へ寄った日だ」
「覚えているよ。あの時から考えてくれたの?」
「指輪を贈りたい。それだけを考えていた。結婚の誓いは、お前が倒れた後で生まれた考えだ。どう責任を取るか、お前のために、何ができるかを考えた。……誠意は伝わったか?こういう事は、目を逸らして伝えたくない」
「俺も同じ考えだよ。相手のことが見られないぐらいに緊張しているのが理想って言ったことがあったね。変なことに拘っていたよ。それもやっと分かったよ。ごめんね、ありがとう……っ」
「それはNOという返事か?謝られてばかりだ」

 黒崎が拗ねたような顔をしたのは一瞬で、すぐに大人の顔に戻った。見つめ合った先には、深い色の瞳がある。覗き込んで確認することはしない。それは信じていない行動だと、今の瞬間は感じたからだ。

「黒崎圭一さん。俺と一緒に歩いて下さい!」
「喜んでお受けします。……お前の返事が、まだだぞ。NOなのか?」
「YESだよ。よろしくお願いしますって言ったじゃん。意地悪するなよ……」
「そうか。誓いを立てる以上は、後戻りできない。いいのか?
「いいよ」

 お互いに深呼吸をした後、見つめ合って微笑んだ。何度も存在を確かめ合うように手を握られて、指輪と傷跡をさすられた。なんて優しい力だろうかと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖
BL
☆久田悠人(18)は大学1年生。そそかっしい自分の性格が前向きになれればと思い、ロックバンドのギタリストをしている。会社員の早瀬裕理(30)と恋人同士になり、同棲生活をスタートさせた。別居生活の長い両親が巻き起こす出来事に心が揺さぶられ、早瀬から優しく包み込まれる。 次第に悠人は早瀬が無理に自分のことを笑わせてくれているのではないかと気づき始める。子供の頃から『いい子』であろうとした早瀬に寄り添い、彼の心を開く。また、早瀬の幼馴染み兼元恋人でミュージシャンの佐久弥に会い、心が揺れる。そして、バンドコンテストに参加する。甘々な二人が永遠の誓いを立てるストーリー。眠れる森の星空少年~あの日のキミの続編です。 <作品時系列>「眠れる森の星空少年~あの日のキミ」→本作「海のそばの音楽少年~あの日のキミ」

新緑の少年

東城
BL
大雨の中、車で帰宅中の主人公は道に倒れている少年を発見する。 家に連れて帰り事情を聞くと、少年は母親を刺したと言う。 警察に連絡し同伴で県警に行くが、少年の身の上話に同情し主人公は少年を一時的に引き取ることに。 悪い子ではなく複雑な家庭環境で追い詰められての犯行だった。 日々の生活の中で交流を深める二人だが、ちょっとしたトラブルに見舞われてしまう。 少年と関わるうちに恋心のような慈愛のような不思議な感情に戸惑う主人公。 少年は主人公に対して、保護者のような気持ちを抱いていた。 ハッピーエンドの物語。

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

猫カフェの溺愛契約〜獣人の甘い約束〜

なの
BL
人見知りの悠月――ゆづきにとって、叔父が営む保護猫カフェ「ニャンコの隠れ家」だけが心の居場所だった。 そんな悠月には昔から猫の言葉がわかる――という特殊な能力があった。 しかし経営難で閉店の危機に……
愛する猫たちとの別れが迫る中、運命を変える男が現れた。 猫のような美しい瞳を持つ謎の客・玲音――れお。 
彼が差し出したのは「店を救う代わりに、お前と契約したい」という甘い誘惑。 契約のはずが、いつしか年の差を超えた溺愛に包まれて――
甘々すぎる生活に、だんだんと心が溶けていく悠月。 だけど玲音には秘密があった。
満月の夜に現れる獣の姿。猫たちだけが知る彼の正体、そして命をかけた契約の真実 「君を守るためなら、俺は何でもする」 これは愛なのか契約だけなのか……
すべてを賭けた禁断の恋の行方は? 猫たちが見守る小さなカフェで紡がれる、奇跡のハッピーエンド。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―

なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。 その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。 死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。 かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。 そして、孤独だったアシェル。 凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。 だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。 生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー

処理中です...