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21 忌子と呼ばれた公爵令嬢は辺境伯夫人として幸せに暮らしています
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――あのプロポーズの日から5年経った。
今私は、二人の子供を育てている。男の子と女の子の双子を妊娠したのだ。一体何のめぐりあわせだろう、とヘンリー様と笑ったけれど、笑ってこのグラスウェル領では育てることができる。
国の因習をすぐさま変える、王太子の正体を暴露する、真実の歴史を広める……全て、一気にやってしまっては、国内情勢が危うくなる。
それだけ染み付いた物を失くすというのは簡単な事ではない。だから、ヘンリー様は誓約書を交わしてきた。玉璽が押してある紙片一枚ですぐに何かが変わるかと言われればそうではないが、これは、一代限りの誓約ではない。
ひとつは今後、忌子とされた子供を殺した場合は殺人の罪が問われるようにすること。それでもまだ、隠れて殺す人は必ずいるだろうが、赤子を殺すことが罪だという当たり前を浸透させるには刑法にしてしまうのが一番早い。
そして、もう一つ。隣国の人を受け容れること。
もともとグラスウェル領には王室は関与せず、だからこそグラスウェル領は病に対しての……つまりは、衛生観念の高い技術を持つ隣国との付き合いがあり、国内でもかなり栄えているのだそうだ。
国内では未だに冒険者や商人がただ街に出ては煙たがられるが、国交を始めて王家が客人として招くところからはじめることで、徐々に交流が増えてきている。
その出入り口がグラスウェル領なのだから、情報は早い。
ブレンダには何も告げなかった。きっと、今も何も知らずに、詰め込み教育の王太子妃教育を受けて、不満を胸に抱えながら王太子妃になったことだろう。そんなに甘いものではないのだ、王太子妃、そして、ひいては未来の国母という立場は。
何も言わないことが、私のブレンダへの意趣返しでもある。そして、ヘンリー様と私と私たちの子供を守る切り札でもある。
因習に囚われているブレンダの方が、真実を知った時何をするか分からない。王太子は、ヘンリー様からの真実を聞いてから時折精神的に病まれているらしい。
大公の位もそのまま引き継いだヘンリー様が、現国王陛下の指名で王太子になる……というのは、あり得ない話ではない。現に、『王室に一番血が近い』のはヘンリー様だからだ。
だが、私たちの子のためにも、できれば元婚約者であるヨルング殿下には、国王陛下並みの面の皮の厚さと精神力を持ってもらいたいものだけれど。
……私は二人の子を侍女や乳母たちと一緒に育てているせいか、随分と図太くなった。
意地悪にも、自分勝手にもなったし、ある意味自分の実の家族や元婚約者に対しては、本当に酷いことを思っているかもしれない。
ただ、ヘンリー様が、初対面の私に見せたあの、強い圧迫感。殺気、と呼べるほどの感情を持っていることを、私は知っている。
私たちはお互いに知っている、変えられることの小ささと、大きさ。次の代へ引き継いでいく大事さ。変えられることを……隣国との交流や、技術の発展、刑法……ちゃんと変えるための、小さな一石を投じる事。
王室にとってグラスウェル領はますます目の上のたんこぶだろうし、グラスウェル領の方が暮らしやすいと、双子を産んだ若い夫婦が移住してくることも多くなった。
「メルクール、ちび達は昼寝の時間かな?」
「ヘンリー様、声が大きいです。今寝た所ですよ」
悪びれずに謝りながら、ベビーベッドで眠る双子を覗き込む瞳は、出会って、結婚して、それからもずっと優しいままだ。
いずれ、この子たちも身体能力がとびぬけていたら魔物狩りをするようになるのかしら? と少しだけ心配になるが、ヘンリー様が自分の過ちを教えてくれたからには、私も気を付けて子供を見る事にしよう。
今はまだ、この双子は言葉も操らない赤子なのだ。
未来はこれから変わっていく。どう変わるのかは、分からないけれど。
少なくとも、忌子と呼ばれて生かされていた私は、野獣と呼ばれて忌避されていたヘンリー様によって、幸せな人間としての人生を歩めるようになった。
これから先何があろうと、ヘンリー様と子供たちと、大好きな人たちを大事にして、生きていく。
私にできることは……相変わらず少ないけれど、それは増やしていけばいい。
人生はまだ長い。私は今、グラスウェル辺境伯夫人として、幸せに暮らしている。
わかっているのは、それだけだ。
今私は、二人の子供を育てている。男の子と女の子の双子を妊娠したのだ。一体何のめぐりあわせだろう、とヘンリー様と笑ったけれど、笑ってこのグラスウェル領では育てることができる。
国の因習をすぐさま変える、王太子の正体を暴露する、真実の歴史を広める……全て、一気にやってしまっては、国内情勢が危うくなる。
それだけ染み付いた物を失くすというのは簡単な事ではない。だから、ヘンリー様は誓約書を交わしてきた。玉璽が押してある紙片一枚ですぐに何かが変わるかと言われればそうではないが、これは、一代限りの誓約ではない。
ひとつは今後、忌子とされた子供を殺した場合は殺人の罪が問われるようにすること。それでもまだ、隠れて殺す人は必ずいるだろうが、赤子を殺すことが罪だという当たり前を浸透させるには刑法にしてしまうのが一番早い。
そして、もう一つ。隣国の人を受け容れること。
もともとグラスウェル領には王室は関与せず、だからこそグラスウェル領は病に対しての……つまりは、衛生観念の高い技術を持つ隣国との付き合いがあり、国内でもかなり栄えているのだそうだ。
国内では未だに冒険者や商人がただ街に出ては煙たがられるが、国交を始めて王家が客人として招くところからはじめることで、徐々に交流が増えてきている。
その出入り口がグラスウェル領なのだから、情報は早い。
ブレンダには何も告げなかった。きっと、今も何も知らずに、詰め込み教育の王太子妃教育を受けて、不満を胸に抱えながら王太子妃になったことだろう。そんなに甘いものではないのだ、王太子妃、そして、ひいては未来の国母という立場は。
何も言わないことが、私のブレンダへの意趣返しでもある。そして、ヘンリー様と私と私たちの子供を守る切り札でもある。
因習に囚われているブレンダの方が、真実を知った時何をするか分からない。王太子は、ヘンリー様からの真実を聞いてから時折精神的に病まれているらしい。
大公の位もそのまま引き継いだヘンリー様が、現国王陛下の指名で王太子になる……というのは、あり得ない話ではない。現に、『王室に一番血が近い』のはヘンリー様だからだ。
だが、私たちの子のためにも、できれば元婚約者であるヨルング殿下には、国王陛下並みの面の皮の厚さと精神力を持ってもらいたいものだけれど。
……私は二人の子を侍女や乳母たちと一緒に育てているせいか、随分と図太くなった。
意地悪にも、自分勝手にもなったし、ある意味自分の実の家族や元婚約者に対しては、本当に酷いことを思っているかもしれない。
ただ、ヘンリー様が、初対面の私に見せたあの、強い圧迫感。殺気、と呼べるほどの感情を持っていることを、私は知っている。
私たちはお互いに知っている、変えられることの小ささと、大きさ。次の代へ引き継いでいく大事さ。変えられることを……隣国との交流や、技術の発展、刑法……ちゃんと変えるための、小さな一石を投じる事。
王室にとってグラスウェル領はますます目の上のたんこぶだろうし、グラスウェル領の方が暮らしやすいと、双子を産んだ若い夫婦が移住してくることも多くなった。
「メルクール、ちび達は昼寝の時間かな?」
「ヘンリー様、声が大きいです。今寝た所ですよ」
悪びれずに謝りながら、ベビーベッドで眠る双子を覗き込む瞳は、出会って、結婚して、それからもずっと優しいままだ。
いずれ、この子たちも身体能力がとびぬけていたら魔物狩りをするようになるのかしら? と少しだけ心配になるが、ヘンリー様が自分の過ちを教えてくれたからには、私も気を付けて子供を見る事にしよう。
今はまだ、この双子は言葉も操らない赤子なのだ。
未来はこれから変わっていく。どう変わるのかは、分からないけれど。
少なくとも、忌子と呼ばれて生かされていた私は、野獣と呼ばれて忌避されていたヘンリー様によって、幸せな人間としての人生を歩めるようになった。
これから先何があろうと、ヘンリー様と子供たちと、大好きな人たちを大事にして、生きていく。
私にできることは……相変わらず少ないけれど、それは増やしていけばいい。
人生はまだ長い。私は今、グラスウェル辺境伯夫人として、幸せに暮らしている。
わかっているのは、それだけだ。
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