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7 忌子と呼ばれる理由
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遅い朝食を食べ終わった私は、ヘンリー様の応接室で話をすることになった。
私の両親と王室から押し付けられた嫁……しかも双子の妹である忌子だ……に対して、彼は過剰な程によくしてくれている。
その理由も聞きたかったし、ヘンリー様も色々と説明するつもりで私をここに呼んだようだった。
「さて……何から話そうかな」
「あの……本当に、忌子である私を嫁に娶る気でいらっしゃいますか? 病で療養のために、という理由でこちらによこされたのです。拗らせて死んでしまったことにしてもいいのですよ」
私は居心地の良いここに慣れきってしまう前に『私に染み付いた当たり前』を提案した。王室も両親も、そのために私をここに送り込んだのだとわかっている。
ヘンリー様は悲しげに眉を寄せると、私をまっすぐに見て真剣な声で告げた。
「2度とそんな事を口にしてはいけない。いいね? 約束だ」
「は、はい……」
自信なく私は頷くしかなかった。
そんな私に困ったように笑ったヘンリー様は、そうだなぁ、と間延びした声で呟く。
「まず、グラスウェル領には忌子の風習がない。私が徹底的に廃した。10年前の事だよ」
「な、ないんですか?! では、双子で産まれてきた子は……」
「みんな元気に双子として育っている。いや、時には発育不良で亡くなってしまうこともあるけど……それは必ず下の子だと決まっている訳じゃない」
ヘンリー様はそう言うと、古い……とても古い本を手袋をはめて持ってきた。
「なんで双子の下の子が忌子と言われるか知ってる? メルクール嬢」
私に本を見せるように、黄ばみやページがボロボロになった本を開いて見せる。
かなり昔の文字だ。それも、走り書きしたような内容で、私には読めない。
「魔王が……当代の国王を殺し、王妃様を犯し、産まれた子には角が生えていて、肌の色も違い、触れた人やものをすべて腐らせ死を呼び込んだから、と……絵本で読んだ内容ですが、そう聞いています」
「そして、その魔王は今の国王の祖先である勇者が倒した。そうだね?」
「はい」
ヘンリー様は深い深いため息を吐いて目を伏せ、絵本として当たり前に国中に広まっているこの話を、どうやったら違うと説得できるかと考えているようだった。
この世界には魔物だっている。魔王によって生まれた忌子……、それが不確かなものだと証明するものは何も無く、私はこの話を信じている。
「隣の国と不仲というのは話したよね」
「えぇ、聞いております」
「忌子の噂のせいで隣の国は我が国を呪われた国だと思っている。だから攻め込んでこない、そういう意味では忌子の話がその様に残っているのは悪いことばかりでは無い、が……」
ヘンリー様は口元に手を当て頭の中を整理するようにしながら、ゆっくりと私に忌子の本当の正体を話し始めた。
「忌子……と呼ばれているきっかけ自体は大昔の事だから多少誇張されているのは仕方がない。この話はね、要は侵略戦争の話なんだよ」
「せん……そう?」
私の両親と王室から押し付けられた嫁……しかも双子の妹である忌子だ……に対して、彼は過剰な程によくしてくれている。
その理由も聞きたかったし、ヘンリー様も色々と説明するつもりで私をここに呼んだようだった。
「さて……何から話そうかな」
「あの……本当に、忌子である私を嫁に娶る気でいらっしゃいますか? 病で療養のために、という理由でこちらによこされたのです。拗らせて死んでしまったことにしてもいいのですよ」
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ヘンリー様は悲しげに眉を寄せると、私をまっすぐに見て真剣な声で告げた。
「2度とそんな事を口にしてはいけない。いいね? 約束だ」
「は、はい……」
自信なく私は頷くしかなかった。
そんな私に困ったように笑ったヘンリー様は、そうだなぁ、と間延びした声で呟く。
「まず、グラスウェル領には忌子の風習がない。私が徹底的に廃した。10年前の事だよ」
「な、ないんですか?! では、双子で産まれてきた子は……」
「みんな元気に双子として育っている。いや、時には発育不良で亡くなってしまうこともあるけど……それは必ず下の子だと決まっている訳じゃない」
ヘンリー様はそう言うと、古い……とても古い本を手袋をはめて持ってきた。
「なんで双子の下の子が忌子と言われるか知ってる? メルクール嬢」
私に本を見せるように、黄ばみやページがボロボロになった本を開いて見せる。
かなり昔の文字だ。それも、走り書きしたような内容で、私には読めない。
「魔王が……当代の国王を殺し、王妃様を犯し、産まれた子には角が生えていて、肌の色も違い、触れた人やものをすべて腐らせ死を呼び込んだから、と……絵本で読んだ内容ですが、そう聞いています」
「そして、その魔王は今の国王の祖先である勇者が倒した。そうだね?」
「はい」
ヘンリー様は深い深いため息を吐いて目を伏せ、絵本として当たり前に国中に広まっているこの話を、どうやったら違うと説得できるかと考えているようだった。
この世界には魔物だっている。魔王によって生まれた忌子……、それが不確かなものだと証明するものは何も無く、私はこの話を信じている。
「隣の国と不仲というのは話したよね」
「えぇ、聞いております」
「忌子の噂のせいで隣の国は我が国を呪われた国だと思っている。だから攻め込んでこない、そういう意味では忌子の話がその様に残っているのは悪いことばかりでは無い、が……」
ヘンリー様は口元に手を当て頭の中を整理するようにしながら、ゆっくりと私に忌子の本当の正体を話し始めた。
「忌子……と呼ばれているきっかけ自体は大昔の事だから多少誇張されているのは仕方がない。この話はね、要は侵略戦争の話なんだよ」
「せん……そう?」
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