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第一話 開かれた大人への扉
⑥修治と優美、急速に大人へと成長する
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茉莉先生とその道のプロの導きで大人への扉を開かれた修治は急速に大人になって行った。京都を出て東京の新聞社で記者になりたいとの思いを初め、次から次へと新しい考えが頭に浮かんで来て、自分がちょっと成長したような感覚を抱いた。彼には未知だったその気分は、別の意味では、修治に少し疲れを覚えさせ、彼は歳をとったようにも感じた。反面、これまでの思い出が心の中に呼び覚まされ、成熟したという新しい感覚によって心に映る自分の姿が変わった。周囲の者たちの中で独り際立ち、独特の存在となったとの思いである。修治は自分に執り憑いたその感覚を解ってくれる人が欲しかった。
人が大人へと成長して行く過程で、人生を初めて後ろ向きに見る瞬間がある。それが大人への境界線を越える瞬間である。修治は未来を想い、自分が世界に於いてどのような存在になるのかを考えた。野心が自分の中で目覚め、過去の物事の幻影が意識に入り込んで来る。と突然、自身の外から囁き声が聞こえて来て、人生には限界が有るのだと告げる。自分自身とその未来に大きな自信があったのに、彼は全く自信を無くす。修治は、自分より以前に生存した人々を、無の中からこの世に誕生し、それぞれの人生を生き、無の中へ消えて行った無数の人々を、思った。見識を備えてしまった悲しみを、修治は今、味わった。自分自身が街路に落ちた一枚の葉、風によって簡単に吹き飛ばされる葉に過ぎないことに、ハッと小さく息を呑んで気付いた。自分は風に吹き飛ばされ陽に当たって萎びて行く存在として、確信を持てぬままに生き、そして、死ななければならないのかと思った。彼は身震いし、これまで生きて来た十九年間が将に一瞬のように感じられ、人類の長い歴史におけるほんの一呼吸の間に過ぎないと覚った。
修治は他の誰かと親密になりたいと心の底から願った。誰かに手で触れ、誰かの手で触れられたい・・・そうして、彼の心は新藤優美に向かった。
自分が大人の男に成長して行く過程で、優美もまた大人の女へと成長して行くだろうこと彼は意識していた。彼は優美に逢いたいと切望した。自分の心に生まれた衝動について語りたい、大人の男として話したい・・・修治は自分の中に何らかの変化が生じたと確信し、その変化を彼女に感じて貰いたいと欲した。
優美もまた変化の時期に辿り着いていた。東京の国立大学医学部に入学したエリートとして心身に自信を培い、内気で内生的な女の子から、人生の新しい局面をも切り拓いて行くチャレンジャブルな大人への階段を登りつつあった。修治の感じていたことを、彼女も若い娘なりに感じていたのである。東京の大都会で歳月を過ごし、大劇場の大芝居を観て感激したり、歓楽街や繁華街の大通りを群れ歩く大群衆を見たりして、自分が大きく変わったと考えていた。もはや少女ではなく、大人の女の気品と美貌と知性を併せ備えようと必死になっていると思っていた。
或る日、優美は医学研究会で知り合った先輩からコンサートに誘われた。彼は物知りで、ファッショナブルで、エスコートもしっかりと心地良く熟した。だが、彼は何かにつけてぶるところがあり、優美は直ぐに自分には合わないと感じた。彼は地方の出身であるのに都会の雰囲気をひけらかし、自分を国際的な人間だと見せたがった。彼の声は尊大で重苦しく響いた。話を聞いている内に優美はうんざりして来た。彼女は落ち着かず、心を取り乱した。並んで座ってコンサートを聴きながらじれったい気持に駆り立てられ、苛立ちを募らせて、心の中で「修治さん!」「修治さん!」と叫んでいた。
優美は思い出を呼び覚まして修治のことを考えた。優美は夏休みや冬休みには必ず京都の実家へ帰省した。そして、帰ると直ぐに修治と逢った。
人が大人へと成長して行く過程で、人生を初めて後ろ向きに見る瞬間がある。それが大人への境界線を越える瞬間である。修治は未来を想い、自分が世界に於いてどのような存在になるのかを考えた。野心が自分の中で目覚め、過去の物事の幻影が意識に入り込んで来る。と突然、自身の外から囁き声が聞こえて来て、人生には限界が有るのだと告げる。自分自身とその未来に大きな自信があったのに、彼は全く自信を無くす。修治は、自分より以前に生存した人々を、無の中からこの世に誕生し、それぞれの人生を生き、無の中へ消えて行った無数の人々を、思った。見識を備えてしまった悲しみを、修治は今、味わった。自分自身が街路に落ちた一枚の葉、風によって簡単に吹き飛ばされる葉に過ぎないことに、ハッと小さく息を呑んで気付いた。自分は風に吹き飛ばされ陽に当たって萎びて行く存在として、確信を持てぬままに生き、そして、死ななければならないのかと思った。彼は身震いし、これまで生きて来た十九年間が将に一瞬のように感じられ、人類の長い歴史におけるほんの一呼吸の間に過ぎないと覚った。
修治は他の誰かと親密になりたいと心の底から願った。誰かに手で触れ、誰かの手で触れられたい・・・そうして、彼の心は新藤優美に向かった。
自分が大人の男に成長して行く過程で、優美もまた大人の女へと成長して行くだろうこと彼は意識していた。彼は優美に逢いたいと切望した。自分の心に生まれた衝動について語りたい、大人の男として話したい・・・修治は自分の中に何らかの変化が生じたと確信し、その変化を彼女に感じて貰いたいと欲した。
優美もまた変化の時期に辿り着いていた。東京の国立大学医学部に入学したエリートとして心身に自信を培い、内気で内生的な女の子から、人生の新しい局面をも切り拓いて行くチャレンジャブルな大人への階段を登りつつあった。修治の感じていたことを、彼女も若い娘なりに感じていたのである。東京の大都会で歳月を過ごし、大劇場の大芝居を観て感激したり、歓楽街や繁華街の大通りを群れ歩く大群衆を見たりして、自分が大きく変わったと考えていた。もはや少女ではなく、大人の女の気品と美貌と知性を併せ備えようと必死になっていると思っていた。
或る日、優美は医学研究会で知り合った先輩からコンサートに誘われた。彼は物知りで、ファッショナブルで、エスコートもしっかりと心地良く熟した。だが、彼は何かにつけてぶるところがあり、優美は直ぐに自分には合わないと感じた。彼は地方の出身であるのに都会の雰囲気をひけらかし、自分を国際的な人間だと見せたがった。彼の声は尊大で重苦しく響いた。話を聞いている内に優美はうんざりして来た。彼女は落ち着かず、心を取り乱した。並んで座ってコンサートを聴きながらじれったい気持に駆り立てられ、苛立ちを募らせて、心の中で「修治さん!」「修治さん!」と叫んでいた。
優美は思い出を呼び覚まして修治のことを考えた。優美は夏休みや冬休みには必ず京都の実家へ帰省した。そして、帰ると直ぐに修治と逢った。
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