11 / 41
第10話、まだ、片付いていない。
しおりを挟む「伯母上、失礼いたします」
「どうぞ、アリシア」
レンディスが来ると言う手紙を受け取ったアリシアはその日の夜に叔母であるシーリアに報告することにした。こちらに来るとなれば、一応報告をしなければならない。
ノックをすると、彼女の声が聞こえてきたので、アリシアは扉をあけて再度一礼し、そのままゆっくりと扉を閉めた後、本を読みながら紅茶を飲んでいる叔母に挨拶をする。
「突然の訪問お許しください伯母上、実は折り入ってご相談したいことがありまして……」
「レンディス・フィードの事かしら?」
「は、はい……何故伯母上が?」
「今朝にこのような手紙が届きましたので……第一王子であるファルマ殿下からです。ぜひ、レンディスと妹であるエリザベートをお願いしたいとのお手紙でした。返事はすぐに返しております。部屋も余っておりますし……」
「あ、ありがとうございます、伯母上」
「……けど、それだけではないでしょう?気まずいのでは、アリシア?」
「う……」
この屋敷に、エリザベートとレンディスの二人をお招きすると言う形に至ったのは良いのだが、アリシアはそれ以上に感じている事がある。
レンディスとどのような顔をして顔を合わせればいいのだろうか、と言う不安が彼女に襲い掛かってきているのだ。
カトリーヌは友人であるエリザベートと一緒に過ごす事が出来ると嬉しそうに言っていたのだが、レンディスに告白されてから返事もしていないし、それ以降会っていないので、正直どのように声を描ければ良いのかわからないのだ。
『あの時』のような関係には、多分戻れない。
「正直、その……気まずい感じだと、思います……どのように接すれば良いのか、わからなくなってきてしまいまして。告白される前は、良き友人だと思っておりましたし……」
「……向こうは長年恋焦がれていたらしいわね。あなた、そっちの方は全く持って疎いんだから」
「うう、言い返せません……」
いつもとは全く違う表情を見せてくるアリシアの姿に、少しばかりシーリアは驚いてしまったが、それほど気まずいのであると理解する。
成長して立派になったと思っていたのだが、あれは本音ではなかったのであろうと感じながら、子供らしい一面を持っているアリシアの姿に愛おしく思いながら、シーリアは優しく彼女の頭を撫でる。
大きく、細い手で頭を撫でられたことに少しばかり驚いてしまったアリシアだったが、シーリアの表情は変わらない。
まるで母親のような優しい瞳で、アリシアを見つめている――あのシーリア・カトレンヌが。
「……すみません伯母上、いつもだったら自分で解決するのですが、流石に『恋愛』となると何もできなくて……」
「確かに、討伐と恋愛は違いますからね……まぁ、私は独身を貫いておりますので、相談できるかわかりませんが」
「せめて、少しだけ話を聞いてくださるだけでも大丈夫なので」
「そうですね……話ぐらいなら聞きますよ」
「ありがとうございます、叔母上」
少し話をすればきっと、自分の気持ちが落ち着くだろうと思ったアリシアは、シーリアが用意してくれた場所に移動し、そのまま静かに座る。
すると新たに用意していたカップの中に紅茶を入れ、それをアリシアの前に差し出す。
「あ、良い匂い……落ち着く匂いですね」
「ええ、アズールが入れてくれた紅茶なのだけど、私もこの匂い好きで気に入っているのよ」
「……いただきます」
紅茶のカップの取っ手を掴み、そのままゆっくりと、一口紅茶を口の中に入れる。
微かに甘みが広がっていく紅茶の味はとても美味しい。優しい甘さと少し酸っぱさが残るような味。何かを紅茶の中に入れているのだろうかと首を傾げつつ、少しずつ心が落ち着いていくように感じた。
叔母が言っていた通り、とても落ち着く匂いに味も美味しい――きっと、叔母好みの味なのだろうと理解したアリシアは、もう一口飲むと、紅茶を机に置く。
さて、何から話したらいいのだろうかと、考えがまとまっていないアリシアに対し、シーリアは静かに笑いながら、口を動かした。
「アリシア」
「は、はい……」
「――お前は、レンディスと言う男をどう思う?」
「……」
レンディス・フィード――王宮騎士団で働いている人物の一人であり、別名『黒狼の騎士』と呼ばれている人物。
王宮騎士団と王宮魔術師は良く同じ任務に就く事が多い。
レンディスとの出会いは、ある魔獣討伐の時に出会い、話をする事で意気投合し、同時に背中を合わせて戦う事になった。初めて、そのような人物が出来た事に、とても嬉しくなったことは覚えている。
その後、第一王子であるファルマが魔獣討伐に参加するようになって、よく三人で戦い、喧嘩をしたり、一緒に食事をしたり――それが、当たり前のようになってしまっていた。
レンディス・フィードはアリシアにとって、大切な友人――だと思っていたのは、アリシアだけだったのかもしれないと、あの時思い知らされた。
「……正直、よくわかりません、叔母上」
「そもそも恋愛なんてした事がないからな、お前は」
「それもあります……が、なんかこう、よくわからないのです」
「わからない、とは?」
「――告白された時、嫌と感じなかったのです」
一生懸命、彼はその瞳を見せながらアリシアに好きだと告げた。
ただ、それだけの事なのに、別に嫌だと感じる事はなかったと、彼女は言う。
彼女のその言葉を聞いたシーリアはフッと笑うようにしながら、アリシアに笑いかける。
「それなら、もう決まっているではありませんか」
「え……」
「――あなたは、レンディス・フィードの伴侶になっても良いと思ったのですよ、きっと」
笑顔で答えるシーリアの言葉に、アリシアは硬直する。硬直したまま動かない彼女の姿を、シーリアは温かい瞳で見つめていた。
持っていた紅茶を落としそうになりつつも、アリシアは呆然と、シーリアに視線を向け――そして、身体が徐々に震え初め、いつの間にか顔が真っ赤に染まっている。
「い、いやいや、そ、それは、あ、あり……い、いや、でも確かに嫌じゃなかったから……」
「……まぁ、決めるのは私でもなく、そしてあなたの父上でもない……アリシア」
「は、はい!」
「一生の伴侶を見つけるのは、あなた自身なのですよ」
シーリアの言葉を聞いた瞬間、胸が強く突き刺さった感覚を覚える。
それと同時に、アリシアは卒業式のカトリーヌの姿を思い出してしまった。
きっと、まだあの事件は終わっていないのだから。
アリシアが何かを考えているのが分かっているかのように、シーリアは静かに息を吐きながら答えた。
「数日前の襲撃の事を考えていますね、アリシア」
「……はい」
「犯人に心あたりがあるみたいですが……私が考えている相手ですか?」
「ええ、あの女狐は息子が大好きですから……例え殴っただけではすまないでしょう」
「……そうですね、その件を片付けてからの方が良いかもしれないですね」
「はい」
例え、どんな事があっても、どんな理由でも、アリシアは妹を優先する。
第二王子を殴ってしまっただけで、彼女はまだ怒っているのだ。
それすらも、シーリアはわかっているような目をしており――絶対にこの人には勝てないなと思いながら、アリシアは紅茶を全て一気飲みする。
はしたないかもしれないが、シーリアはそれを咎める事はなかった。
「とりあえず、その件が終わったら、きちんとレンディス・フィードと話をつけてくださいね、アリシア」
「ど、努力します」
「それに……レンディス・フィードがこちらに来るならば、アリシア、申し訳ないのだけれど、頼まれてくれないかしら」
「え、何をです?」
シーリアは近くに置いてあった書類の一枚をアリシアに渡し、アリシアはその書類を簡単に目を通してみる。
彼女はフッと笑いながら、答えた。
「得意でしょう――魔獣討伐は?」
「……マジですか」
休暇なのだがと静かに呟いていたアリシアだったが、シーリアの笑顔にどこか寒気を感じたので、それ以上何も言わない事にした。
1
あなたにおすすめの小説
姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
婚約者は妹の御下がりでした?~妹に婚約破棄された田舎貴族の奇跡~
tartan321
恋愛
私よりも美しく、そして、貴族社会の華ともいえる妹のローズが、私に紹介してくれた婚約者は、田舎貴族の伯爵、ロンメルだった。
正直言って、公爵家の令嬢である私マリアが田舎貴族と婚約するのは、問題があると思ったが、ロンメルは素朴でいい人間だった。
ところが、このロンメル、単なる田舎貴族ではなくて……。
婚約破棄したその場から、ざまぁは始まっていました
ふわふわ
恋愛
王国随一の名門、アルファルド公爵家の令嬢シャウラは、
ある日、第一王子アセルスから一方的に婚約を破棄される。
理由はただ一つ――
「平民出身の聖女と婚約するため」。
だが、その“婚約破棄したその場”で、ざまぁはすでに始まっていた。
シャウラは泣かず、怒らず、抗議もしない。
ただ静かに席を立っただけ。
それだけで――
王国最大派閥アルファルド派は王子への支持を撤回し、
王国最大の商会は資金提供を打ち切り、
王太子候補だったアセルスは、政治と経済の両方を失っていく。
一方シャウラは、何もしていない。
復讐もしない。断罪もしない。
平穏な日常を送りながら、無自覚のまま派閥の結束を保ち続ける。
そして王国は、
“王太子を立てない”という前代未聞の選択をし、
聡明な第一王女マリーが女王として即位する――。
誰かを裁くことなく、
誰かを蹴落とすことなく、
ただ「席を立った」者だけが、最後まで穏やかでいられた。
これは、
婚約破棄から始まる――
静かで、上品で、取り返しのつかないざまぁの物語。
「私は何もしていませんわ」
それが、最強の勝利だった。
溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。
両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。
ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。
そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。
だが、レフーナはそれに激昂した。
彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。
その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。
姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。
しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。
戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。
こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。
妹のことが好き過ぎて婚約破棄をしたいそうですが、後悔しても知りませんよ?
カミツドリ
ファンタジー
侯爵令嬢のフリージアは婚約者である第四王子殿下のボルドーに、彼女の妹のことが好きになったという理由で婚約破棄をされてしまう。
フリージアは逆らうことが出来ずに受け入れる以外に、選択肢はなかった。ただし最後に、「後悔しないでくださいね?」という言葉だけを残して去って行く……。
妹に婚約者を取られてしまい、家を追い出されました。しかしそれは幸せの始まりだったようです
hikari
恋愛
姉妹3人と弟1人の4人きょうだい。しかし、3番目の妹リサに婚約者である王太子を取られてしまう。二番目の妹アイーダだけは味方であるものの、次期公爵になる弟のヨハンがリサの味方。両親は無関心。ヨハンによってローサは追い出されてしまう。
【完結】姉を追い出して当主になった悪女ですが、何か?
堀多 ボルダ
恋愛
「お姉様、このマクレディ伯爵家は私が後を継ぎます。お姉様は邪魔なので今すぐこの家から出ていってください」
両親の急逝後、伯爵家を切り盛りしていた姉を強引に追い出して妹ダリアは当主となった。しかし、それが原因で社交界からは稀代の悪女として嫌われるようになった。
そんな彼女の元を訪ねたのは、婿に来てほしい男ナンバーワンと噂される、社交界で人気の高い幼馴染だった……。
◆架空の世界にある架空の国が舞台の架空のお話です。
◆カクヨムにも掲載しています。
【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる