恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖

文字の大きさ
146 / 164

15-17

しおりを挟む
 黒崎の方は気後れすることなく会話を楽しんでいる。パートナーとして相応しい振る舞いを見につけることが、今の自分に課せられたミッションだと思った。やるしかない。黒崎さんのために頑張る。まずはパーティーを乗り切ろうと思った。

 今、黒崎の同級生達に話しかけられた。俺のことは男だと分かっているそうだ。黒崎から促されて、自己紹介した。すると、同級生達から微笑みかけられた。

「遠くからでも目立っていたよ」 
「黒崎。こんな若い子と、どこで知り合ったんだ?悪いことを考えていたんじゃないのか?大丈夫?黒崎は悪い男だよ」 
「それはない」 
「……どうだかな?」 

 黒崎が首を振った。すると、同級生達達から囲まれるように話しかけられた。俺は笑顔を浮かべるのに必死で、顔が引きつっていたらどうしようかと思った。でも、その心配はなかったようで、彼らから自己紹介された。

「この先、お会いする機会があるでしょう。僕は高田と申します。黒崎君とは大学時代の友人です」 
「僕は近見です。よろしくお願いします」 
「よろしくお願いします」

 この場を乗り切ろうと思い、勇気を出して、笑顔を浮かべた。俺に話題を振られる度に、黒崎が代わりに答えてくれた。その繰り返しをするうちに、今居る輪の中に笑い声が立ち始めた。そして、やっと、楽しいと思えるようになった。

 すると今度は女性達のグループから声をかけられた。同級生達のグループが自然とバラけて、彼女達の輪の中に入った。俺の着物姿を褒めてくれた。みんな笑顔だ。黒崎が笑顔で質問に答えている中、俺も笑顔でいるようにした。

「お式は、いつ挙げられるんですか?」 
「計画中です。結婚の誓いは済ませましたよ」
「そうなんですね。おふたりのお子さんなら、きっと可愛らしいでしょうね?」 

 俺が女の子だと思っていたことが分かった。今の格好から判断すれば、勘違いしても仕方がないことだ。身長が175センチあるが、ここで話している人からは、モデルをしていると思われている。男女のカップルだと思い込み、二人が誓いを済ませたから、子供の話題を出した。そういうことだと思う。何気なく言ったことだと理解しているが、胸が締め付けられそうになった。

(黒崎さんのことを、お父さんにしてあげることが出来ないんだ。お母さんや兄弟、実家の家族、アン。家族を増やすことは出来ても、子供は無理なんだ……)

 男女のカップルでも、そうなれないことがある。でも、俺達の場合は最初から無理だということが、心に重くのし掛かった。緊張感が続いて疲れを感じて来た時、黒崎から肩を抱かれた。

「少し外へ出よう。疲れただろう」 
「うん……」 

 タイミングよく、人の輪から連れ出してくれた。中庭へ続くテラスへ出て、外の空気を吸ったことで、締め付けられた帯の苦しさが和らいだ。どうして疲れていることが分かったのだろうか。それを聞いてみると、黒崎が軽く頷いた。

「視線を一瞬だけ落としたからだ。見ていないわけがないだろう」 
「ああやって話していて、よく俺のことが見えるよね?」 
「気をつけているからだ。今は着物で帯が苦しいはずだから、余計にそうしている」 

 その苦しい帯を締めさせたのは、誰だよ?そう言い返したかったが、喧嘩をするわけにはいかない。今も立ち方に気をつけて、内股気味に立っている。こういう自分の性格が悲しい。

「慣れてきたのか?」 
「腹をくくったんだよ。こんな格好で出るなんて思わなかったけど。男女で出るものじゃないの?」 
「パートナー同士が男女とは限らない。指輪もしている。招待される機会が増えるはずだ。プレッシャーに感じたか?」
「少し疲れただけだよ……」 
「その椅子へ座ろう」 
「うん……」
 
 黒崎のことを見つめた。 スーツを着こなした経営者で、いずれは大きな企業のトップに就く存在だろう。こういう場で、慣れていない相手をエスコートすることも容易いことだ。遊園地のデートは、子供の遊びに付き合っただけだ。それに満足していた俺は、年相応だと思う。住む世界が遠くにあることを実感して、切なくなった。 

「プレッシャーに感じ無い方が嘘だろ?そろそろ行こうよ」
「本当にそう思ってるのか?」 
「そうだよ?明日は我儘を聞いてもらうよー」 

 気を取り直してそう答えると、軽く抱きしめるられた。部屋へ連れ戻されかけたから踏み留まり、困らせてしまった。じゃあスイーツを取りに行こう。その後で戻らせる。その譲歩案に頷くと、やっと腕の力を緩めてもらえた。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

猫カフェの溺愛契約〜獣人の甘い約束〜

なの
BL
人見知りの悠月――ゆづきにとって、叔父が営む保護猫カフェ「ニャンコの隠れ家」だけが心の居場所だった。 そんな悠月には昔から猫の言葉がわかる――という特殊な能力があった。 しかし経営難で閉店の危機に……
愛する猫たちとの別れが迫る中、運命を変える男が現れた。 猫のような美しい瞳を持つ謎の客・玲音――れお。 
彼が差し出したのは「店を救う代わりに、お前と契約したい」という甘い誘惑。 契約のはずが、いつしか年の差を超えた溺愛に包まれて――
甘々すぎる生活に、だんだんと心が溶けていく悠月。 だけど玲音には秘密があった。
満月の夜に現れる獣の姿。猫たちだけが知る彼の正体、そして命をかけた契約の真実 「君を守るためなら、俺は何でもする」 これは愛なのか契約だけなのか……
すべてを賭けた禁断の恋の行方は? 猫たちが見守る小さなカフェで紡がれる、奇跡のハッピーエンド。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―

なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。 その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。 死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。 かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。 そして、孤独だったアシェル。 凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。 だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。 生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

新緑の少年

東城
BL
大雨の中、車で帰宅中の主人公は道に倒れている少年を発見する。 家に連れて帰り事情を聞くと、少年は母親を刺したと言う。 警察に連絡し同伴で県警に行くが、少年の身の上話に同情し主人公は少年を一時的に引き取ることに。 悪い子ではなく複雑な家庭環境で追い詰められての犯行だった。 日々の生活の中で交流を深める二人だが、ちょっとしたトラブルに見舞われてしまう。 少年と関わるうちに恋心のような慈愛のような不思議な感情に戸惑う主人公。 少年は主人公に対して、保護者のような気持ちを抱いていた。 ハッピーエンドの物語。

海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖
BL
☆久田悠人(18)は大学1年生。そそかっしい自分の性格が前向きになれればと思い、ロックバンドのギタリストをしている。会社員の早瀬裕理(30)と恋人同士になり、同棲生活をスタートさせた。別居生活の長い両親が巻き起こす出来事に心が揺さぶられ、早瀬から優しく包み込まれる。 次第に悠人は早瀬が無理に自分のことを笑わせてくれているのではないかと気づき始める。子供の頃から『いい子』であろうとした早瀬に寄り添い、彼の心を開く。また、早瀬の幼馴染み兼元恋人でミュージシャンの佐久弥に会い、心が揺れる。そして、バンドコンテストに参加する。甘々な二人が永遠の誓いを立てるストーリー。眠れる森の星空少年~あの日のキミの続編です。 <作品時系列>「眠れる森の星空少年~あの日のキミ」→本作「海のそばの音楽少年~あの日のキミ」

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

処理中です...