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14時30分。
遅めの昼ご飯を済ませて部屋へ戻った。すると、ベッドに広いカバーが掛けられたものが置かれていた。その手前にはハンガーに掛けられた服が並び、今夜着るものだと分かった。黒崎が用意した物だ。
支度する時間まで、部屋でゆっくり過ごした。明後日の飛行機で帰るから、明日一日は観光できる。どこへ行きたいのかは、ピックアップ済みだ。でも、黒崎が俺の体調を気にして、観光するのはまた今度にしようと言われた。勉強もしないといけないからだ。いつでも観光できる。連れて来てやると言われて、素直に頷いた。そして、俺達はベッドに寝転がり、いっぱい話をした。こういう時間がなかったから、家に帰った後も、一日のどこかで、話をする時間を作ろうと話し合った。
「夏樹。そろそろ時間だ」
「うん」
そろそろ支度をしようと言って黒崎が起き上がった。そして、俺はハンガーに掛けてあった服に着替えた。純白のレースが飾られたブラウスに、紺色のズボンだ。淡い紫色のボレロも羽織った。黒崎が選んだものだ。似合う物を選んでくれたから文句を言うのは悪いけれど、フリル付きは避けたかった。そして、気になることがある。メンズ物だろうかとという疑問だ。
「これってメンズ?レディース?どっち?」
「どちらでもない」
「汚したらどうしよう……」
「怜からの贈り物だ。もし飲み物をこぼしても、クリーニングへ出せばいい。念のために、もう一着用意してある」
「言っていたね。どんな服?」
部屋にカバー付きの何かが掛けられていた。カバーの下にあったのは振袖だった。深みのある赤い生地には、大輪の花と幾何学模様がデザインされている。これを俺が着るのかと驚いた。女性物だからだ。
「赤い着物、現代風の柄だ。怜は着物のデザインもやっている。個人的な趣味の範囲で、一般には出回っていない。これも贈り物だ。着付けができるスタッフを呼ぶ。まだ時間があるから着てみないか?散歩しよう」
「俺が男だって知ってるよね?」
「お前には、男物のイメージがない。女性物がよく似合うと思う」
「あのねえ……」
「こういう華やかな柄もいいだろう?」
「成人式の着物を選ぶ親みたいな発言をするなよっ」
「万理ちゃんのことか。着物を贈らせてもらいたい。古典的な柄が似合いそうだ。淡い色味がいい」
「俺には謝らないのかよ!」
「似合うからいいだろう?」
怒りと衝撃が同時にくると、人はこうなるのかと思う。 座ったまま足を上げて黒崎にケリを入れようとした。しかし、簡単に足首を掴まれて動きを制止されてしまった
「そう怒るな、その服を汚さなかったら着なくて済む」
「誰のせいだよ?こんなに怒らせておいて」
いくら文句を返したところで、無駄なことは分かっている。こっちがどれだけ反発しようが拗ねようが、それ自体が可愛いのだと、嬉しがっているからだ。
軽く持ち上げられた足首へキスをされた。大切なものに触れるかのように見えて、何も言えなくなった。靴を履かせてくれている間、なぜかお互いに無言のままでいた。黒崎から似合うと言われて微笑まれたことが嬉しくて、怒りが収まったからだ。これでは彼の言いなりだ。そう思いながらも、素直に靴を履かせてもらった。
遅めの昼ご飯を済ませて部屋へ戻った。すると、ベッドに広いカバーが掛けられたものが置かれていた。その手前にはハンガーに掛けられた服が並び、今夜着るものだと分かった。黒崎が用意した物だ。
支度する時間まで、部屋でゆっくり過ごした。明後日の飛行機で帰るから、明日一日は観光できる。どこへ行きたいのかは、ピックアップ済みだ。でも、黒崎が俺の体調を気にして、観光するのはまた今度にしようと言われた。勉強もしないといけないからだ。いつでも観光できる。連れて来てやると言われて、素直に頷いた。そして、俺達はベッドに寝転がり、いっぱい話をした。こういう時間がなかったから、家に帰った後も、一日のどこかで、話をする時間を作ろうと話し合った。
「夏樹。そろそろ時間だ」
「うん」
そろそろ支度をしようと言って黒崎が起き上がった。そして、俺はハンガーに掛けてあった服に着替えた。純白のレースが飾られたブラウスに、紺色のズボンだ。淡い紫色のボレロも羽織った。黒崎が選んだものだ。似合う物を選んでくれたから文句を言うのは悪いけれど、フリル付きは避けたかった。そして、気になることがある。メンズ物だろうかとという疑問だ。
「これってメンズ?レディース?どっち?」
「どちらでもない」
「汚したらどうしよう……」
「怜からの贈り物だ。もし飲み物をこぼしても、クリーニングへ出せばいい。念のために、もう一着用意してある」
「言っていたね。どんな服?」
部屋にカバー付きの何かが掛けられていた。カバーの下にあったのは振袖だった。深みのある赤い生地には、大輪の花と幾何学模様がデザインされている。これを俺が着るのかと驚いた。女性物だからだ。
「赤い着物、現代風の柄だ。怜は着物のデザインもやっている。個人的な趣味の範囲で、一般には出回っていない。これも贈り物だ。着付けができるスタッフを呼ぶ。まだ時間があるから着てみないか?散歩しよう」
「俺が男だって知ってるよね?」
「お前には、男物のイメージがない。女性物がよく似合うと思う」
「あのねえ……」
「こういう華やかな柄もいいだろう?」
「成人式の着物を選ぶ親みたいな発言をするなよっ」
「万理ちゃんのことか。着物を贈らせてもらいたい。古典的な柄が似合いそうだ。淡い色味がいい」
「俺には謝らないのかよ!」
「似合うからいいだろう?」
怒りと衝撃が同時にくると、人はこうなるのかと思う。 座ったまま足を上げて黒崎にケリを入れようとした。しかし、簡単に足首を掴まれて動きを制止されてしまった
「そう怒るな、その服を汚さなかったら着なくて済む」
「誰のせいだよ?こんなに怒らせておいて」
いくら文句を返したところで、無駄なことは分かっている。こっちがどれだけ反発しようが拗ねようが、それ自体が可愛いのだと、嬉しがっているからだ。
軽く持ち上げられた足首へキスをされた。大切なものに触れるかのように見えて、何も言えなくなった。靴を履かせてくれている間、なぜかお互いに無言のままでいた。黒崎から似合うと言われて微笑まれたことが嬉しくて、怒りが収まったからだ。これでは彼の言いなりだ。そう思いながらも、素直に靴を履かせてもらった。
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