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第六話 花の陰に
④それは将に事件だった
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将にそれは事件だった。
彼がマンションに戻ったその瞬間に、まるで帰り着くのを待ち構えたように、山村智香子嬢からメールが届いた。
「正月に撮って貰った写真は凄く素的だった。今週末から一週間ほど、無論BMWで東京に行くから、都内のあれこれをバックに写真を撮って欲しい。東京に着いたらホテルから電話する」
その予定日はと言えば、それはもう明日なのであった。
翌日、俊彦は都内某ホテルへ駆けつけてBMWで上京して来た智香子嬢を出迎えた。
が、智香子嬢は目立ち過ぎた。白いBMWだけでなく本人そのものがBMW並みに目立つのである。特別に派手な姿と言う訳ではないのだが、裕福な家の娘と言うのは人目を引く。顔の肌からしてが、新鮮なゆで卵の剝きたてみたいにつるつるに光っていて、リッチ感を漂わせている。そんな娘を一日だけでなく二日も三日も、そして、四日も一週間も、見続け会い続けていれば、余程鈍感な男でない限り気持が動揺して来る。
「嘘よ、そんな!私、そんなに目立つ子じゃないってば」
智香子嬢は健気にもそう言い張ったのであるが・・・。
一週間の都内見物の間、智香子嬢は飽きることも無く隣に座って、うちの話や友達の噂話、デパートや名店街のサンドウィッチ、魔法瓶入りのコーヒー等々の話題で俊彦の気を引き立てた。
そして、愈々最後の晩に、俊彦がホテルまで送ろうとすると、智香子嬢は車を千鳥ヶ淵の桜並木の下に停めて、何か言い澱んでいる風情をした。
「あのねえ」
「うん?」
「・・・・・」
「うん?」
「私、このまま帰るの、嫌だ。このままじゃ帰れない」
俊彦が見ると、運転席の智香子嬢はぽおっと上気した瞼を閉じ、頭をゆっくりシートにもたせ掛け、思いなしか、唇を尖らせて何かを待って居る気配である。
俊彦は思わず引き寄せられるように、自分の唇を彼女の唇に合わせた。熱で乾いた二人の唇がカサカサと触れ合った。だが、こんな金持のお嬢様と何処まで進んで良いのやら、俊彦は迷った挙句、もう一度、カサカサカサと唇を擦り合わせただけで身を引いた。途端に智香子嬢はぱっちりと眼を開いて、言った。
「キスってこんなものなの?みんな素的だ、素的だ、って言うから、どんなに素晴らしいのかと思ったのに・・・こんなものなの?」
俊彦はもう堪らなくなって、智香子嬢をしっかり抱いてもう一度キスしようとしたが、ハンドルが邪魔になって思うようにいかない。と、智香子嬢が手をすう~っとレバーに伸ばして座席を斜めに傾け、そのまま二人はBMWの豪華で弾力溢れるクッションに包まれて深い深いキスをした。やがて智香子嬢がうっとりと漸く夢から覚めたような声で言った。
「良かったぁ。溶けちゃいそうだったなぁ」
そして、もう一度、俊彦の首へしがみついて来た。抱き着かれた俊彦は慌てふためいたが、直ぐに二人はしっかりと抱き合った。智香子嬢は恥じらいに全身を上気させて俊彦の胸に顔を埋め、その心臓の高鳴る鼓動がそのまま俊彦の胸骨に共振した。彼は智香子嬢の熱に火照る全身をしっかりと己が肉体に感じた。肩から胸、胸から背中、背中からヒップ、そして、とうとう蜜の溢れる秘所に手を伸ばした時、彼女は急に身体を固く閉じて叫ぶように言った。
「駄目、駄目、そこは駄目よ、絶対に。お嫁に行けなくなってしまう!」
その言葉を聞いた瞬間、俊彦の身体は何処からともなく力が抜け落ちて、萎えて行った。
智香子嬢は俊彦の胸に尚も深く顔を埋め、腕に力を込めて抱き着いて来るのであるが、然し、その両足は縄のように互いにしっかりと絡み合って開くことは無かった。
翌日、智香子嬢は目出度く故郷へ帰って行き、俊彦は自分でも訳の解らぬ深い溜息を吐いたのだった。
彼がマンションに戻ったその瞬間に、まるで帰り着くのを待ち構えたように、山村智香子嬢からメールが届いた。
「正月に撮って貰った写真は凄く素的だった。今週末から一週間ほど、無論BMWで東京に行くから、都内のあれこれをバックに写真を撮って欲しい。東京に着いたらホテルから電話する」
その予定日はと言えば、それはもう明日なのであった。
翌日、俊彦は都内某ホテルへ駆けつけてBMWで上京して来た智香子嬢を出迎えた。
が、智香子嬢は目立ち過ぎた。白いBMWだけでなく本人そのものがBMW並みに目立つのである。特別に派手な姿と言う訳ではないのだが、裕福な家の娘と言うのは人目を引く。顔の肌からしてが、新鮮なゆで卵の剝きたてみたいにつるつるに光っていて、リッチ感を漂わせている。そんな娘を一日だけでなく二日も三日も、そして、四日も一週間も、見続け会い続けていれば、余程鈍感な男でない限り気持が動揺して来る。
「嘘よ、そんな!私、そんなに目立つ子じゃないってば」
智香子嬢は健気にもそう言い張ったのであるが・・・。
一週間の都内見物の間、智香子嬢は飽きることも無く隣に座って、うちの話や友達の噂話、デパートや名店街のサンドウィッチ、魔法瓶入りのコーヒー等々の話題で俊彦の気を引き立てた。
そして、愈々最後の晩に、俊彦がホテルまで送ろうとすると、智香子嬢は車を千鳥ヶ淵の桜並木の下に停めて、何か言い澱んでいる風情をした。
「あのねえ」
「うん?」
「・・・・・」
「うん?」
「私、このまま帰るの、嫌だ。このままじゃ帰れない」
俊彦が見ると、運転席の智香子嬢はぽおっと上気した瞼を閉じ、頭をゆっくりシートにもたせ掛け、思いなしか、唇を尖らせて何かを待って居る気配である。
俊彦は思わず引き寄せられるように、自分の唇を彼女の唇に合わせた。熱で乾いた二人の唇がカサカサと触れ合った。だが、こんな金持のお嬢様と何処まで進んで良いのやら、俊彦は迷った挙句、もう一度、カサカサカサと唇を擦り合わせただけで身を引いた。途端に智香子嬢はぱっちりと眼を開いて、言った。
「キスってこんなものなの?みんな素的だ、素的だ、って言うから、どんなに素晴らしいのかと思ったのに・・・こんなものなの?」
俊彦はもう堪らなくなって、智香子嬢をしっかり抱いてもう一度キスしようとしたが、ハンドルが邪魔になって思うようにいかない。と、智香子嬢が手をすう~っとレバーに伸ばして座席を斜めに傾け、そのまま二人はBMWの豪華で弾力溢れるクッションに包まれて深い深いキスをした。やがて智香子嬢がうっとりと漸く夢から覚めたような声で言った。
「良かったぁ。溶けちゃいそうだったなぁ」
そして、もう一度、俊彦の首へしがみついて来た。抱き着かれた俊彦は慌てふためいたが、直ぐに二人はしっかりと抱き合った。智香子嬢は恥じらいに全身を上気させて俊彦の胸に顔を埋め、その心臓の高鳴る鼓動がそのまま俊彦の胸骨に共振した。彼は智香子嬢の熱に火照る全身をしっかりと己が肉体に感じた。肩から胸、胸から背中、背中からヒップ、そして、とうとう蜜の溢れる秘所に手を伸ばした時、彼女は急に身体を固く閉じて叫ぶように言った。
「駄目、駄目、そこは駄目よ、絶対に。お嫁に行けなくなってしまう!」
その言葉を聞いた瞬間、俊彦の身体は何処からともなく力が抜け落ちて、萎えて行った。
智香子嬢は俊彦の胸に尚も深く顔を埋め、腕に力を込めて抱き着いて来るのであるが、然し、その両足は縄のように互いにしっかりと絡み合って開くことは無かった。
翌日、智香子嬢は目出度く故郷へ帰って行き、俊彦は自分でも訳の解らぬ深い溜息を吐いたのだった。
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