96 / 123
繋がらない電話
しおりを挟む
◇ ◇ ◇
会社の終業時間から、だいぶ経ったTAKARA本社ビルのオフィスは静寂に包まれていた。
だが、社長室には明かりが灯り、パソコンのキーボードを叩く音が、カタカタと小さく鳴っている。
その音を上書きするように、バンッと大きな音を立てドアが開く。
慶太はモニターから視線を上げると、不躾に入って来た萌咲の姿が瞳に映る。
「今、お邪魔してもよろしいかしら?」
萌咲にしては、ずいぶん棘がある言い方に慶太は訝しく感じ、なだめるように声を掛けた。
「こんな時間に社長室まで来るなんて、珍しいな。何か急ぎの用なのか?」
「慶ちゃんは、呑気にお仕事なのね」
いきなりのケンカ腰、萌咲にしては珍しい態度に慶太は戸惑う。
「どうした? 何かあったのか?」
「どうしたもこうしたも無いわよ! 今日、秘書の中山さん居なかったでしょう」
萌咲は眉を吊り上げ怒り心頭の様子だ。
なぜ、萌咲の口から中山の名前が出てくるのか、慶太は見当がつかない。
「ああ、私用で有給を取っている」
「ハッ、本当に呑気ね。今日、中山さんは父の用事で沙羅さんに会いに行ったらしいわよ」
その言葉に慶太の血の気がサッと引く。
まさか沙羅に何かしたのだろうか……。
スマホを取り出し、沙羅の名前をタップする。コール音を聞いている間、慶太の鼓動はドクドクと早く脈動していた。
父・健一には、沙羅に何かしたならTAKARAを辞めると行ったはずだ。沙羅に確認すれば、はっきりする。
だが、スマホはコール音を繰り返すばかりで、沙羅の声を聞く事は、叶わなかった。
もう一度、電話を掛け直しても、沙羅に電話が繋がらない。
イライラとスマホを操作する慶太を見かねて、萌咲も沙羅へ電話を掛け始める。
たとえ、中山に何かを言われ、沙羅が慶太を着信拒否にしたとしても、わざわざ連絡をくれた自分の電話には出てくれるだろうと萌咲は思ったからだ。
それなのに、コール音がするだけで電話は繋がらない。萌咲は眉根を寄せて、悔し気にスマホの画面を見つめる。
「わたしの連絡にも出ないわ。この時間だと、お風呂にでも入っているのかも知れないから、あと、30分したらまた電話をしてみましょう」
もしかしたら、何かあったのでは?と萌咲の脳裏に浮かんだが、嫌な考えを振り払うように頭を振った。
「ところで、萌咲は、中山が沙羅の所に行った事をどうして知っているんだ?」
片眉をあげて訊ねる慶太に、萌咲はスマホの画面を見せる。
「沙羅さんから、メッセージが届いたのよ。この前、東京に行った時に沙羅さんとお茶をして仲良くなってね。慶ちゃんのこと真剣に想っているのが伝わってきたわ。だから、沙羅さんの力になれたらと思って、何かあったら連絡してってお願いしていたの」
「そうか、萌咲にも心配かけてすまない」
「わたしに素敵な婚約者が居るのは、慶ちゃんのおかげなんだから、そのお返しよ。それより、これからどうするの?」
「……そうだな。父さんは、一ノ瀬の家に居るのか?」
こうなったら、秘書の中山を東京に向わせてまで沙羅に何をしたのか、父親である健一に問い質す必要がある。
「ええ、今頃、母と夕食でも取っているんじゃないかしら?」
「それじゃあ、一ノ瀬の家に行こうか。話の内容によっては、身の振り方を考えさせてもらう」
「そうね。お父様は、そういう人だと思っていたけど、今回の事は、さすがに人の気持ちを無視して、やりすぎたわね」
会社の終業時間から、だいぶ経ったTAKARA本社ビルのオフィスは静寂に包まれていた。
だが、社長室には明かりが灯り、パソコンのキーボードを叩く音が、カタカタと小さく鳴っている。
その音を上書きするように、バンッと大きな音を立てドアが開く。
慶太はモニターから視線を上げると、不躾に入って来た萌咲の姿が瞳に映る。
「今、お邪魔してもよろしいかしら?」
萌咲にしては、ずいぶん棘がある言い方に慶太は訝しく感じ、なだめるように声を掛けた。
「こんな時間に社長室まで来るなんて、珍しいな。何か急ぎの用なのか?」
「慶ちゃんは、呑気にお仕事なのね」
いきなりのケンカ腰、萌咲にしては珍しい態度に慶太は戸惑う。
「どうした? 何かあったのか?」
「どうしたもこうしたも無いわよ! 今日、秘書の中山さん居なかったでしょう」
萌咲は眉を吊り上げ怒り心頭の様子だ。
なぜ、萌咲の口から中山の名前が出てくるのか、慶太は見当がつかない。
「ああ、私用で有給を取っている」
「ハッ、本当に呑気ね。今日、中山さんは父の用事で沙羅さんに会いに行ったらしいわよ」
その言葉に慶太の血の気がサッと引く。
まさか沙羅に何かしたのだろうか……。
スマホを取り出し、沙羅の名前をタップする。コール音を聞いている間、慶太の鼓動はドクドクと早く脈動していた。
父・健一には、沙羅に何かしたならTAKARAを辞めると行ったはずだ。沙羅に確認すれば、はっきりする。
だが、スマホはコール音を繰り返すばかりで、沙羅の声を聞く事は、叶わなかった。
もう一度、電話を掛け直しても、沙羅に電話が繋がらない。
イライラとスマホを操作する慶太を見かねて、萌咲も沙羅へ電話を掛け始める。
たとえ、中山に何かを言われ、沙羅が慶太を着信拒否にしたとしても、わざわざ連絡をくれた自分の電話には出てくれるだろうと萌咲は思ったからだ。
それなのに、コール音がするだけで電話は繋がらない。萌咲は眉根を寄せて、悔し気にスマホの画面を見つめる。
「わたしの連絡にも出ないわ。この時間だと、お風呂にでも入っているのかも知れないから、あと、30分したらまた電話をしてみましょう」
もしかしたら、何かあったのでは?と萌咲の脳裏に浮かんだが、嫌な考えを振り払うように頭を振った。
「ところで、萌咲は、中山が沙羅の所に行った事をどうして知っているんだ?」
片眉をあげて訊ねる慶太に、萌咲はスマホの画面を見せる。
「沙羅さんから、メッセージが届いたのよ。この前、東京に行った時に沙羅さんとお茶をして仲良くなってね。慶ちゃんのこと真剣に想っているのが伝わってきたわ。だから、沙羅さんの力になれたらと思って、何かあったら連絡してってお願いしていたの」
「そうか、萌咲にも心配かけてすまない」
「わたしに素敵な婚約者が居るのは、慶ちゃんのおかげなんだから、そのお返しよ。それより、これからどうするの?」
「……そうだな。父さんは、一ノ瀬の家に居るのか?」
こうなったら、秘書の中山を東京に向わせてまで沙羅に何をしたのか、父親である健一に問い質す必要がある。
「ええ、今頃、母と夕食でも取っているんじゃないかしら?」
「それじゃあ、一ノ瀬の家に行こうか。話の内容によっては、身の振り方を考えさせてもらう」
「そうね。お父様は、そういう人だと思っていたけど、今回の事は、さすがに人の気持ちを無視して、やりすぎたわね」
0
あなたにおすすめの小説
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚
日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……
Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜
yuzu
恋愛
人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて……
「オレを好きになるまで離してやんない。」
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる