【完結】エリート産業医はウブな彼女を溺愛する。

花澤凛

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イニシングブルー

恋愛初心者

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 福原果穂26歳。
 大好きな人とお付き合いすることになりました。

 
 毎日メッセージアプリの画面を見てニヤニヤしてしまう。
 送られたメッセージの内容を読み返してしまう。
 一言一句違わずに会話した内容を思い出し、ベッドの上でバタ足。
 枕を抱えて転がって。ひとり悶えながらメッセージアプリの千秋先生のアイコンをアップにする。

 (はぁー、かっこいい)

 この気持ち悪い一連の流れが付き合って三日目にして早くも習慣になりつつあるってどうなんだろうというのはもはや気にしない。うん、気にしない。

 「シンデレラストーリーじゃん」

 火曜PM8:00。
 
 私は千秋先生承諾の元、美雨ちゃんには報告した。ずっと応援してくれていたし何より知っていてほしかった。

 「そ、そうかな?」
 「そうだよ。千秋先生も果穂のこと気になってたなんて。お互い様子見だったんだね」

 美雨ちゃんは見た目にそぐわず豪快にビールジョッキを傾けた。ごくごくと喉を鳴らす。

 「でも千秋先生のいう“かわいい”はわかるわ。私だって男だったら果穂を囲いたいもん」
 「囲うって」
 「そうじゃん。脈ありだってわかった瞬間捕まえにきたんだからもうそれは囲われてるよ。それに毎日電話するんでしょ?」
 「…うん」
 「ひひひ。愛されてるねぇ」

 ニヤニヤとした視線に苦笑した。「愛されてるの」と自信を持って言えないのはトラウマのせいか。

 「大丈夫だって。千秋先生それほど器用そうじゃないし。その茅野さん?って人のことも説明してくれたんでしょ?」

 初めて付き合った彼は高校一年生のとき。同じ部活のひとつ上先輩だった。お互いが初めての彼氏で彼女。何をするのも手探り状態。それが楽しかったけど、エッチは失敗ばかりだった。

 「うん。福原さんには誤解されたくないからって」
 「だったら信じなさい。果穂は可愛いよ」

 緊張しすぎて彼のアレが中折れしたり、勃たなかったり。私が痛すぎて挿れられなかったり、濡れなかったり。そのうちだんだんお互い自信もなくなって、彼が高校を卒業してしまった。そんな彼と私は彼が大学進学後も付き合っていた。しかし、受験であまり会わなくなったうちに浮気されていた。彼はテニスサークルという名のヤリサーに入って色んな女性とシまくっていたらしい。そのことを同じ部活だった先輩から聞いてメッセージアプリをプロックした。当時はすごく落ち込んだし、結構ひきづった。それもあって、正直千秋先生と付き合えて嬉しいけど心配事が絶えない。

 「“恋愛初心者です”って先に伝えておけばいいんじゃない?」
 「…うん、そうだね」
 「千秋先生なら喜んで教えてくれそうだし。手取り足取り」
 
 美雨ちゃんの手がワキワキとしている。その手の動きに苦笑しているとテーブルに置いたスマホが着信を告げた。

 「はいキターー」
 「わ、ほんとだ」
 「でなよ。ってかでて?どんな話するのか聞きたいし」

 美雨ちゃんのいる前で千秋先生と会話なんて。
 少し恥ずかしいけど、彼女の言葉に甘えてスマホの画面をスライドさせた。
 
 『おつかれ、果穂。今いい?』

 千秋先生はいつも必ず名前を呼んでくれる。低くて重みのある声なのに甘くて優しい。自分の名前がとても特別に聞こえて呼ばれるたびにくすぐったくなる。

 「今、友人と食事してて少しだけなら」
 
 ちらっと美雨ちゃんを見れば「えー」と頬を膨らませている。いつもみたいに話せ、ということなんだろうけどそれはふたりの時がいい。時間も場所も気にせず話せないと落ち着かないし。

 『来週末予定ある?よかったら出かけない?』
 
 千秋先生からデートのお誘いに胸がときめく。
 思わず美雨ちゃんの方を見れば私以上に目を輝かせて全力で何度も頷いていた。

 「い、いきましゅ!いきますっ」

 嬉しすぎて噛んでしまったけれど何事もなかったかのように言い直せば、電話口の向こうからクスクスと笑い声が聞こえる。そんな笑い声すらも私をときめかせるから、どうすればいいか分からない。

 (千秋先生が笑ってる…!しかもデートにまで誘ってくれた)

 じぃん、としていると千秋先生が「詳細はメッセージするね」と気を遣ってくれた。思わず「すみません」と謝れば金平糖が落ちてきた。

 『どうして謝るの。俺が果穂の声を聞きたいだけなんだから』

 ポトリと落ちた金平糖が口の中に溶けていく。一気に頬が熱くなって思わず手で頬を触ると美雨ちゃんが変態おじさんのような顔をしていた。口元がだらしなく緩んでデヘデヘと残念な笑顔を浮かべている。そのせいでまたブァっと頬が赤くなった気がしたけど彼は『気をつけて帰るんだよ』とすぐに切ってしまった。

 「…切れた」

 自分から「友人と食事をしている」と言ったのにこうしてすんなり電話をきられると物足りない。せっかく声が聞けたのに、と落ち込んでいると美雨ちゃんがパンと手を合わす。

 「週末ってことはお泊まりね?」
 「えぇ?!さすがにまだ、それは…」
 
 付き合ってまだ三日。来週だとちょうど二週間。人によっては付き合った時間なんて気にしないという。美雨ちゃんもそのタイプだ。本音を言えば、好きなら別にいいと思う。でもこれはあくまで他人だから言えること。
 

 「大丈夫よ。千秋先生なら全部喜んでくれるって。あとはその日に備えて準備しよう。思いっきり色っぽい下着とか可愛い部屋着とか買いに行こ?」

 美雨ちゃんのいう通りいつその勝負の日が来るかわからない。今着ている部屋着も気に入っているけど、年季が入っているしそろそろ新しいものを買ってもいいかもしれない。

 「…そうだね。買いに行く」
 「うんうん。果穂って意外と大胆なところあるから展開が早そうな気がする」
 「…さすがにちょっと怖いから自分からいく勇気は出ないかも」

 なんたって途中までしかシたことがない。男性のアレが途中まで入っただけで激痛だったのにすべて体の中に挿れたら失神してしまいそうだ。

 今から色々と心配になる。ただでさえ千秋先生と身長差があるし。一般的な大きさとかもわからないけど、産婦人科での触診でもまあまあ痛かったし…。
 
 「そういうのは千秋先生に丸投げすればいいの。果穂はもっと“一緒にいたい”って思ったらきっと突っ走っちゃうから」
 
 この時の私はまさかこの美雨ちゃんの発言が現実になろうとは思ってもいなかった。
 


 
 
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