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黒崎にとっては、お父さんは怖い人だったのだろう。黒崎は以前はお父さんを嫌っていると言っていた。嫌みも多かった。もしかすると、小さい頃からお父さんから嫌みを言われて影響されたのかも知れないと思った。それだったら大人になっても近寄りたく無いと思う。でも、お父さんは後悔している。黒崎の前で落ち込んでいるように見えた。こういう時はお節介をしたい。さっそく黒崎に声を掛けた。
「あの……。話してもいいかな?」
「ああ、構わない」
「余計なお世話だって分かってるよ。お父さんと仲直りした方が良いと思う。みんな、いつか天国へ行くんだ。後悔したまま行かないほうがいいよ。晴海お兄さんの話を聞いてあげてほしい。俺が言うのは変だけど……」
「夏樹。お前は優しいな……」
「黒崎さんはお母さんと再会した。お母さんのことを誤解をしていたことが分かったんだ。絡まった靴紐を解いているところだよ。急には無理だからね。今度はお父さんと話すべきだよ。黒崎さんは、今、お父さんと話しているし、お父さんからは俺のことをパートナーだと認めてもらえた」
「そうだな」
「晴海お兄さんには、誰かそばにいるのかな?一人で悩んでいるかも知れないよ?」
偽善者だと思われてもいい。思ったことを正直に言うのが信条だ。お父さんの目を見つめると、とても悲しそうだった。
「変なことを言ってごめんね。俺が言うのは変だよね?」
「いや……」
どうしてこんな事をしたのか分からない。気かつくと、お父さんの両手を握っていた。温かい手をしている。
「お父さんの手は温かいよ。血が通っているよ。すごく楽しく喋ってもらえた。俺は人見知りするんだ。でも、あんなに大笑いできたんだよ?お父さんはいい人だと思う。……誰が間違っているのか、正しいかどうかは重要かな?その時の状況で変化すると思う。そのケースは、ゼロとは言えない。そのことが良いか悪いかで考えたい。俺の意見だけど。……黒崎さんに聞いてほしいことがある。お父さんは俺のことを守ってくれたんだ。守るのは悪い事じゃないよ。……お父さんに聞いて欲しい。黒崎さんの左手には、点滴の跡がある。痛みを我慢して、ベッドの上で待ち続けたそうだよ。心の傷になっているよ。そこにいるのが嫌なんだ。手を引いてあげてよ。……でも、力が弱いよね?黒崎さんが手を引いてあげてね!……あ、失礼だったね。ごめんなさい」
余計な事を言ってしまった。すると、お父さんががそばにあったパイプ椅子に座った。どこから持って来たのだろう。この部屋にあるのが不思議だ。まるで、病室にいるかのようだ。
「病室みたいだな。あんたがスタッフから借りてきたのが意外だ」
「……座るだけだ。お前とは何も話せないと思った」
「25年越しの見舞いに来られた気分だ。兄さんに来てもらう方が嬉しかったに決まっている。気持ちだけで結構だ。もう後悔するな」
「圭一……」
「子供の頃は、あんたのことが怖かった。高校入学後は怖くなかった。見返してやろうとした。でも、晴海兄さんは、そういうタイプじゃないだろう」
「その通りだ。良かれと思って発破をかけていた」
「すぐには顔を合わせたくない。時間が必要だ。あんたはどうなんだ?」
「機会を作る……」
「そうか……」
会話が始まったと思えば無言になった。それを繰り返してはため息をつき、新しい話題が必要だと思った。何が好きなのか知らないし、黒崎も分からないだろう。会話の糸口を見つけて勢いがつけば、もっと話すと思う。
ふと、壁にかけてある着物が視界に入った。怜さんの事務所の人が取りに来て、クリーニングに出してくれるそうだ。会社が頼んでいる店がいいから、遠慮しないでくれと気遣われた。これを口実にしよう。
「あのさ……、怜さんが着物を取りに来てくれるんだ。2人で話したいから、黒崎さん達は散歩をして来てよ。万理が成人式に着るデザインの話だよー。頼まれたんだ。どんな柄がいいのかなって……」
「それなら、一緒に話す」
「……夏樹。無理をしなくて構わない。休んでおけ」
「今夜は天気がいい。黒崎さんに秋の星座を教えてあげてよ」
「……一人にしない。親父、またの機会にしよう」
「親子で話せよ~。分かったよ。俺も一緒に行くからさーー」
「……寝ておけ」
「君は休んでおきなさい」
「二人とも気が合うね……。もう大丈夫だろ?」
お父さんと黒崎が同時に同じ反応をしたのが面白くて、遠慮なく吹き出しって笑った。すると、二人が気まずそうにして、目を逸らし始めた。
「あの……。話してもいいかな?」
「ああ、構わない」
「余計なお世話だって分かってるよ。お父さんと仲直りした方が良いと思う。みんな、いつか天国へ行くんだ。後悔したまま行かないほうがいいよ。晴海お兄さんの話を聞いてあげてほしい。俺が言うのは変だけど……」
「夏樹。お前は優しいな……」
「黒崎さんはお母さんと再会した。お母さんのことを誤解をしていたことが分かったんだ。絡まった靴紐を解いているところだよ。急には無理だからね。今度はお父さんと話すべきだよ。黒崎さんは、今、お父さんと話しているし、お父さんからは俺のことをパートナーだと認めてもらえた」
「そうだな」
「晴海お兄さんには、誰かそばにいるのかな?一人で悩んでいるかも知れないよ?」
偽善者だと思われてもいい。思ったことを正直に言うのが信条だ。お父さんの目を見つめると、とても悲しそうだった。
「変なことを言ってごめんね。俺が言うのは変だよね?」
「いや……」
どうしてこんな事をしたのか分からない。気かつくと、お父さんの両手を握っていた。温かい手をしている。
「お父さんの手は温かいよ。血が通っているよ。すごく楽しく喋ってもらえた。俺は人見知りするんだ。でも、あんなに大笑いできたんだよ?お父さんはいい人だと思う。……誰が間違っているのか、正しいかどうかは重要かな?その時の状況で変化すると思う。そのケースは、ゼロとは言えない。そのことが良いか悪いかで考えたい。俺の意見だけど。……黒崎さんに聞いてほしいことがある。お父さんは俺のことを守ってくれたんだ。守るのは悪い事じゃないよ。……お父さんに聞いて欲しい。黒崎さんの左手には、点滴の跡がある。痛みを我慢して、ベッドの上で待ち続けたそうだよ。心の傷になっているよ。そこにいるのが嫌なんだ。手を引いてあげてよ。……でも、力が弱いよね?黒崎さんが手を引いてあげてね!……あ、失礼だったね。ごめんなさい」
余計な事を言ってしまった。すると、お父さんががそばにあったパイプ椅子に座った。どこから持って来たのだろう。この部屋にあるのが不思議だ。まるで、病室にいるかのようだ。
「病室みたいだな。あんたがスタッフから借りてきたのが意外だ」
「……座るだけだ。お前とは何も話せないと思った」
「25年越しの見舞いに来られた気分だ。兄さんに来てもらう方が嬉しかったに決まっている。気持ちだけで結構だ。もう後悔するな」
「圭一……」
「子供の頃は、あんたのことが怖かった。高校入学後は怖くなかった。見返してやろうとした。でも、晴海兄さんは、そういうタイプじゃないだろう」
「その通りだ。良かれと思って発破をかけていた」
「すぐには顔を合わせたくない。時間が必要だ。あんたはどうなんだ?」
「機会を作る……」
「そうか……」
会話が始まったと思えば無言になった。それを繰り返してはため息をつき、新しい話題が必要だと思った。何が好きなのか知らないし、黒崎も分からないだろう。会話の糸口を見つけて勢いがつけば、もっと話すと思う。
ふと、壁にかけてある着物が視界に入った。怜さんの事務所の人が取りに来て、クリーニングに出してくれるそうだ。会社が頼んでいる店がいいから、遠慮しないでくれと気遣われた。これを口実にしよう。
「あのさ……、怜さんが着物を取りに来てくれるんだ。2人で話したいから、黒崎さん達は散歩をして来てよ。万理が成人式に着るデザインの話だよー。頼まれたんだ。どんな柄がいいのかなって……」
「それなら、一緒に話す」
「……夏樹。無理をしなくて構わない。休んでおけ」
「今夜は天気がいい。黒崎さんに秋の星座を教えてあげてよ」
「……一人にしない。親父、またの機会にしよう」
「親子で話せよ~。分かったよ。俺も一緒に行くからさーー」
「……寝ておけ」
「君は休んでおきなさい」
「二人とも気が合うね……。もう大丈夫だろ?」
お父さんと黒崎が同時に同じ反応をしたのが面白くて、遠慮なく吹き出しって笑った。すると、二人が気まずそうにして、目を逸らし始めた。
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