恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖

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 用意してもらった部屋に入った。しっかり湯船で温まった後、ベッドに入った。黒崎がベッドに腰かけて、何度も頭を撫でてくれた。

「寒くないか?」 
「平気だよ。ありがとう。一階にも部屋があったんだね」
「ここはホテル関係者の控え室だ。大きなイベントがある時、支配人クラスが待機する。……あの場にいた人達にはこう伝えてある。遊んでいた男の子達が支配人から叱られて、家族が迎えに来た。何も壊していないし、怪我もしていない。泣いているから、仕方なく連れて来たということだ」
「そうなったの?」
「ああ。父がそう言ったからだ」
「俺、お父さんと話したんだよ」
「ロビーで話したことは知っている。実は、喧嘩の仲裁する間、お前の近くに友人に居てもらっていた。父が話しかけてきたら断るように頼んであったが、そうならなかった。父のことが怖くて止められなかったそうだ」

 その話を聞いて納得した。お父さんは周りの人から怖がられていたように見えた。優しい人なのにと思って不思議だった。

「納得できるよ。周りの人が逃げていたもん。気の毒でさ。そんなに見なくてもいいだろって。……あ、ノックされたよ」
「見て来る。父か……」

 部屋の扉がノックされた後、お父さんが入って来た。お礼を言うと、笑っていた。そして、黒崎と話し始めた。

「私のことを介抱してくれたんだよ。会話も楽しんでもらえた。ああいう楽しい時間を過ごせたのは、マデリン以来だ。……マデリンのお孫さんだろう?イギリス留学中に友達になった。忙しくて会えくなかったが……」
「どうして知っているの?」 
「学校から出てくるときに見た時、マデリンとにていたからだよ。彼女に君のことを聞いた。開明高校にそっくりな子がいると話したら、孫が通っていることを教えてくれた。マデリンの孫だからじゃなくて、君と話したかった。今日は、息子の事をよろしく頼みたいと、お願いに来たんだよ」 
「ありがとう。頬っぺたをつねったら痛かったよ」
「本当に面白い子だ。優しい。勇ましい。強さもある。遊んでいたところを見たかった。圭一、どうだった?」
「かっこよかった」
「そんなことないよ……」 

 暴力沙汰を褒められたことがないから嬉しかった。とても悪いことをしてしまった。そういう俺のことを見抜いたのか、お父さんから微笑みかけられた。

「晴海兄さんは、どうしている?」 
「部屋へ戻らせた。大した怪我じゃない。すまなかった」 

 眉間に皺を寄せて、悲しそうに呟いた。背の高い人なのに、すごく小さく見える。姿勢のいい後ろ姿も同じだ。お父さんの姿が、母方の祖父の姿と重なった。小さい頃、風呂で背中を流してあげたことがある。石鹸とタオルで洗っていた時、大きな背中だと思っていた。でも、去年、背中を流してあげるとずっと小さく見えた。優しく話しかけている黒崎を見て、俺と同じ事を思っているのかも知れないと思った。
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