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心の負担が、体にくる
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◇
塾を終えた美幸と家に帰った沙羅は、夕ごはんを食べ始めた。テーブルの上には、玉子とじうどんとお新香という軽めのメニューが並んでいる。
完全に手抜き料理だが、今の沙羅には、料理をするのも、食べるのもキツイ作業に感じられた。
今日、中山と会ったショックからか、沙羅は胃がツキッと痛み、箸が止まる。
「お母さん、どうしたの?」
美幸に心配かけないよう笑顔を作る。
「ううん、ボーっとしてごめんね」
「なんでもないなら、いいけど」
もう一つの問題を片付けてしまおうと、沙羅は美幸の様子を窺いながら、ゆっくりと語りかけた。
「あのね、無理ならいいんだけど……。お父さんから、美幸に会いたいって、連絡があったの。美幸はどうしたい?」
「んー。今忙しいから……」
やっぱり、まだ美幸は政志に会いたくないのだろう。無理に会わせてもお互いに気まずい思いをすることになるなら、もう少し時間を置いてからの方がよさそうだ。
「じゃあ、お父さんには、塾の講習で忙しくて時間が取れないって、言って置くわね」
「うん、そうして……。ほら、紀美子さんとクリスマスの予定を立てたでしょう。買ってもらった服を着て行く予定なの。あとね、貴之さんからもらったコスメでお化粧したい。だから、お母さんメイク教えてね」
政志と会うのを断ったのが、後ろめたいのか、美幸はしゃべり続けた。沙羅は、自分の心の負担を減らしたくて、美幸に訊ねてしまった事を申し訳なく思う。
自分が最初から政志に、「今の時期は忙しいから時間が取れない」と言ってしまえば、美幸の負担になる事はなかったのだ。
自分の中がいつもいっぱいいっぱいで、余裕の無さから気遣いが出来ていないな。と沙羅は細く息を吐き出した。
その時、急に胃が突き上げられるような痛みに襲われる。口に手を当て、もう片方の手でお腹を押えた。
「うぐっ」
たまらずにキッチンに走り、流し台にいま食べた物を吐き戻してしまう。
沙羅の異常な様子に気付いた美幸が駆け寄って来た。
「お母さん、どうしたの⁉ 大丈夫?」
心配そうな美幸の声に「大丈夫」と答えたいのに、突き上げが治まらず、胃が反転するような絞られるようなキツイ痛みが続く。
もう、吐く物は無く、胃液しかでてこない。
「お母さん」
額に油汗が浮かび、美幸の声が遠くに聞こえる。
誰かに胃を掴まれたような衝撃に耐え兼ねて、ゴフッと吐き出したのは、鮮血だ。
途端に視界が暗くなり、沙羅は意識が保てずに崩れ落ちた。
目の前で、吐血しながら倒れた沙羅の姿に美幸は息を飲み込んだ。
「お母さん! お母さん! やだっ、お母さん」
美幸は膝を付き、沙羅を揺するが反応が返ってこない。
「お母さん、やだっ! 起きて‼」
大きな声で叫んでも、蒼白い顔色の沙羅は動かなかった。
怖さと戸惑いが入り交じり、美幸の目からは大粒の涙がこぼれ落ちてくる。
「きゅ、救急車呼ばなきゃ。あと、誰か大人の人」
美幸は、震える足で立ち上がった。
塾を終えた美幸と家に帰った沙羅は、夕ごはんを食べ始めた。テーブルの上には、玉子とじうどんとお新香という軽めのメニューが並んでいる。
完全に手抜き料理だが、今の沙羅には、料理をするのも、食べるのもキツイ作業に感じられた。
今日、中山と会ったショックからか、沙羅は胃がツキッと痛み、箸が止まる。
「お母さん、どうしたの?」
美幸に心配かけないよう笑顔を作る。
「ううん、ボーっとしてごめんね」
「なんでもないなら、いいけど」
もう一つの問題を片付けてしまおうと、沙羅は美幸の様子を窺いながら、ゆっくりと語りかけた。
「あのね、無理ならいいんだけど……。お父さんから、美幸に会いたいって、連絡があったの。美幸はどうしたい?」
「んー。今忙しいから……」
やっぱり、まだ美幸は政志に会いたくないのだろう。無理に会わせてもお互いに気まずい思いをすることになるなら、もう少し時間を置いてからの方がよさそうだ。
「じゃあ、お父さんには、塾の講習で忙しくて時間が取れないって、言って置くわね」
「うん、そうして……。ほら、紀美子さんとクリスマスの予定を立てたでしょう。買ってもらった服を着て行く予定なの。あとね、貴之さんからもらったコスメでお化粧したい。だから、お母さんメイク教えてね」
政志と会うのを断ったのが、後ろめたいのか、美幸はしゃべり続けた。沙羅は、自分の心の負担を減らしたくて、美幸に訊ねてしまった事を申し訳なく思う。
自分が最初から政志に、「今の時期は忙しいから時間が取れない」と言ってしまえば、美幸の負担になる事はなかったのだ。
自分の中がいつもいっぱいいっぱいで、余裕の無さから気遣いが出来ていないな。と沙羅は細く息を吐き出した。
その時、急に胃が突き上げられるような痛みに襲われる。口に手を当て、もう片方の手でお腹を押えた。
「うぐっ」
たまらずにキッチンに走り、流し台にいま食べた物を吐き戻してしまう。
沙羅の異常な様子に気付いた美幸が駆け寄って来た。
「お母さん、どうしたの⁉ 大丈夫?」
心配そうな美幸の声に「大丈夫」と答えたいのに、突き上げが治まらず、胃が反転するような絞られるようなキツイ痛みが続く。
もう、吐く物は無く、胃液しかでてこない。
「お母さん」
額に油汗が浮かび、美幸の声が遠くに聞こえる。
誰かに胃を掴まれたような衝撃に耐え兼ねて、ゴフッと吐き出したのは、鮮血だ。
途端に視界が暗くなり、沙羅は意識が保てずに崩れ落ちた。
目の前で、吐血しながら倒れた沙羅の姿に美幸は息を飲み込んだ。
「お母さん! お母さん! やだっ、お母さん」
美幸は膝を付き、沙羅を揺するが反応が返ってこない。
「お母さん、やだっ! 起きて‼」
大きな声で叫んでも、蒼白い顔色の沙羅は動かなかった。
怖さと戸惑いが入り交じり、美幸の目からは大粒の涙がこぼれ落ちてくる。
「きゅ、救急車呼ばなきゃ。あと、誰か大人の人」
美幸は、震える足で立ち上がった。
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