ハーンのミサイル

有嶺哲史

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第五章  休戦

再び宇宙へ

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 十一月、再び宇宙にゆくことになった。
C国の動きが再び怪しくなってきたたからだ。
堯助は情勢を見て言った。

「前回の宇宙線の被ばく量は予想したほどではなかった。今回は長くなる可能性が有る。しかし一回あたり2~3か月で戻す。長くても一年間で終わらせる。途中本当に暇になるかもしれないから何か持っていくのがよい。書籍類、動画類は何でも電子的に見られるから持ってゆく必要はない。定められた日課の運動はサボらずすること。それから自動散髪機も今回追加した。宇宙では髭を剃ってくれ」

 我が宇宙船や衛星群は時間が経っているので故障している場所もあるかもしれない。
無人で点検修理された。
地上で久し振りに逢うとミヤコⅡはワァーッ、と喜んだ。
いつの間にか明るい性格に変わっている。
今回はミヤコⅡとともに宇宙に行った。
久し振りだったが宇宙の感覚は体が覚えていて馴染むのが早かった。
二度目の宇宙には古い友人のようなくつろぎと再会の嬉しさを感じた。
重力のある環境に戻りたいとはあまり思わなかった。
各衛星も軌道を変えて接近し姿勢制御用の推進剤である水の補給を受けた。

 宇宙でミヤコはその日だけと言いながら浴衣姿をおれに見せた。
モニターの月を見て月見団子を供えたミヤコの企画は月によってぶち壊されていた。
灰褐色で季節感も情緒も全く無い無機的な宇宙の月だった。
月見とは、老人数人が縁側に腰かけて月を見ながら茶を飲んで

「今年は……ちゃんが逝った。来年は誰かな」

などという会話をするものだ。
霞に滲む白銀の円盤の神々しさは地球だけで見られる。
幼い頃の月見を思い出しかけたがミヤコの浴衣姿も裾が常にめくれあがって金属の尻が剥き出しで、月見の情緒をさらにぶち壊していた。
宇宙に来て数日たつとミヤコⅡはさらに明るくなった。
ミヤコⅠはあまりしゃべらず無機的だった。
ミヤコⅡは人間味と若い女性らしさがあった。
金属仮面に隠されている右半分の下に誰か別人が隠れているような不気味さがしばらく消えなかった。
宇宙の制服を着ると顔以外は全部隠れて体にぴったりしている。
太ももから腰にかけての膨らませ方がいかにも女性そのものを表す容器のように見えて、男はこれでホッとする。
肌艶もいい。
普段でも眼が合うと幽かにほほ笑む。
呼ばれるとつぶらな瞳でじっと見る。
可愛くて女性らしくて、地上にいた時よりも魅力的に思えた。

 おれの食事は奥さんみたいにミヤコが準備してくれたが、彼女も一緒に楽しそうにしゃべりつつ宇宙食を食べた。
舜助から聞いていたとおりアンドロイドなのに食事をした。

 ミヤコは微笑しながら言った。

「旦那様は宇宙ではお風呂に入れなくて、お困りじゃないですか? アタイにできることなら何でもします」

おれはミヤコがアンドロイドであることを忘れて言った。

「いや、空調が効いているから汗もかかないし気にならないよ。それより、若い娘の君は何日も風呂に入れないのは嫌だろう? 生理の後なんか耐えられないんじゃあないか。同情するよ」

自分で空調と言って気づいたが、ミヤコⅡから女の何かが漂ってくるような気がした。

「アタイは水に浸かるなんて恐ろしいことは出来ないわ。でも生理ってどんなものか、一度経験してみたい。ねえ、旦那さま。アンドロイドは皆石女(うまずめ)なの?」

そこで眼前の半金属の物体がアンドロイドだったことを思い出した。

「そうだね、子を産むアンドロイドはいない。金属の顔を見ると君も出産などしない感じだね。生身の男がアンドロイドの女を抱くと金属が当たって痛いだろうな。だが君は高度な手作りアンドロイドの傑作だ。将来のことはわからないよ」

「子が欲しいと想う気持ちが人間の女にどこから来るのかいくら考えても解らないの。人間は何のために子孫を残しているの?」

「何のため? 何だろう。わからないねえ。もしかしたら永遠の謎?」

話し合っているとミヤコは人間に見えてしまう。
しばしばアンドロイドであることを完全に忘れた。
若い娘のように雑談が出来たのはよかった。
前バージョンのミヤコⅠは業務上必要なことしか言わなかったのと対照的だ。
別の日におれたち三人の昔のことや、その家族の話も聞いた。舜助の言うように彼女は機械のフリした人間だと思うようにして違和感も不気味さも克服した。

 日増しにミヤコは心のうちに何か考え続けているような感じになってきた。
いつの間にかじっとおれを見ているのに気付くことがあった。
眼の潤いを感じるようになった。
ミヤコⅠも最初はおれをじっと観察していたので同じことと思い気にしないようにした。
おれと眼が合ったまま浮遊してきて仕切りドアの透明窓に顔からぶつかることが一度ならずあった。
痛そうに鼻をさすって苦笑いしていた。

 前回と違っておれの寝る時間とミヤコの寝る時間が少しずれるように日課が決まっていた。
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