ハーンのミサイル

有嶺哲史

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第五章  休戦

ミヤコⅡ号

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 その一年後の十月、舜助に呼ばれてミヤコⅡに会いに行った。
一目見てしっとりした情感があり機械的な違和感がない、これは凄いと思った。
たった一年でここまで来たとは驚くべき舜助の腕だった。
一見してミヤコⅠとは連続性のない、もはや別物だった。
舜助は、人間のフリをした機械だったミヤコⅠとは全く違う、もはや機械のフリした人間だと思った方がいいと言った。
アンドロイドだから動くこと、反応することはもとより五感の認識や記憶の想起があり、それが感情や欲望を生み、人間に共感を持つ意識に似たものが生まれてきたという。

「君はやっぱり天才だ。素晴らしい」

そう誉めたが舜助は緊張を緩めなかった。
強い使命感に見えた。

「だが大柄なミヤコⅠも素直に何でも言うことを聞いてくれて気持ち良かったなあ。ところで五感というが電気で動くミヤコは食事しないから味覚は要らないんじゃあないか?」

「食事もする」

「何だって? 毒見役でも?」

「ロボットにも身体感覚は重要なのだ」

 前のミヤコより小柄で標準的な女の体格だった。
着衣の無い裸の状態を見せられた。
シルエットは完全に若い女だった。
ミヤコⅠと違って皮膚は信じられないほど人間そっくりだが、皮膚部分は四肢と首と顔の左半分と頭の毛だけだった。
顔の右半分は全て金属、というわけではなく鼻から下は皮膚にしている。
口の半分まで金属にするとしゃべれないからだろう。
胴体部分は金属だが女性らしいくびれがあった。
肩から尻にかけては金属光沢の硬そうなロボットに見える。
金属製のスクール水着を着ているみたいだ。
しかし前のような硬いドラム缶ではなく遥かに人間的で伸縮できる。
古い映画〝メトロポリス〟のアンドロイドに似ている。
顔の半分が金属なので生身の人間と錯覚することはないだろう。
女特有の部分は全部金属だった。

「ここまでやったのに一部金属肌にしているのはなぜだ?」

「それは診断とメンテナンス、すなわち楽屋の事情だ」

 それまでじっとして動かなかったアンドロイドから話しかけられた。

「旦那様」

おれを憶えていた。
先代のミヤコからの引継ぎは成功していると思った。

「久し振りだな、ミヤコじゃないか」

アンドロイドは顔の皮膚の部分でしっとり穏やかに微笑した。
新しくなって無機物から有機物に印象が変わった。
それだけでミヤコⅠとは全然印象が変わった。
サッと振り返って舜助を見たらニヤリとして頷いた。

 ミヤコⅡは明らかに女性的魅力を振りまいている。
栗色の髪の毛がしっとりとして実に見事だ。
ミヤコⅠの髪はロボットらしく固定されていたが、これはまことに自然になびく。
人肌部分は健康的な小麦色でノスタルジーさえ感じる。
金属仮面の反対から顔を見ると生身の人間にしか思えなかった。
前のミヤコⅠの顔とは全く別で、しかも相当な美人だ。

「女性的人格のもとになったモデルは誰だ」

「いろいろだ」

今回は体の半分は機械的だが他はあまりに人間に寄りすぎている。
生身の女性以上に女性的だ。
目が合ったミヤコはおれに何か囁こうとするような眼をした。
心の奥を触られるような不思議な感触だった。
細いふくらはぎを見た時、以前堯助宅で見たアルテミシアの完成形だと思った。
顔はあれから全く変わっていた。
最初気になったのは、年頃の女性ならもっと溌溂としてにぎやかなはずだが目の前のアンドロイドは大人しすぎる。
人間ならば影が有ると思うほどだが不快でもないので気にしなかった。

 これから衣装を選びに、街に繰り出すらしい。
前回のミヤコⅠはデカすぎて人間の衣装を着ることが出来なかった。
とりあえず誰のかわからない男用の古着を着せた。

「まるで浮浪者じゃないか。焼跡闇市の」

秋空の下の空気は爽やかでありながら柔らかく、道端や窓辺に咲き乱れる花々が薫り高く快適な楽しい街中の散歩となった。
原宿のブティックで頭のてっぺんからつま先まで揃えると舜助は言った。
おれは外で待っていた。
出て来ると見違えるほどきれいで魅力的な若い娘に変わっていた。
試着のときよく店員に騒がれなかったものだ。
全身真っ赤。
顔がいいのでシンプルさが逆説的に華やかさになり、青春真っただ中の赤い花だ。
通りすがりの見るからに軽薄な若い男が声を掛けた。
ミヤコが男の方に顔の右側を向けると男は驚愕し泡を吹いて逃げて行った。
舜助は

「アンドロイドは汗をかかないし垢も出ないから一着でいい、色っぽい下着も買っている」

という。
この男、女心をわかっていないが男心はわかっている。
でもロボットに下着を着せる心理が判らない。
ミヤコⅠにあった〝初期化ボタン〟はミヤコⅡには無いという。
舜助によると今度のミヤコⅡは固まる心配が無いのだ。これも信じがたいことだが素晴らしい。
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