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父から呼ばれて向かった先は、5階の産科病棟のロビーだ。見舞い客が飲み物を飲んで休んでいる中に、父の姿があった。さっそく向かい合わせに座った後、彼女の容体を聞かされた。切迫流産の危険があり、2週間程の入院をすることになったという。
彼女の名前は宮田涼花《みやたすずか》さんという。30歳の人だ。不動産会社で働いている人で、虎ノ門駅の近くにオフィスがある。2年の付き合いだと聞かされた。正式に紹介された時に、ちゃんと話せばいい。
「……お母さんから聞いたよ。離婚が決まったんだね」
「ああ、お互いの財産の件を話し合っている。家をどうするかだ。お母さんから聞いたか?」
「うん。処分するんだよね?維持費がかかるからって……」
母から聞かされた時ほどの感情は起きなかった。早瀬という居場所があり、結婚しようとまで言ってもらえた。もう一人ではないからだ。
「私としては持っておきたい。ただ、お前が遺産相続をした時には価値が減って、持て余す可能性がある。それなら、今のうちに処分をと考えている。まだ時間が必要なら、答えが出るまで家は置いておく」
「え?」
「誰も住んでいなくても私達の家だ。悠人も愛着があるだろう?帰りたくないのか?」
「お父さん……」
父から出た言葉は意外なものだった。こんな血の通ったことを言う人だったのか?ポカンとして見つめていると、父が苦笑した。
「そんなに可笑しなことを言ったのか?」
「お父さんは、家に帰って来なかっただろ……。お母さんも同じだけど。そういう事を言えたら、あんな人にならなかったんじゃないの?」
つい感情が高ぶってしまった。取り返しのつかないことを言っても仕方がないのに。せきを切ったように、次々と文句が口から飛び出していく。俺が知っている父なら、叱られていたことだろう。しかし、目の前の人は黙って聞いていた。父の変化が嬉しいのに、悲しい気持ちに支配されている。
「お父さん、変わったね。宮田さんが変えてくれたの?」
「すまない」
「今のお父さんは好きだよ。こうやって話が聞ける人に……、いつからなったんだよ?俺とお母さんじゃ駄目だったんだね……」
「悠人君、落ち着こう」
「うん。裕理さん、俺……」
「大丈夫だ。俺がいる」
「早瀬さん?」
父が早瀬の方を見た。父は俺達が友達だと思っているのだと、早瀬は言った。それは正解だったようだ。恋人ですと早瀬が言った時、父が驚いた顔になった。
「久田さん。先月、電話でお話した件ですが。恋人というのは本当のことです。彼の嫌味ではありません」
「それは……」
「僕は本気です。悠人も同じ気持ちです」
「待ってください!まだこれからやることが……」
父親がソファーから身を乗り出して、俺の手を引いた。それを振りほどいて、父へと向き直って、真っ直ぐに見つめ返した。
彼女の名前は宮田涼花《みやたすずか》さんという。30歳の人だ。不動産会社で働いている人で、虎ノ門駅の近くにオフィスがある。2年の付き合いだと聞かされた。正式に紹介された時に、ちゃんと話せばいい。
「……お母さんから聞いたよ。離婚が決まったんだね」
「ああ、お互いの財産の件を話し合っている。家をどうするかだ。お母さんから聞いたか?」
「うん。処分するんだよね?維持費がかかるからって……」
母から聞かされた時ほどの感情は起きなかった。早瀬という居場所があり、結婚しようとまで言ってもらえた。もう一人ではないからだ。
「私としては持っておきたい。ただ、お前が遺産相続をした時には価値が減って、持て余す可能性がある。それなら、今のうちに処分をと考えている。まだ時間が必要なら、答えが出るまで家は置いておく」
「え?」
「誰も住んでいなくても私達の家だ。悠人も愛着があるだろう?帰りたくないのか?」
「お父さん……」
父から出た言葉は意外なものだった。こんな血の通ったことを言う人だったのか?ポカンとして見つめていると、父が苦笑した。
「そんなに可笑しなことを言ったのか?」
「お父さんは、家に帰って来なかっただろ……。お母さんも同じだけど。そういう事を言えたら、あんな人にならなかったんじゃないの?」
つい感情が高ぶってしまった。取り返しのつかないことを言っても仕方がないのに。せきを切ったように、次々と文句が口から飛び出していく。俺が知っている父なら、叱られていたことだろう。しかし、目の前の人は黙って聞いていた。父の変化が嬉しいのに、悲しい気持ちに支配されている。
「お父さん、変わったね。宮田さんが変えてくれたの?」
「すまない」
「今のお父さんは好きだよ。こうやって話が聞ける人に……、いつからなったんだよ?俺とお母さんじゃ駄目だったんだね……」
「悠人君、落ち着こう」
「うん。裕理さん、俺……」
「大丈夫だ。俺がいる」
「早瀬さん?」
父が早瀬の方を見た。父は俺達が友達だと思っているのだと、早瀬は言った。それは正解だったようだ。恋人ですと早瀬が言った時、父が驚いた顔になった。
「久田さん。先月、電話でお話した件ですが。恋人というのは本当のことです。彼の嫌味ではありません」
「それは……」
「僕は本気です。悠人も同じ気持ちです」
「待ってください!まだこれからやることが……」
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