ハーンのミサイル

有嶺哲史

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第六章  第二次戦役

再び大軍が

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 物凄く寒いC国首都。
宮殿の外は既に暗くなり、窓の雪に淡黄色の光が踊っていた。
暖房された宮殿の小広間の光源は蝋燭だけ。
暗闇の中に金色の装飾が炎にきらめく、さながら妖魔の世界。
ハーンは精神を集中していた。
実は、ハーンは昼間のある出来事で衝撃を受けていた。
その脳裏に、沈んだ心を鼓舞するように懐かしい幼少期の狩の光景がよみがえった。
狩のあと真っ暗な草原で火を囲んで行われた民族の祭りはいつ思い出しても心が躍った。
ここで気持ちをたてなおすつもりで偉大な先祖を拝礼した。
ところが

……自分の前には泥沼が広がっているのではないか。
そこへ誰かに誘導されているのではないか。
おれは愚かな皇帝なのか。
おれは大間違いをしていないか……

そんな想いがふと浮かんだことがきっかけになって忘れ果てていた昔の恥ずかしいこと、悔いの残ることばかりが次々思い出されてくるようになった。
数々の輝かしく誇らしい想い出は一向に浮かんでこない。
子供の頃の些細なことが突然思い出されて羞恥心を刺激する。
皇位を獲るために行った数々の秘密、バイズの反乱の時遠からぬ親戚まで手に掛けたこと、そして亡き家族と皇后。
故人の顔が次々暗闇に浮かんでハーンを悩ましては消えた。

 苦悩する皇帝の隣には丞相バヤンが黙って控えていた。
その顔を見たハーンは戦争を思い出し、つぶやいた。

「前回の戦争で我が軍だけがほぼ無傷だった。ここでやめたら前回一緒に戦った三国からずるいと言われそうだ。そう思って再び三国に声を掛けると彼等は皆即座に断った。弾道ミサイルはすべて落とされるし、武器を消耗して自国の防衛が危ういという。R国はオホーツク海を奪い返したいが相変わらず西の国境扮装に悩まされている。空母も持たない通常戦力での渡海侵攻作戦は危険であることが彼等にもよく解った。宝物を一部奪ったが出費に釣り合わなかったようだ」

聞いていた丞相は明るく笑いながら言った。

「ハッ、ハッ、ハ。前回の戦役でジパングは三国の攻撃で弱体化しておりましょう。その三国も懲りて次回どこも参加しない。ほとんど無傷だった我が国だけで今度は丸ごと楽に獲れますな。これを考えられた陛下は大策士にあらせられます。ハッ、ハッ、ハ」

「それは偶然だ。本番はこれからだ。だが卿の言葉を聞いてやる気が出てきた」

ハーンの心は明るくなってきた。
暗い部屋で考えるのは止めた。
幽かに心にあった不可解な引っ掛かりはメランコリーとともに消えて忘れてしまった。
今回は満を持してC国単独でやり通す。
ジパング・A国同盟に対する戦いだ。偉大な先祖も征服に失敗した相手だ。
ハーンの気分は高揚してきた。
闘志が湧いた。



 C国は南の小島国を占領するとすぐに巨大な軍港を作り始めていた。
まだ工事途中だったが、そこから全世界の侵攻を狙えるほどの意気込みだった。
前回ジパング本土に向かおうとして北上し始めたとき、途中の島のA国の基地航空隊にこっぴどくやられた。
空中を飛ぶ金属製品は皆やられてしまう。
考えたC国は独創的な兵器を開発した。
A国の基地のある島の東側は海溝である。
その深みに無人潜水艇をもぐらせる。
そこから新兵器が発射される。
深海の物凄い水圧に耐え上昇しながら海岸に接近し、海面から飛び出すと耐水圧殻がパカッと外れて魚雷は巡航ミサイルに変身し、低高度で山越えにA国軍滑走路を攻撃・破壊する。
実際にこれは成功しハーンは得意だった。
かつて堯助に、遅れた奴らの考えること、と言われたやり方だった。
ただし通信も出来ない深海では空中のドローンとは勝手が違った。
九割以上は行方不明になった。
無人潜水艇からこの魚雷巡航ミサイルに核を搭載して首都を狙う案もでたが却下された。
海底には未知の岩礁が多いうえ水中音波探知の精度が悪かったからだ。

 海を埋め尽くす何十万隻の船が一挙に我が国の東京以西の海岸を全包囲する態勢で迫ってきた。
まるで民族大移動のようだ。
大部分は民間漁船の偽装で偽の機銃もあった。
それでもミサイル軍艦が多数あり、強力な攻撃力を持つ艦載機を多数載せた大型空母が約十隻あって激しい対地攻撃が予想された。
数は少ないが戦車も持ってきていた。
核搭載の戦略原潜はすべてA国周辺にまわしてしまい、我が国の周りにはいなかった。
C国空母艦隊を守るのは元漁船も多く、広く遠くまで広がっていた。
C国は、鎌倉幕府が元使を斬ったお返しのように、はじめから我が国政府と交渉しようとしなかった。
無駄なことはしない。
サイバー攻撃も使わない。
ジパングの北半分にはなぜか興味を示さない。



 ジパングはここにおいて海上封鎖され、中東からもA国からも原油が輸入できない。
備蓄石油はもともと二百日くらいある。
ところが戦争で国内輸送網が分断されると数日で社会全体が停止する。
そうなると予想されて住民たちが自主的に準備を始めた。



 C国はA国に直接宣戦布告していないのでA国は条約による我が国との協議の下に参戦する。
A国は海軍を出すと言ってきたが核の搭載については何も言わない。

 A国が派遣したのは平時でも緊張の強い場合と同じ三個の空母打撃群だった。
空母が少ない印象だが大西洋から妨害されながらパナマ運河を通って回航された巡洋艦以下のミサイル軍艦も含め、それぞれの打撃群に所属するミサイル艦の数は通常の四~五倍になっていた。
ミサイル時代に空母など無意味だ、と言っても相手を制圧したいなら空母の意味はなくならない。

 A国大統領の演説における歴史観は公平だったようだ。
身振り手振りで講演した。

「……死はだれにでもやって来る。死から逃げようとするほど恐怖は強くなる。勇者は死に立ち向かい、その恐怖を乗り越える。その究極は国家および同盟のための名誉の戦死である。我が国の若者たちは志願して同盟する人々と共に武器を取って戦うであろう。兵たちは死よりも不名誉を恐れる。昔我が国と交戦したとき史上稀に見る戦いをしたように今や同盟する彼らは父祖に劣らず再び獰猛に戦うであろう。我が兵は誇りをもって彼等と共に戦う。卑劣な要求に屈しない。断固戦おうではないか……」
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