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15-21(黒崎視点)
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21時。
ホテルの中庭にいる。夏樹が黙ったままだ。噴水の前のベンチに座り、夏樹のことを抱きしめた。着物を着せたのは、初めは冗談のつもりだった。パーティーが終わった後、ライトアップされている浅草寺へ連れて行くつもりだった。その時に着物を着るのを拒むなら、それでもいいと思っていた。
着物姿の夏樹を見たときには、不覚にも動揺した。凛とした雰囲気が着物に合い、夏樹の周りに人が集まってきた。あの場の空気の中で気丈に振る舞った。そうさせてしまった。全ては自分のエゴだ。彼の存在が大きすぎて持て余している。悲しい顔をさせたいわけではない。
今日は何かおかしい。未来の姿を突きつけられて、精神的な負担がかかったのだと思っていた。しかし、それだけではないと感じた。
この他に、何を悩んでいるのだろうか? ため息さえも聞き漏らさない自信がある。今日は全てを掴めなくて、もどかしい思いをしている。
着物姿の体を抱き寄せて、何度も頭を撫でていいる。静かな庭の中、穏やかに流れている噴水からの水音が響き渡っている。人形のように綺麗になっているが、表情までそうなったかのようだ。なるべく優しく話しかけた。 正直な答えが返ってくるなど期待していない。ただし、手がかりは掴める。
「さっきは何を考えていた?」
「疲れただけだよ。もう大丈夫だよ」
「違うだろう?」
「あんたの世界に入るのが不安なんだ。庶民的な家で育ったんだ。テレビで観るような世界は……、まだ難しいよ」
「嫌になったのか?」
「そんなことはないよ」
「お前を苦しめるつもりはない。これから先、全ての集まりに出席しなくて構わない。今夜はすまなかった」
「黒崎さん。そういうつもりで言ったんじゃないよ。努力するよ。どうしても難しくて困った時には、どんな風にしていくか、ちゃんと考えるから」
今まで接してきて分かったことだが、こういう時は、最後に出る言葉が本音だ。馴染むことが出来ないと判断した際には、何かを決断するという意味だ。最悪、別れようとしているのかもしれない。怖がらせないように、優しく励ました。
「よく頑張っている。初めてなのに驚いた。すぐに慣れるだろうから、不安に思うな。パートナーの存在は重要なんだぞ?俺を支えられるのは、お前しかいない」
夏樹の目が涙に濡れかけてきている。堪えたところでバレているのに。 さあ、どう答えるだろう? 急に表情を明るくさせた。目は沈んでいるのに。
「そうだよね。そろそろ戻ろうよ。スイーツを食べてないし」
あっさりとかわして話題を変えられた。これは拒絶だ。気づかない素振りで頭を撫でた。
「ゆっくり食べるといい。ルームサービスでも用意できるぞ?種類が限られているが、どれも評判のいいものだ」
「そうなんだね。楽しみだよ」
「会場内の分は、好きなものが多そうだ」
「俺の好きなタルト系が多かったから楽しみだよ」
一瞬だけ視線を落とした。疲れてきたのか。それは隠していることがあるからだ。そろそそろ場所を変えて、外へ連れ出そう。それから話をしよう。
「会場で食べた後、外へ出かけないか?」
「パーティーは?」
「もうすぐ終わるから構わない。浅草寺へ行こう。ライトアップされて綺麗だぞ?着物を着たままで、どうだ?」
「行くぞって言わないの?普段の強引さがないね」
「たまにはこういう日もある」
「うん、行きたい。せっかくだから、これを着たままで行くよ。そうだ。今、記念に写真を撮りたい」
パーティーの間だけだと言っていたのにか。 無理やり着物を着せられたのにか。 写真を撮られて嫌がっていたのに、自分の方から持ちかけてきた。夏樹らしくないと思った。
ホテルの中庭にいる。夏樹が黙ったままだ。噴水の前のベンチに座り、夏樹のことを抱きしめた。着物を着せたのは、初めは冗談のつもりだった。パーティーが終わった後、ライトアップされている浅草寺へ連れて行くつもりだった。その時に着物を着るのを拒むなら、それでもいいと思っていた。
着物姿の夏樹を見たときには、不覚にも動揺した。凛とした雰囲気が着物に合い、夏樹の周りに人が集まってきた。あの場の空気の中で気丈に振る舞った。そうさせてしまった。全ては自分のエゴだ。彼の存在が大きすぎて持て余している。悲しい顔をさせたいわけではない。
今日は何かおかしい。未来の姿を突きつけられて、精神的な負担がかかったのだと思っていた。しかし、それだけではないと感じた。
この他に、何を悩んでいるのだろうか? ため息さえも聞き漏らさない自信がある。今日は全てを掴めなくて、もどかしい思いをしている。
着物姿の体を抱き寄せて、何度も頭を撫でていいる。静かな庭の中、穏やかに流れている噴水からの水音が響き渡っている。人形のように綺麗になっているが、表情までそうなったかのようだ。なるべく優しく話しかけた。 正直な答えが返ってくるなど期待していない。ただし、手がかりは掴める。
「さっきは何を考えていた?」
「疲れただけだよ。もう大丈夫だよ」
「違うだろう?」
「あんたの世界に入るのが不安なんだ。庶民的な家で育ったんだ。テレビで観るような世界は……、まだ難しいよ」
「嫌になったのか?」
「そんなことはないよ」
「お前を苦しめるつもりはない。これから先、全ての集まりに出席しなくて構わない。今夜はすまなかった」
「黒崎さん。そういうつもりで言ったんじゃないよ。努力するよ。どうしても難しくて困った時には、どんな風にしていくか、ちゃんと考えるから」
今まで接してきて分かったことだが、こういう時は、最後に出る言葉が本音だ。馴染むことが出来ないと判断した際には、何かを決断するという意味だ。最悪、別れようとしているのかもしれない。怖がらせないように、優しく励ました。
「よく頑張っている。初めてなのに驚いた。すぐに慣れるだろうから、不安に思うな。パートナーの存在は重要なんだぞ?俺を支えられるのは、お前しかいない」
夏樹の目が涙に濡れかけてきている。堪えたところでバレているのに。 さあ、どう答えるだろう? 急に表情を明るくさせた。目は沈んでいるのに。
「そうだよね。そろそろ戻ろうよ。スイーツを食べてないし」
あっさりとかわして話題を変えられた。これは拒絶だ。気づかない素振りで頭を撫でた。
「ゆっくり食べるといい。ルームサービスでも用意できるぞ?種類が限られているが、どれも評判のいいものだ」
「そうなんだね。楽しみだよ」
「会場内の分は、好きなものが多そうだ」
「俺の好きなタルト系が多かったから楽しみだよ」
一瞬だけ視線を落とした。疲れてきたのか。それは隠していることがあるからだ。そろそそろ場所を変えて、外へ連れ出そう。それから話をしよう。
「会場で食べた後、外へ出かけないか?」
「パーティーは?」
「もうすぐ終わるから構わない。浅草寺へ行こう。ライトアップされて綺麗だぞ?着物を着たままで、どうだ?」
「行くぞって言わないの?普段の強引さがないね」
「たまにはこういう日もある」
「うん、行きたい。せっかくだから、これを着たままで行くよ。そうだ。今、記念に写真を撮りたい」
パーティーの間だけだと言っていたのにか。 無理やり着物を着せられたのにか。 写真を撮られて嫌がっていたのに、自分の方から持ちかけてきた。夏樹らしくないと思った。
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