海のそばの音楽少年～あの日のキミ

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　枝川が次の一手を思案している。それを観察しつつスマホへ視線を向けると、ラインが入った。取り出すと、隣に座っている枝川に待ち受けを見られてしまった。とっさに隠そうとしても、間に合わなかった。

「おおおーー、かっわいいなあ～～」
「見るな」
「いいじゃないですかー」

　枝川が食い入るように画面を見つめたことで、悠人が減るような気がした。褒められても嬉しいという気持ちが浮かばない。枝川が空気を察して、声のトーンを下げた。

「イメージは違いますけど。お父さんの久田弁護士に似ていますね。目元がキリッとしているし」
「たしかにそうだな」

　悠人は父親似だ。童顔だから可愛らしく見えるものの、数年経てば変わるだろう。本人が望んでいる男になるはずだ。この可愛らしさを楽しみたい。

「桜木君～、伊勢海老を食べに行こうよー」
「もう写真を見たでしょう？」
「伊勢海老が食べたくなったんだよ。伊吹さん抜きで行こうよ」
「無駄です。同じ店を予約するに決まっていますから」
「うっ」

　枝川がテーブルに突っ伏す仕草をした。ムードメーカーとして、営業企画部内の空気感を変える術に長けている。黒崎の指示にも臆することもない。

「早瀬、悠人君の新しい写真があるぞ？」
「どれ？」
「これだ」
「……」

　それは夏樹と学食で写っているものだった。知らない男と肩を寄せ合っている。苛立ちを隠して笑顔を浮かべると、黒崎が笑い声を立てた。いじめっ子上司そのものだ。２人のやり取りを眺めつつ、悠人からのラインを開いた。大盛りのチキン南蛮と、五穀米の写真が出ていた。

「『悠人 12:42  学食『薄味』で食べているよ。今日からメニューが変わったんだよ。チキン南蛮は定番だからあるよ。美味しいよーー』」
「サラダも食べなさい。写っていないぞ？」
「『悠人 12:44  あるよ』」
「夏樹君のサラダだろう。苦手なドレッシングが掛かっている」
「『悠人 12:45　取って来る』」
「いい子には、今夜ご褒美をあげる」
「『悠人 12:47 変質者！』」

　さらにメッセージ送信して、スマホをスーツの内側に入れた。俺の向かいでは、黒崎が夏樹とビデオ通話をしている。デレデレと鼻の下を伸ばしている。俺もああいう顔をしているのかも知れない。恥ずかしいかも知れない。しかし、そういうのも悪くないと思いつつ、食事を続けた。