姉と妹に血が繋がっていないことを知られてはいけない

マーラッシュ

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勝ちたい理由は様々だ

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翌日火曜日

 エクセプション試験の封鎖サッカーに出る選手も決まり、今日から放課後に1時間だけ練習をすることになった。

「それでは皆さん、サッカーの練習をしましょう」

 神奈さんの掛け声でクラスメート達は次々と教室を出て行く。 

「神奈さん、昨日も行ったけど俺は用があるので練習に出ることは出来ないから」
「⋯⋯わかりました」

 わかったと言っているが、納得はしていない感じだな。それに若干睨んでいるようにも見え、以前の俺に対する対応に戻ったような気がする。
 おそらくクラスの輪を乱す行動に理解出来ないといった所か。

「なあリウト、用があるのはわかるけど少しくらい練習に出た方がいいんじゃね?」

 めずらしく悟が真面目な表情で忠告してくる。

「悪いな。やらなきゃいけないことがあるんだ」
「そうか⋯⋯だけど時間があったら来てくれよな」
「ああ」

 そして悟も教室から出て行き、この場には俺1人だけとなる。
 悟も俺が練習に行かないことで、教室の空気が悪くなったことを感じ取り、声をかけてくれたのかもしれない。
 だが無駄だとは言わないが、素人がサッカーを四日間、一時間ずつ練習した所でたかが知れている。それなら他の有意義なことに時間を使った方がましだ。

「さて、俺も行くとするか」

 そして俺は1人だけとなった教室を後にし、目的の場所へと向かうのであった。

 翌日水曜日の昼休み

 俺はユズが作ってくれた昼食を食べ終え、教室からトイレへと向かっていると。

「天城くんに言ってくれませんか?」

 ん? 俺は前方にいる神奈さんから自分の名前が聞こえてきたので、思わず廊下の曲がり角に隠れる。
 そして改めて神奈さんの方に視線を向けると、そこにはちひろの姿もあった。

「う~ん⋯⋯私が言ってもリウトは聞かないと思うよ」
「ですが他のクラスの方達も練習しているのに⋯⋯このままではエクセプション試験で勝つことができません。それにクラスで天城くんだけ孤立してしまいますよ」
「神奈っちの言いたいことはわかったよ。一応それとなくリウトに言っておくけど期待しないでね」
「ありがとうございます」

 正直な話、神奈さんが嫌いな俺のことを気にするなんて思わなかった。クラスの雰囲気を悪くしたくないのかそれとも⋯⋯。

「それにしても神奈っちやる気満々だね」
「そうですか? 学園の授業の一環ですからがんばるのは普通かと」
「確かにそうだけど⋯⋯何か神奈っちから熱いものを感じるんだよね」

 俺もちひろの意見に賛成だ。神奈さんは日頃、通常の授業を真面目に受けているけど、このエクセプション試験には何か熱意のようなものがある気がする。
 まあ確かに試験で勝てばスコアがもらえて日用品、雑貨、食品、娯楽、あらゆる物を交換することができるけど。

「⋯⋯確かに私はちひろさんのおっしゃる通り、エクセプション試験は並々ならぬ思いで取り組んでいるかもしれません」
「やっぱりね。それはスコアがほしいから?」
「そうですね。80%はそれが理由です」
「後の20%は?」
「大学へ行きたいからです。私のことで母に負担をかける訳には行きませんから、学費の安い国立大への推薦を取るためです」

 神奈さんの言う通り、羽ヶ鷺は新たな教育の試みとして国が運営しているため、国立大へのパイプが強い。
 実際歴代の先輩方で優秀な成績を修めた者は、国立大への推薦入学が決まっている。

「ちひろさんもご存知の通り、家は母子家庭ですし、母が入院しています。今は日々生きていく食費や光熱費もスコアで賄っている状況で⋯⋯もしこの学園に来ていなかったら高校をやめることになっていたかもしれませんね」
「そうだったんだ⋯⋯」

 ちひろは神奈さんの重い話を聞いてしまい、何とも言えない表情をしているように見える。

「けどだったら尚更リウトの意見を取り入れるべきだと思うよ」
「ですがそれは⋯⋯」
「神奈さんとリウトの過去に何があったか知らないけど、もしクラスがピンチの時はリウトのことを信じてあげてよ」

 ちひろの言葉に神奈さんはうつむき、何も答えない。
 料理と紬ちゃんとのことで、神奈さんと少しは仲良くなれたと思っていたが、どうやらそれは間違いのようだ。

「それじゃあね~」

 二人の話が終わり、ちひろがこちらに向かってくる。
 このまま見つかると気まずいので、俺は当初の目的である男子トイレの中へと向かうことにした。

 そして俺は用を足し、先程の2人のやり取りを思い出す。
 だけど無理だろうなあ。
 ちひろに言われたくらいで仲良くなれるなら、とっくに俺と神奈さんの仲は改善されているだろう。
 けれど今の2人の会話で思い出したことがある。神奈さんのお父さんは亡くなっており、俺が壊した美術コンクールで大賞を取ったガラスのコップには、父親の絵が書かれていたことだ。関係ないかもしれないが、もしかしたら神奈さんの父親に関することで俺はずっと恨まれているのかもしれない。
 しかし亡くなった父親のことを本人に直接聞くのも躊躇うな。
 かと言って他に聞ける人もいないし⋯⋯。

「なんだと! 舐めやがって!」

 俺が神奈さんのことで考えを巡らせていると、突然争うような大きな声が聞こえてくる。

「なんだなんだ。今の声は⋯⋯都筑か!」

 俺はトイレの水道で手を洗い、急いで声が聞こえる方へと向かうのだった。
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