海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 着替えをして、ベッドに寝転がった。この時間にベッドにいるのは珍しい。風呂から出た後、何もされていない。少し寝ておけと言われて、大人しく目を閉じた。それでも眠気が起きない。

「眠くないよ」
「打ち身が出来ている。動揺しただろう?昼寝をして、気分をリセットしよう」

 早瀬のことが気になって落ち着かない。無理強いして聞くことではないだろう。踏み込まれたくない領域があるはずだ。

 ぼんやりと見つめていると、額を撫でられた。端に腰かけているから、ウエストあたりに抱きついた。うまく言えないのがもどかしい。もっと気持ちを伝えたいのに。

「怖かったね……」
「声を掛けてくれた人がいたんだ。助けてくれた人だよ。ナンパじゃなくて」
「よかった。一人じゃなかったのか。君は助けを呼ばないから心配した」
「しっかりするから心配しないでよ。俺のSPだってことは分かっているよ。でもさ……、裕理さんだって忙しいから」
「はいはい。土日はギターの練習をみるよ。スタジオにもついていく」
「ありがとう。だだだだ……」
「……大根?」
「違うよ!」
「夏樹君が憑依したかも」
「もうっ。だだだだ……」
「16分音符のフレーズ?2刻み、3……」
「大好きだって言いたいんだよ!」

 やっと言えた。大きく息を吐くと、早瀬が笑い出した。髪の毛をクシャクシャと撫でた後、ありがとうと呟かれた。じっと見つめたままでいると、頬をツンツンと突かれた。それでもいいから見つめた。さらに鼻をつままれて引っ張られた。

「ふがーーっ」
「ゆうとくーん、本当に襲うぞ?」
「いいよ……、んが……」

 風呂では恥ずかしかっただけだ。あのイヤラしいムードの中では、その気になれなかった。今の早瀬は真面目だから、いいと思った。会いたかったのは俺も同じだし、もっと近づきたいと思った。心も身体も両方だ。せめて触れたい。

「裕理さん……」
「こら、本気にするぞ」
「来てくれてありがとう」
「悠人……」
「大好きだよってば……」

 寝転がったままで抱きついた。すると、膝枕のような体勢になり、早瀬のことを見上げた。さらにその首周りに腕を絡めて、体重を掛けた。

「……重いぞ」
「もっとこっちに来てよ」
「……怪我をしているから」
「ほんの擦り傷、打ち身だって」
「……痛むだろう」
「……」

 やっぱりだめか。勇気を出して言葉にしたのに。諦めて、毛布を頭から被って寝転がった。身体を揺すられても返事をしないでいると、一気に剥がれてしまった。

 心臓の鼓動が跳ね上がった。そして、別の意味で鼓動が高鳴った。早瀬の目が熱っぽくなっていたからだ。そして、何も言わずに覆いかぶさってきて、キスをされた。

 ギシ……。

 ベッドのスプリングが軋む音がした後、自分の方からもキスをした。微笑み合った後、早瀬がニットを脱いだ。その後で、俺の着ているものを脱がせた。
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