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20 『野獣』は『忌子』の呪いを解く
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「お、おかえりなさい!」
ヘンリー様が帰ってくるまでに、2週間の時間がかかった。
領主不在を変に思うようなグラスウェル領ではなかったが、私はまだだめだめで、夜中には一人で泣いてしまったりした。
人前では元気に過ごし、ちょっと遠くまでいってるのかもしれないわね、なんて知らないふりをして堪えたけれど、一人になったら不安で不安で仕方がなかった。
けれど、手紙が届いた。窓辺に鳩がとまる、なんて思いもしなかったし、いつの間にこんな鳩を仕込んでいたのかと驚いたけれど、いつまでも飛び立たない鳩の脚に手紙か括りつけられているのを見て、私は安堵の息を吐いた。
内容は少しだけ。いつ帰るかと、無事だよという簡単な内容。
そして、帰ると言われた日。私はグラスウェル領の領都の外壁の外、門の前で、ヘンリー様を朝からじっと待っていた。
ルルーが気を遣って、すぐ呼びますから近くで座られては、と言ってくれたけれど、私は立ってまっていた。
あの日、草原の只中にぼろ布のように捨てられて、立ちつくしてくるかも分からない迎えを待っていた時とは、違う。
必ず帰ってくる大事な人を、絶対に一番に迎えたくて、私は待った。
そして、ヘンリー様は日が中天に登りきる前に、走って返ってきた。草原を、手を振りながら此方に向って駆けてくる姿に、安心してまた泣きそうになった。
けれど、私を迎えてくれた時、ヘンリー様は笑顔だった。だから、私も笑顔で出迎えようと思う。
そして、ただいまを聞く前に、おかえりなさいと言ってすぐに思い切り抱き締めた。
生きて帰って来てくれた、この万感の思いを込めて、強く強く抱きしめた。
「……ただいま、メルクール。もう、全部、よい方にいく。何代も掛かるだろうけれど……全部」
「ヘンリー様……、あの、私がこんなことを言ってはいけないと重々承知しているのですが……」
「うん?」
私は、ここで幸せに生きる生き方を知ってしまったので、自分勝手にもなっていた。本当は嫌な子だったのかもしれない。聖人君子ではいられない。
「私は、貴方が生きて帰って来てくれたこと、無事で生きていてくれることが、何よりも大事です」
いよいよ我慢できなくなった私は、こらえきれない涙を流しながら、抱き締めた愛しい人を見上げて言った。
忌子の私がこれを言っては本当はいけないかもしれない。他に、今も殺されている子供が、今まで殺されてきた子供がいて、私はそれが良い方に向かっていくことと、それが今すぐ変わらないことを喜び、悲しむ方が先だったのかもしれない。
でも、『忌子』の呪いを解かれた私は、目を丸くしてから美しく微笑む、人間離れした獣のようなこの人に、本心を伝えて出迎えたかった。
「ありがとう、メルクール。僕も、君が生きて、ここで一緒に幸せに暮らしてくれることが、一番大事だよ」
そうして、強く抱きしめていたはずの私をいとも簡単に腕に載せるように抱き上げたヘンリー様は、私を見上げてこう言った。
「結婚しよう、メルクール。新しい時代を作るために、まずは僕らが幸せになろう」
王都で何があったのか、ヘンリー様が何をしてきたのかは、知らない。
けれど、私を見上げる眩しいほどの金髪と青い目の美しい人に、私は泣き笑いの顔で、はいと答えてからしがみついた。
……そのまま、屋敷まで運ばれるとは思わなかったけれど。
ヘンリー様が帰ってくるまでに、2週間の時間がかかった。
領主不在を変に思うようなグラスウェル領ではなかったが、私はまだだめだめで、夜中には一人で泣いてしまったりした。
人前では元気に過ごし、ちょっと遠くまでいってるのかもしれないわね、なんて知らないふりをして堪えたけれど、一人になったら不安で不安で仕方がなかった。
けれど、手紙が届いた。窓辺に鳩がとまる、なんて思いもしなかったし、いつの間にこんな鳩を仕込んでいたのかと驚いたけれど、いつまでも飛び立たない鳩の脚に手紙か括りつけられているのを見て、私は安堵の息を吐いた。
内容は少しだけ。いつ帰るかと、無事だよという簡単な内容。
そして、帰ると言われた日。私はグラスウェル領の領都の外壁の外、門の前で、ヘンリー様を朝からじっと待っていた。
ルルーが気を遣って、すぐ呼びますから近くで座られては、と言ってくれたけれど、私は立ってまっていた。
あの日、草原の只中にぼろ布のように捨てられて、立ちつくしてくるかも分からない迎えを待っていた時とは、違う。
必ず帰ってくる大事な人を、絶対に一番に迎えたくて、私は待った。
そして、ヘンリー様は日が中天に登りきる前に、走って返ってきた。草原を、手を振りながら此方に向って駆けてくる姿に、安心してまた泣きそうになった。
けれど、私を迎えてくれた時、ヘンリー様は笑顔だった。だから、私も笑顔で出迎えようと思う。
そして、ただいまを聞く前に、おかえりなさいと言ってすぐに思い切り抱き締めた。
生きて帰って来てくれた、この万感の思いを込めて、強く強く抱きしめた。
「……ただいま、メルクール。もう、全部、よい方にいく。何代も掛かるだろうけれど……全部」
「ヘンリー様……、あの、私がこんなことを言ってはいけないと重々承知しているのですが……」
「うん?」
私は、ここで幸せに生きる生き方を知ってしまったので、自分勝手にもなっていた。本当は嫌な子だったのかもしれない。聖人君子ではいられない。
「私は、貴方が生きて帰って来てくれたこと、無事で生きていてくれることが、何よりも大事です」
いよいよ我慢できなくなった私は、こらえきれない涙を流しながら、抱き締めた愛しい人を見上げて言った。
忌子の私がこれを言っては本当はいけないかもしれない。他に、今も殺されている子供が、今まで殺されてきた子供がいて、私はそれが良い方に向かっていくことと、それが今すぐ変わらないことを喜び、悲しむ方が先だったのかもしれない。
でも、『忌子』の呪いを解かれた私は、目を丸くしてから美しく微笑む、人間離れした獣のようなこの人に、本心を伝えて出迎えたかった。
「ありがとう、メルクール。僕も、君が生きて、ここで一緒に幸せに暮らしてくれることが、一番大事だよ」
そうして、強く抱きしめていたはずの私をいとも簡単に腕に載せるように抱き上げたヘンリー様は、私を見上げてこう言った。
「結婚しよう、メルクール。新しい時代を作るために、まずは僕らが幸せになろう」
王都で何があったのか、ヘンリー様が何をしてきたのかは、知らない。
けれど、私を見上げる眩しいほどの金髪と青い目の美しい人に、私は泣き笑いの顔で、はいと答えてからしがみついた。
……そのまま、屋敷まで運ばれるとは思わなかったけれど。
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