108 / 123
家族のような
しおりを挟む
◇
リバーサイドにあるマンション最上階から見えるシティービュー、その先には丹沢の山々が見える。
藤井の家に戻って来た沙羅たちはアメリカンサイズのソファーに腰を下ろした。
「沙羅さんは座って居てね」
「はい、ありがとうございます」
と返事をした沙羅だったが、座っているとお尻がムズムズする。
病み上がりだから座って居るのは仕方ないが、気持ち的には動いている方が気が楽だ。
沙羅の代わりに藤井大好きっ子の美幸が立ち上がった。
「紀美子さん、わたしお手伝いします」
「あら、じゃあ、みんなのグラスを運んでもらおうかしら?」
「はぁい」
美幸のお手伝い宣言に藤井はニッコリと微笑み、ふたりでキッチンへ入っていく。
そのタイミングを見計らったように、貴之が慶太を険しい表情を向けた。
「高良さん、確認させてもらいますが、沙羅さんと付き合うなら立華商事のお嬢さんとの縁談は、クリアになっているのでしょうか? そこのところハッキリしてください」
貴之のいきなりのケンカ腰に沙羅は驚き、咄嗟に慶太の方へ振り返る。
慶太は落ち着いた様子で話し始めた。
「ご心配には及びません。先日のパーティーでエスコートをしていたのは、ビジネス上のお付き合いです」
このような返答には理由がある。当事者でないない浅田貴之に立華商事との縁談を慶太から断ったと話すのは、立華商事の面子を潰す行為になるからだ。
だが、貴之は納得がいかない。
「高良さんがそう考えていても、立華さんの方はTAKARAとの縁談に乗り気でしたよ」
「例えそうだとしても、浅田さんにご心配して頂くような事ではありません。業務提携の話しが誤解されて伝わったのだと思います。私は、誠実に沙羅さんとお付き合いさせて頂いています」
真っ直ぐに言われ、貴之は次の言葉が出てこない。
「僕はただ沙羅さんを泣かせる事が、無いようにと……」
貴之から、ようやく出た言葉に、沙羅は戸惑いつつも返した。
「貴之さん、ご心配頂きありがとうございます。でも、私も大人です。この先、自分の選択で泣くような事があっても、自分の責任で立ち上がるので大丈夫。……それでも、どうしようもなくなった時に、手を貸していただけるなら心強いです」
「もちろん、その時は手助けさせてもらうよ。……あの、余計な口出しをして、ごめん。妹が出来たようで嬉しくて、アニキ風吹かせた。本当にごめん」
「いえ、貴之さんは親戚のお兄さんですもの。子供の頃に会えていたら楽しい思い出がたくさん作れたと思います」
沙羅は、ふわりと微笑んだ。
その笑顔に張りつめていた場の空気が和む。
「おまたせしましたぁ」
威勢のいい声とは裏腹に、美幸はトレーの上で揺れるグラスを見つめ、ソロリソロリと足を進めている。
すかさず慶太が立ち上がり、トレーに手を伸ばした。
「美幸ちゃん、ありがとう。受け取るよ」
「はい、グラスを落としそうで、ちょっとドキドキしちゃいました」
キッチンからドリンクのボトルを抱えた藤井もやって来る。
「ねえ、飲み物は何がいいかしら? あ、沙羅さんは、ミネラルウォーターね。他の人にはジュースやノンアルもワインもあるわよ」
「お母さん、わたしがグラスに入れてあげる」
「ありがとう」
わいわい賑やかな空間。
大好きな慶太が居て、大切な美幸が居て、母のような藤井、それに兄ような貴之がいる。
沙羅は、幸せを感じていた。
リバーサイドにあるマンション最上階から見えるシティービュー、その先には丹沢の山々が見える。
藤井の家に戻って来た沙羅たちはアメリカンサイズのソファーに腰を下ろした。
「沙羅さんは座って居てね」
「はい、ありがとうございます」
と返事をした沙羅だったが、座っているとお尻がムズムズする。
病み上がりだから座って居るのは仕方ないが、気持ち的には動いている方が気が楽だ。
沙羅の代わりに藤井大好きっ子の美幸が立ち上がった。
「紀美子さん、わたしお手伝いします」
「あら、じゃあ、みんなのグラスを運んでもらおうかしら?」
「はぁい」
美幸のお手伝い宣言に藤井はニッコリと微笑み、ふたりでキッチンへ入っていく。
そのタイミングを見計らったように、貴之が慶太を険しい表情を向けた。
「高良さん、確認させてもらいますが、沙羅さんと付き合うなら立華商事のお嬢さんとの縁談は、クリアになっているのでしょうか? そこのところハッキリしてください」
貴之のいきなりのケンカ腰に沙羅は驚き、咄嗟に慶太の方へ振り返る。
慶太は落ち着いた様子で話し始めた。
「ご心配には及びません。先日のパーティーでエスコートをしていたのは、ビジネス上のお付き合いです」
このような返答には理由がある。当事者でないない浅田貴之に立華商事との縁談を慶太から断ったと話すのは、立華商事の面子を潰す行為になるからだ。
だが、貴之は納得がいかない。
「高良さんがそう考えていても、立華さんの方はTAKARAとの縁談に乗り気でしたよ」
「例えそうだとしても、浅田さんにご心配して頂くような事ではありません。業務提携の話しが誤解されて伝わったのだと思います。私は、誠実に沙羅さんとお付き合いさせて頂いています」
真っ直ぐに言われ、貴之は次の言葉が出てこない。
「僕はただ沙羅さんを泣かせる事が、無いようにと……」
貴之から、ようやく出た言葉に、沙羅は戸惑いつつも返した。
「貴之さん、ご心配頂きありがとうございます。でも、私も大人です。この先、自分の選択で泣くような事があっても、自分の責任で立ち上がるので大丈夫。……それでも、どうしようもなくなった時に、手を貸していただけるなら心強いです」
「もちろん、その時は手助けさせてもらうよ。……あの、余計な口出しをして、ごめん。妹が出来たようで嬉しくて、アニキ風吹かせた。本当にごめん」
「いえ、貴之さんは親戚のお兄さんですもの。子供の頃に会えていたら楽しい思い出がたくさん作れたと思います」
沙羅は、ふわりと微笑んだ。
その笑顔に張りつめていた場の空気が和む。
「おまたせしましたぁ」
威勢のいい声とは裏腹に、美幸はトレーの上で揺れるグラスを見つめ、ソロリソロリと足を進めている。
すかさず慶太が立ち上がり、トレーに手を伸ばした。
「美幸ちゃん、ありがとう。受け取るよ」
「はい、グラスを落としそうで、ちょっとドキドキしちゃいました」
キッチンからドリンクのボトルを抱えた藤井もやって来る。
「ねえ、飲み物は何がいいかしら? あ、沙羅さんは、ミネラルウォーターね。他の人にはジュースやノンアルもワインもあるわよ」
「お母さん、わたしがグラスに入れてあげる」
「ありがとう」
わいわい賑やかな空間。
大好きな慶太が居て、大切な美幸が居て、母のような藤井、それに兄ような貴之がいる。
沙羅は、幸せを感じていた。
0
あなたにおすすめの小説
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚
日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……
Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜
yuzu
恋愛
人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて……
「オレを好きになるまで離してやんない。」
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる