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紹介してくれた人?
しおりを挟む駅から徒歩10分の所にあるマンション、casa del ventoの502号室のドアを開けた。人感センサーが反応してパッと玄関が明るくなる。
美幸のテンションもMAXだ。
「わー、お部屋いろいろ見ていいですか?」
「ああ、あちこち探検してごらん」
「はーい、おじゃまします」
田辺の了解を取るなりパタパタとあちこちのドアを開け、美幸の探検が始まる。
「トイレだ」「こっちは、お風呂だ」と、年相応にはしゃぐ美幸の様子に沙羅は目を細めた。
2LDKのお部屋はふたりで暮らすには十分の広さ。
美幸の学区から外れてしまうが、卒業までの半年なら越境通学も学校の許可が降りるだろう。
「田辺社長、本当にこのお部屋お借りしていいんですか?」
「もちろん、そのつもりで紹介しているんだから使ってもらえると嬉しい。それに佐藤さんと美幸ちゃんになら安心して貸せるよ」
「田辺社長には、お世話になりっぱなしですね。足を向けて眠れません」
「あはは、大げさだな。佐藤さんの手助けが出来るの僕も良かったと思うし、紹介してくれた人も安心だと思うよ」
沙羅は、紹介してくれた人と聞いて、田辺の名刺をくれた日下部真理を思い浮かべた。
「そうですね。limpiezaを紹介してくれた日下部真理にもお礼の連絡入れておきます」
素直な沙羅の言葉に、田辺はキョトンと固まる。
「あっ、ああ……そうだね」
と返事をしたものの。
なかなか前途多難だなと、同情を寄せる田辺だった。
もうすぐ、仕事も兼ねて上京すると言っていたから偶然を装い、ふたりを会わせてあげたいと心の中で甘い陰謀を企てる。
「お母さーん、わたしの部屋こっちでもいい?」
美幸の興奮気味の声が聞こえて、困り顔の沙羅がそれをたしなめる。
「美幸、ちょっと落ち着いて」
「ごめんなさい。でも、楽しみなんだもん。ねえ、このお部屋にいつから住めるの?」
沙羅はいつ引っ越しをしようかと顎に手を当て本気で悩んでしまう。なるべく早く家を出たいが、準備もある。
すると横に居る田辺が助け船を出してくれた。
「この部屋自体は直ぐにでも住めるよ。でも、美幸ちゃんの今住んでいる家から持って来る物があるなら準備をしてからだよね」
「そうかー。直ぐに住みたいけど、準備しないとですよねー」
父親の政志と会いたくない美幸は、ガックリとうなだれる。
それを察した沙羅は、美幸を励ますよう声を掛けた。
「今日から荷造りして、早く引越しが出来るように頑張りましょう」
「うん!」
「じゃあ、この部屋に住むのは決定でいいね。佐藤さん、鍵を渡して置くから」
「ありがとうございます」
沙羅は、田辺から部屋の鍵を受け取る。
一歩前へ進んだような気持ちになり、自然と笑みがこぼれた。
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