大人への門

相良武有

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第四話 喝采の陰影

④容疑者村山、警察に出頭

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 事件から三日後、村山浩次が麻雀仲間の一人に付き添われて、警察に出頭して来た。
警察署の前にタクシーが到着し、仲間と共に村山が降り立った。彼は彫りの深いイケメンだったが、顔は蒼白だった。その顔にパッパッと報道陣のフラッシュが叩きつけられた。
午後二時過ぎ、早速に取調べが始まった。
尋問したのは黒木と岩井の二人だった。
「じゃ、十一時十分頃、一度自分の部屋へ帰ったんだな」
「ハ、ハイ」
村山の貌は酷く蒼ざめている。
「何しに?」
「金を取りに、です」
「何の金?」
「ですから、麻雀がつかなくて負けが込んで・・・丁度、二抜けで間が有ったので」
「雀荘へ戻ったのは?」
「十一時、四~五十分頃だったと思います」
「それ以後は朝までずっと皆と一緒にやって居たんだな」
「ハイ」
「死亡推定時刻からすると、あんたは死体を見たことになるな」
「えっ?」
「見たんだろう、ねえ。その時、どうして直ぐ警察に知らせようと思わなかったんだ?」
「・・・・・」
「えっ!」
「怖くて・・・」
「怖けりゃ直ぐに知らせるだろう!」
「然し・・・自分が疑われると思って」
暫く、間が開いた。
「じゃぁ、誰か心当たりが他に在るのか?」
紙と鉛筆が村山の前に突き付けられた。
「さあ、書けよ、見た通りに、な。さあ・・・」
「・・・・・」
「さあ、考えて、よく考えて」
村山は頑なに押し黙ってしまった。
「賭け麻雀したって、それだけでなッ、賭博行為でふん縛れるんだぞ!」
「・・・・・」
ギクッとなった村山の貌はより一層蒼白になった。
もう一人のベテラン刑事がニコニコと煙草を勧めた。
「どうだ?」
「・・・・・」
「喫うんだろう?さあぁ」
村山が頭を下げて一本抜き取った。
刑事が火を点けてやりながらニコニコ顔で言った。
「そう困らせないで、正直に全部吐いちゃいなよ、ね」
 一息入れに刑事部屋に戻った黒木に、聞き込みから帰って来た刑事が額を寄せて報告した。
「この前、週刊誌でちょっと騒がれた、女性歌手の移籍騒ぎ、ってのがあったでしょう」
「ああ、失踪した女性歌手の事件か?」
「その時に作曲家の嶋崎龍一が黒幕で絡んでいると言う話が出て」
「今、売れっ子の嶋崎が、か?」
「こいつは歌の世界の実力者で、彼に睨まれるとどうしようもないって奴らしいです」
「ほう~」
「ところがこの事件の時、嶋崎の後ろにやくざが着いていると言う噂が囁かれたんですが、その折に、今度殺された平田の名前がチラッと出たことが有ったそうなんですよ」
二人は眼を見つめ合って、頷き合った。
 その時、デスクの電話が鳴って、女性事務官が取り次いだ。
「黒木さん、お電話です」
「うん、有難う・・・はい、黒木です」
「若原美樹です、今朝来て頂いた」
「ああ、ハイ」
「あの~、わたし・・・今朝は部屋にマネージャーが居たものですから言えなかったんですけど、真実は、事件の有ったあの晩、わたし、浩次さんとずうっと一緒に居たんです」
「えっ?」
「だから、浩次さん、絶対に犯人じゃありません!」
「詳しくお話をお聞かせ願えませんか?今から直ぐ其方に伺います、良いですね!」
黒木は否応を言わせぬ断定的な言い方で電話を切った。
取調室に戻った黒木は岩井の耳に何かを囁いて、直ぐに部屋から出て行った。
村山がギクッと蒼白い顔を上げた時、岩井が村山の前に座り込んで言った。
「若原美樹のことを聴きたいんだがね」
「・・・・・」
「若原美樹は平田のことを知っていたかね?」
「・・・俺が紹介しました」
「ほう・・・」
「・・・・・」
「いつ?」
「二月ほど前です」
「どういうことで?」
「純子が・・・若本純子と言うのが若原美樹の本名です」
記録を取っていた若い刑事が興味あり気に村山の方を見やった。
「純子が、チャンスが欲しい、って言ったんで」
「チャンス?」
「ハイ」
「何の?」
村山が答えるのを少し躊躇った。
やがて、ぽつりと呟くように言った。
「テレビに出る為のチャンスです」
「で?」
「はい?」
「チャンスは作って貰えたのかね」
「ハイ」
だが、村山は何かに必死で耐えているように岩井には見えた。
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