ハーンのミサイル

有嶺哲史

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第四章  第一次戦役

原爆の飽和攻撃

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 外国軍が上陸してきたということは核ミサイルによる攻撃は結局無いということだろう、という憶測が流れ始めた。
しかし彼らは大都市周辺までくると止まった。
一瞬の空白があった。
ジパング首脳部が一体どういうことかと訝っていた時、示し合わてN国、S国、R国の弾道ミサイル合計約百発が同日ほぼ同時刻に我が国全域を襲った。
あらゆる無力な議論を蒸散させるような突然の原爆攻撃だった。
ミサイル防衛網の突破と核加害国をあいまいにする三国原爆混合飽和攻撃だった。
核ミサイルだから占領して永続的に植民地経営をするつもりはない。
住民を一瞬で炭にして価値ある物だけ拾って帰る、いわば焼畑農耕だった。
そのための訓練もしていた。
これでも自国に保有核はまだ十分残存する。
R国だけは領土併合の野心も持っていた。

 無警告のミサイルはほとんど北西方向から飛んできた。
ミサイルは首都と大都市をはじめそれぞれ異なる地方中核都市を狙っていた。
核ミサイルの同士討ちを避けることはもとより略奪目的のため事前に綿密に計算されていた。
快晴だったら国中で真っ青な空におびただしいキノコ雲が何重にも重なっただろう。
雲に覆われていたら低い雲海を突き破ってキノコ雲が一気に宇宙めざして伸びてゆく光景が現れただろう。
雲で見えないその下では重い瓦礫が空中を高速で飛びまわり、火砕流が街を襲ったポンペイのような高温の粉塵地獄になっていただろう。

 一つの都市を狙うミサイルには異なる国の異なる種類の弾頭が意図的に混ぜられていた。
A国は核報復をどの国にするか一瞬でも迷うだろう。
インフラ施設を敵は狙わなかった。
このあとの組織的略奪を円滑にするため住民が街にあふれ出ないようにするためだった。



 このままでは大量の着弾は避けられないはずだった。
おれの乗っている衛星内にアラートが鳴り響いた。
日課に従ってそのときおれは寝ていた。
既にしばらく前からステゴちゃん達は自動的にウォーミングアップを始め、それも済んでおれがボタンを押すのを待っていたらしい。
着弾・爆発まで数分しかない。
寝ぼけながらおれはミヤコに命じてミサイルが飛んでくる様を宇宙船のモニター上に表示させた。
すべての弾頭がまだ海上を飛んでいる最中だった。
どの国がどの街を狙うのか、弾頭の飛び方を見てもわからなかった。
あくびをかみ殺してボタンを一つ押してミサイル防衛モードに切り替えた。
おれの仕事はそれだけだった。
戦い方はステゴちゃん達が知っていた。
既に入れ込んでいたような十匹のステゴちゃん達がそれぞれ目標を見つけ分担し、主砲レーザーですべて無力にしてくれるはずだ。
数十基の発電衛星から送電されたと思われる十基のメインガンレーザーによる攻撃が始まった。
それを数十回繰り返した。
時々複数のステゴちゃんが協力して弾頭の観測精度や軌道の計算精度を上げ、複数のビームを集中して威力を上げることもおれの指示なく勝手にやってくれた。
戦況をモニターに表示させると蒼い日本海が上空の色とりどりの光の花に埋め尽くされていた。
弾頭を逸れ散乱されたレーザーX線が気体分子に衝突し発光させたためだ。
発射して十分の一秒後にはターゲットに当たるのですべての弾頭は無力化され、核爆発は観測されなかった。
ぶっつけ本番でうまくいってしまった。
喜んでミヤコと勝鬨をあげようとしたがミヤコは無表情だった。
確かに戦いはまだ終わっていない。
ボタンを一回押しただけで他に自慢できる働きはしていなかったのでパウチ袋のコーヒーで味気なく乾杯した。
飲みながら何か月宇宙にいたのだろう、この間ずっと宇宙にへばりついてやった戦闘任務はボタンを一度押しただけ、おれはここにいる必要があったのだろうか。
おれがボタンを押すことさえ何者かが先読みしている気がした。

 A国の早期警戒衛星はおびただしいミサイルの発射炎を発見していたが結局何もしなかった。



 5月になった。
地上では多量の核ミサイルが向かってきていた事を一般人は誰も知らない。
政府は敵ミサイルは数発と、わざと少なく発表し、地上にあった迎撃システムによってすべてのミサイルは破壊されたと言った。
そのうちA国メディアが、攻撃して来た弾道ミサイルは百発くらいあったと暴露した。
それでも我が国政府はすべて不発だった、と不自然な弁解をしたので全世界が呆れた。
第二次戦役も予想されるので手の内を明かさなかった。

 核爆弾攻撃に成功した国は無かったのでA国もホッとした。
A国内では大いに迷っていた。
会議をしても大統領は寝てしまう。
一発でも爆発して我が国の大都市のひとつが煙と消えてしまったらどうしただろう。
相手が原潜を持たない核保有国であるN国、S国なら、その国の第二の都市に一発ずつ核報復して地上から消し去ってしまう。
しかし原潜がどこの海中に潜んでいるか判らないR国やC国だったらそのあとA国自身が核で逆襲される。
もしインド洋の真ん中の海中から飛び出てきたミサイルを発見しても、それが核ミサイルであると判断ししかも撃った国がどこかを判断することはできない。
また全てを迎撃できるほどミサイルが無いのに一発でも撃ち漏らしは許されない。

 A国とジパングの条約によれば核報復の義務はないが冷戦初期からの約束だった。
もしA国が核報復しなかったら東京を人類の犠牲として世界の平和は保たれる。
それではC国の狙いどおりだ。
よく眠る大統領はなかなか決断せずそのまま同盟国を見捨てるようなA国は信用が失墜し、時間を掛けていずれ凶暴性に勝るC国の勢力がのさばりA国は衰亡する。
ハーンによれば二極が対立する以上安定することはあり得ない。
もしA国がC国に通常兵力で攻め込む場合、武器レベルに差があまりなく国力もあり縦深があり地続きの後背地もあるので成功しない可能性が高い。
こう考えてC国皇帝ハーンは宮殿を動かなかった。
仮に核報復が来るにしてもA国は決断にモタモタし、十分逃げる時間があるだろう。
逃げ遅れても核シェルターがある。

 おかしなことがあった。
地上の一般人は誰もミサイル攻撃に気付かなかったことだ。
国のアラートがどこも鳴らなかったからだ。
アラートシステムのソフトを点検し開発の経緯を調べた。
安全保障の一環だから当然我が国内で秘密に守られて開発されたと思いきや開発の実態は違っていた。
法律の穴に官僚機構が逆機能して普通のソフト開発と区別しなかった。
民間に発注されるとたちまちいくつもの下請け孫請けを経て知らぬ間にC国やN国に発注されていた。
そこで開発される時、訓練では鳴るが本当に攻撃されるときは鳴らなくできるように乗っ取りできる穴がこっそり組み込まれた。
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