海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 どうも気になるから、スマホを取り出した。不在着信やラインが数件入っていた。マリーズカフェを出た後から、早瀬から何回も連絡が入っている。

 まだ話す気がなくて電話には出ずに、返信もしていない。本当には嬉しいのに素直になれない。会って謝りたいという気持ち、顔も見たくない、声も聞きたくないという気持ちが混在している、この矛盾。

 11月30日10時32分の不在着信。夏樹と合流してタクシーに乗り込んだ時だ。鳴り終るまで待っていた。この時は怒りが先に立ち、出てやるものかと強気でいた。

 さらに不在着信が続く。10時35分、38分、43分。声を聞きたい気持ちが生まれたことに気づかないふりをした。

 そして、13時10分。昼休憩に入ったのだろう。本当なら話したかった。夏樹と昼ご飯を食べているのに、そばにいるはずの早瀬がいないこと不安だ。声を聞けば安心するのに。

 はあ……。本日10度目のため息をついた。

 留守電にはメッセージは残っていないから、どんな内容かは分からない。きっと怒っている。自分ならどうだろうか?不安で胸が痛くて堪らないだろう。こんなことをしても傷つけるだけなのに。どんどん波に押されて離れていくようだ。

(こうやって今までの人と別れてきたのかな?相手が爆発したって言ってたし。まるで今回みたいだ)

 別れるなんて発想はない。しかし早瀬はどうだろう?こんなに面倒くさいことをする子は嫌いだろう。こんな一面が自分に存在していたなんて、恋愛するまで知らなかった。優しい人がいることも、嫌な部分を持った自分がいることもだ。

 いつの間にか、夏樹が誰かと電話で話している。スピーカー設定を戻したのだろう、向こうの音声が聞こえてこない。

「りょーかい。18時に黒崎製菓前で。4人で。じゃあね……」
「4人?」

 聞き返した時には電話が終わっていた。スマホを置いた後、黒崎さんからだったと言い、夏樹がこっちを向いた。とくに表情は変わっていないから、早瀬とのことは知らない様子だ。

「買い物をした後、黒崎製菓前で合流することにしたよ。悠人も待ち合わせだったよね?」
「う、うん!」
「4人でご飯を食べたいねーって話になったんだ。どうしたんだよ?」
「あのさ。喧嘩中なんだ」
「ああ~、だからソワソワしてるんだね?すぐに仲直りできるよ。合流すれば……」
「うん」

 深刻だとは言い出せなかった。せっかくの時間を過ごしているのに水を差せない。元気なふりをして、デザートを頬張った。
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