大人への門

相良武有

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第七話 陽炎揺れて

⑤裕次の旅館で指名手配の強盗犯逮捕される

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 瞬く間に一週間が過ぎた。その間、裕次は二、三度、伊根を訪れた。
その夜も団体客が入って離れ座敷が賑わっていたが、急に調理場に繫がる勝手口が騒がしくなって制服の巡査と背広姿の男が二人、入って来た。直ぐに、豊子が新聞の写真を示しながら何事かを訴え始めた。話を聞き終えた巡査たち三人は豊子に追われるようにして調理場に入り、従業員用エレベータで上の階へ上がって行った。その場に居た会長が眉を寄せて見送った。
何事だろうと入って来た裕次が会長に訊ねた。
「どうしたん?」
「先ほどチェック・インした黒縁眼鏡の男が新聞に写真の出ている男によう似ている言うてな、電話を架けよったんや」
「新聞に写真って?」
「強盗犯人らしい、全国手配になっていた・・・」
「ふ~ん」
「儂が、止めとけ、って言うたのに・・・」
会長の呟きには、余計な真似をしよって、と言う思いが表れていた。
やがて、手錠を掛けられた男が二人の私服刑事に腕を抱えられてエレベータから出て来た。それを見て気の毒そうな顔をした会長の横を得意げな表情の豊子が通り過ぎた。
「悪いことをした人間は眼を見りゃ直ぐ判るのよ」
巡査が敬礼して会長を見、慇懃に言った。
「ご協力有難うございました。いずれ後ほど・・・」
刑事たちは男を促して勝手口から外へ出て行った。豊子が弾むような声を掛けて見送った。
「ご苦労様でした」
会長は嫌ぁ~な顔で調理場へ入って、豊子に命じた。
「豊さん、ビール!母屋の方へな・・・」
「は~い、只今」
ビールを持って会長の居間に入って来た豊子が嬉しそうに言った。
「乾杯ですね。又、表彰もんじゃものね」
会長はムスッとした表情を崩さなかった。
「酒でも飲まなきゃやり切れんよ」
そう呟いてコップのビールをひと息に呷った。
裕次は先程から胸の中で思っていた。
これはヤバイ、此の侭では洋子も直ぐに捉まる、早く逃してやらねば・・・
 裕次は何かを吹っ切るように、切羽詰まった表情で居間に入り、会長の前に立った。
「会長、否、親父、頼む、何も言わずに金を貸して欲しい」
「・・・・・」
顔を上げた会長、否、親父が黙って裕次の顔を見上げた。
「五十万円、いや、三十万円でも良い、頼む」
親父は裕次の顔を見据え続けた。
「必ず返す、倍働いて必ず返す。直ぐに要るんや!」
親父はビールをコップに注いでまたひと息に飲み干した。
裕次は哀訴の眼で親父を凝視した。
やがて親父は箪笥の抽斗を開けて紙入れを取り出し、無造作に札束を裕次の足元へ放り投げた。
「無茶はするな!それが解かって居たら何も言わん」
「必ず働いて返すから、嘘やないから」
裕次は強張った表情のまま札束を鷲掴みにすると直ぐに出て行こうとした。
「あっ、一寸待て」
裕次は慌てて振り返ったが、親父はその顔を見ようともせずに首を振って言い直した。
「いや、良い。何でもない。早よ行け!」
裕次は感謝の眼で親父を見詰め、身を翻すと真直ぐ玄関の方へ飛び出して行った。
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