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11 私でいい理由、私がいい理由
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「僕が君を娶った理由? ふーん……、まず誤解を招きたくないから確認したいんだけど」
夕食のステーキを切り分けながら、ヘンリー様は淡々と話を進めた。私も、彼にならってなんでもない話のように答えを待つ。
「君は『野獣』と呼ばれている僕のこと、何一つ知らずに嫁いできた訳で。僕も君のことは『王室を騙していた公爵家の忌子』としか聞いてなかったんだよね」
「はい」
そこには認識の齟齬はない。あるのは、ヘンリー様及びグラスウェル領には忌子の因習が無い、ということだろうか。
「僕としては忌子は関係ないし、王室には含むところもあるから……あ、これは内緒ね、一応不敬罪になっちゃうし……、忌子の因習に囚われていた人たちも知ってる。だから、気骨のあるお嬢さんなんだな、と思って引き取ろうと思ったのがきっかけかな」
美しい顔でにっこり笑いながら、とても女性を口説くような言葉ではない言葉で正直に話してくれたヘンリー様に、私はおかしくなって横を向いて少しだけ笑った。
私はただ生き残る為に両親の意思に従っていただけ。気骨があると言えば聞こえがいいが、ただ生き残りたかっただけだ。
そんな私を見て、ヘンリー様はカトラリーを置く。
「……でも今は、少し違う」
「え?」
そんな私へと優しいばかりの微笑みを向けて、ヘンリー様は呟いた。
「ここで変わっていく君は、最初は人形のようだった君は、とても綺麗になった。価値観を変えるのは難しいだろうけれど、努力しているのは私も周りの者も知っている。そんな君を、今はもっと楽しませたいし、笑っていて欲しいと思う」
突然の言葉に、覚えたことのない感覚が襲ってくる。
心臓が大きく脈打ち、同時に、大きな安心感に包まれる。顔が赤くなるのを感じた。
「メルクール、君は素敵な女性だ。……そろそろ、厨房に料理を任せてもいいかな? ここには君を害する人はいない」
「もちろんです、ヘンリー様」
私でいい理由と、私がいい理由。
両方を聞いた私は、ここに来た当初よりヘンリー様が好きになっていた。
自分の中にいろんな感情があったことを、このグラスウェル領ならば知る事ができる。
自分が忌子である、と、王都にいた頃は常に自分に言い聞かせていた。
忌子だからこんなふうに扱われるのだ、とか、忌子なのだから仕方ない、とか。
今はそんな言い訳はしなくていい。グラスウェル領で私に向けられる感情は、全て私の言動しだい。忌子だからではなく、メルクールとしての私次第だ。
その中で、ヘンリー様は私がいい理由を述べてくれた。努力していること、私が健康的になっている事を、いいと言ってくれた。
明日から、もっと頑張れそうな気がする。
私もこのグラスウェル領が、ヘンリー様が、とても好きになっているから。
夕食のステーキを切り分けながら、ヘンリー様は淡々と話を進めた。私も、彼にならってなんでもない話のように答えを待つ。
「君は『野獣』と呼ばれている僕のこと、何一つ知らずに嫁いできた訳で。僕も君のことは『王室を騙していた公爵家の忌子』としか聞いてなかったんだよね」
「はい」
そこには認識の齟齬はない。あるのは、ヘンリー様及びグラスウェル領には忌子の因習が無い、ということだろうか。
「僕としては忌子は関係ないし、王室には含むところもあるから……あ、これは内緒ね、一応不敬罪になっちゃうし……、忌子の因習に囚われていた人たちも知ってる。だから、気骨のあるお嬢さんなんだな、と思って引き取ろうと思ったのがきっかけかな」
美しい顔でにっこり笑いながら、とても女性を口説くような言葉ではない言葉で正直に話してくれたヘンリー様に、私はおかしくなって横を向いて少しだけ笑った。
私はただ生き残る為に両親の意思に従っていただけ。気骨があると言えば聞こえがいいが、ただ生き残りたかっただけだ。
そんな私を見て、ヘンリー様はカトラリーを置く。
「……でも今は、少し違う」
「え?」
そんな私へと優しいばかりの微笑みを向けて、ヘンリー様は呟いた。
「ここで変わっていく君は、最初は人形のようだった君は、とても綺麗になった。価値観を変えるのは難しいだろうけれど、努力しているのは私も周りの者も知っている。そんな君を、今はもっと楽しませたいし、笑っていて欲しいと思う」
突然の言葉に、覚えたことのない感覚が襲ってくる。
心臓が大きく脈打ち、同時に、大きな安心感に包まれる。顔が赤くなるのを感じた。
「メルクール、君は素敵な女性だ。……そろそろ、厨房に料理を任せてもいいかな? ここには君を害する人はいない」
「もちろんです、ヘンリー様」
私でいい理由と、私がいい理由。
両方を聞いた私は、ここに来た当初よりヘンリー様が好きになっていた。
自分の中にいろんな感情があったことを、このグラスウェル領ならば知る事ができる。
自分が忌子である、と、王都にいた頃は常に自分に言い聞かせていた。
忌子だからこんなふうに扱われるのだ、とか、忌子なのだから仕方ない、とか。
今はそんな言い訳はしなくていい。グラスウェル領で私に向けられる感情は、全て私の言動しだい。忌子だからではなく、メルクールとしての私次第だ。
その中で、ヘンリー様は私がいい理由を述べてくれた。努力していること、私が健康的になっている事を、いいと言ってくれた。
明日から、もっと頑張れそうな気がする。
私もこのグラスウェル領が、ヘンリー様が、とても好きになっているから。
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