ハーンのミサイル

有嶺哲史

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第六章  第二次戦役

海の攻防

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 宇宙の我々は十匹のステゴちゃんを分担し、東側や南側を含めて広大な範囲を全方向監視していた。
静止軌道から若干低いところを八の字に動く我々から見るとハワイはしばしば水平線の向こう側に行く。
その西側、ウェーク島あたりに複数のC国大艦隊らしきものが展開していた。
そこには明るい地球と真っ暗な宇宙のはざまにある大気層の美しいブルーが被っていて艦の位置は不明瞭だ。
一方C国陸上ミサイル基地は内陸にある。
我々の監視範囲が広がった上、地球の丸みによって角度が付いて観測精度が落ちる。
それで近海に接近してくる敵海上勢力に宇宙からの攻撃を考えた。
宇宙から見えるものの位置情報を教えたら我が軍や同盟軍ではないものの確認ができるだろう。
ところが何の理由なのか、何も教えてくれなかった。
情報が一方通行だった。
仕方がない。
明らかに敵艦艇と確認できたものだけにビームを集中・連続照射して宇宙から何らかの打撃をしようと思った。
ビーム波長は大気に吸収されにくい〝大気の窓〟領域の赤外線だ。
赤外領域で使えば自由電子レーザーの効率は可視光より数倍良い。
百トン分の鉄の温度を百度上昇させるには、反射ロスなどを無視すれば実効三メガワットで二十分連続照射すれば計算上は達成できる。
しかし、大気反射散乱率、熱伝達率、空冷率、ビームの屈折など不確定な条件で威力が下がる。
敵艦の一つで実際やろうとしたらミヤコが

「人が乗っています」

「かまわん、戦争中だ。照射しろ。原爆を落とそうとする彼等にはこれでも慈悲の光だ」

まだポワンとしているので強い意志を示したら従った。
小型空母らしきものの艦橋に集中照射し続けると停船した。
正規空母の飛行甲板に多数の艦載機がいた。
甲板には耐熱塗装をしているので艦攻・艦爆を順に集中照射していたら爆装・雷装が爆発し始め、さらに誘爆が始まり大惨事となった。
甲板上にいた人は急に物体表面が熱くなるので異変に戸惑うばかりだろう。
敵味方はなかなか区別できない。
勝手に入り込んでくる国籍不明の船もある。
みすみす見逃してしまう。
遠い太平洋沖の明らかにC国艦隊と思われるものが見えているが地球の丸みによって探査誤差や照射の減衰がある。
さらに衛星が南半球上空にいった場合敵艦が水平線下になることもある。
遠く拡散包囲して遠攻する……おれ達の武器の弱点にハーンが気づいたと思った。



 近海のC国の空母はA国艦隊に追い払われるなどして減少した。
海岸の名所に立つと、つかの間の平和な海が戻ってきたように見えた。
突然太平洋はるか沖でさまようように遊弋ゆうよくするC国艦隊がジパング向けて中距離ミサイルを撃ちはじめた。
核を搭載しているだろう。
分厚い大気の底を亜音速で飛ぶ巡航ミサイルは着弾までに何時間もかかる。
宇宙の我々が位置を調べ地上に情報を送ると、その追尾情報を受けて太平洋側に設置された迎撃システムが待ち構えて働いた。
発射元の敵艦船を沈めることはできなかった。
乾坤一擲の水上艦隊決戦は始めの頃の北回帰海戦の一回だけだった。
その後海上では数の少ないA国艦隊がC国艦隊を追ったが双方とも交戦には及び腰で、C国艦隊に逃げられた。
C国原潜は我が国周辺におらず、すべてA国周辺にいた。
それらは誰にも完全には捕捉できなかった。
SLBMはA国民衆には喉元の刀のように脅威だった。
地球の反対側にいる我々にも迎撃出来ない。
ハーンの考えたとおり、A,C国間の相互確証破壊は復活した。



 あるとき新聞に創作のようにも読める記事がでた。

▽ ▽ ▽

 遠くから飛来した爆撃機みたいなものが我が本土を狙った。
デカくて不細工で遅い。
我が軍は電測員から指揮官までこの機体をバカにした。
こんなもの対空ミサイルの肥しにすぎない、と射撃管制員は自信たっぷりに迎撃ミサイルを撃った。
ミサイルが当たる、皆がそう思った瞬間敵機は突然パカッと上下二つに分かれ、ミサイルは空を切って彼方へ飛んでいった。
ミサイルが通り過ぎると敵機は再び合体した。
そして多少の爆弾を落として帰った。
皆理解に苦しみながら失笑を漏らしていたが飛行経験を持つ幕僚は魔物を見たように青くなっていた。
空気力学の常識ではありえない魔的な動きだったからだ。
この珍兵器は二度と姿を見せなかったので帰る途中どこかで墜落したと言われた。

 またあるとき数千機のドローンがジパング本土を爆撃した。
ドローンは模型飛行機の形で、見えにくい透明樹脂のボディと翼を持っていた。
秋を待ってC国内陸部の高地で大量に打ち出された。
真っ青な空に陽光を反射して煌めく機体が雲霞のごとく舞い上がり上昇を続け秋のジェット気流に乗って黄海、東シナ海を超えてわずか五時間後にジパングにやってきた。
しかし地球の丸みによって電波が届かないので制御は昆虫のようなドローンの頭脳まかせ。
数が多すぎて通信もままならず知能もあまり無かったので、晩秋の雪迎えのように漂い落下する〝急降下爆撃〟のメクラ撃ちになった。
これがジパングに攻め込んでいた味方へのうるさい爆撃となった。
出征軍はとうとう怒り、文句を言ったため中止された。
元々反対を押し切ってこれらの珍兵器を開発させたのはハーンだった。
ジパングの軍人たちは再び笑った。
しかしあの幕僚はまたも冷や汗をかいていた。
もしハーンが本格的軍事ドローン数千機を衛星通信によりAI制御することに気づいたら恐ろしい脅威になったはずだ。
たった一億両でそれが出来てしまう。
大手自動車メーカーなら一社で出せる額だ。

△ △ △



 太平洋の広範囲におよぶ大規模な海の攻防でハーンは各作戦中最大の経費を使った。
四十億両だった。



 ふと思った。
おれのレーザー攻撃でハーンの国の内部を直接焼けるのではないか。
それは衛星兵器の運用基準を踏み出している可能性があるが明文で禁止されていなかった。
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