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第40話 リリア視点
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かつて聖女たちが祈りを捧げ、王家の血統と神々の加護が交わる神聖な儀式が執り行われていたと言う白亜の聖堂――今、その神域の名残はひと欠片もなく、朽ちた石壁と崩れた柱が風に晒されているだけだった。
苔むした床に散るガラス片、煤けた祈祷台、雨と風が浸食した柱の根元。嘗て最も神に近い場所と呼ばれたこの地は、今や忘れられた廃墟にすぎない。
そんな中、夕暮れの朱に染まる空の下に、一人だけ人影があった。
リリア・セントマリア。
この世界に愛されていたと言われていた感じの麗しき少女の面影など、既になく、彼女は、崩れた聖堂の中央――神聖な儀式が行われていた円形の台座跡に、じっと立ち尽くしていた。
吹き抜ける風が、髪を揺らす。足元の石畳には、隙間から伸びた雑草がさらさらと音を立てていた。
瓦礫の合間に溜まった水溜まりが、朱に染まる空を反射し、空が焦げるように色づいていく。
リリアの瞳には、その光景すら映っていない。
――彼女の視線は、もっとずっと深くを見ていた。
瓦礫の下、地中の奥深く、儀式場の中心には、この国の魔導核が眠っている。
王都、そして王国全土の魔力の流れを束ねる魔力の根。
表向きは誰にも知られていないその存在を、彼女は知っていた。
彼女がまだ、この世界に転生していなかったころ――つまり、ゲームをしていた時に設定資料として残っていた事。
本来ならば、ハイデンがこの場所に来て騒ぎを起こす、と言うのがあるルートのシナリオの一つだ。
全てのゲームのエンディングをクリアしていた転生者のリリアはわかっているかのように、呟いた。
「……ここを止めれば」
囁くように、声が落ちた。
「街も……学園も……王城も……全ての【演出】が、止まる」
視線がゆっくりと動く。瓦礫に埋もれた地面を見下ろしながらリリアの口元がかすかに歪む。
「この国は……もう【物語】として機能してないのよ。ヒロインが選ばれず和すボスが舞台を奪って……ハッピーエンドすら見失って……」
震える手が、胸元に触れる。そこには、契約によって得たばかりの闇の魔術核が微かに脈動していた。
その力が、自身の中で静かに目を覚ましていくのを、リリアは感じていた。
「なら……壊すしかないでしょう?」
その声は怒りでも悲しいでも、絶望でもなかった。
まるで、当たり前の結論に至ったかのように、笑って言うように淡々と、そして冷たく、けれどどこか優しげに。
「こんな歪んだ世界……無理に続ける意味なんて、もうどこにもないじゃない」
指先が、そっと空を撫で――そこに浮かぶのは、魔力を断絶する三つの座標。街、学園、そして王城。その三点を結ぶ魔力回廊を遮断すれば、この国の魔術インフラは崩壊する。
「みんな忘れてるのよ。これは私が中心になる、私が愛される世界だったって事を」
リリアの瞳に、そこには既に可愛らしい柔らかな光はもうない。元々彼女はこの世界を現実と思っておらず、【物語】の世界だと思っている。
そして、間違えればやり直しが出来るとも考えていたのだ。
「フフ……もう、誰にも選ばれなくていい……自分を見てくれないなら、全部終わらせて最初からやり直す」
振り返ったリリアの足元、瓦礫の隙間から黒い魔力が立ち上がり始めていた。
聖なる場所だったはずの聖堂跡に、闇の気配が満ちていく。
それでも彼女は、崩れた祈祷台の前に立ち、まるで聖女のように両手を組み、目を閉じた。
ただし、その祈りは――救済ではなく、【終焉】のためのものだ。
魔導核の中枢を破壊すれば、王国の魔力供給は完全に停止する。魔力塔は沈黙し、王城の結界は無力となり、そして――学園に敷かれた管理魔術も崩壊する。
国そのものが、魔力という【血液】を絶たれ、静かに息絶えるのだ。
「これで……この国は崩壊する……そして、私の新しい世界が始まるんだ!」
声が震えていた。しかし、それは恐怖ではなければ熱でも、痛みでもない。
ただ、純粋な――焦がれるような渇望だった。
壊してしまえばいい――もはや彼女の頭にはそれしかない。
「……私が主役じゃない世界なんて、いらないもの」
彼女は自分の願いを叶えるために、自分の欲望を吐き出す為に、この国を、いいや、この世界を終わらせる。
そんな笑っているリリアの姿を、一人の少年が高い場所で見つめていた。
「……さて、アイツとハイデンはどのように出るかな?それが楽しみだから悪い事はやめられないんだよねぇ」
まるで全てを悟っているかのように、少年は楽しそうに笑っている姿があった事をリリアは知らない。
苔むした床に散るガラス片、煤けた祈祷台、雨と風が浸食した柱の根元。嘗て最も神に近い場所と呼ばれたこの地は、今や忘れられた廃墟にすぎない。
そんな中、夕暮れの朱に染まる空の下に、一人だけ人影があった。
リリア・セントマリア。
この世界に愛されていたと言われていた感じの麗しき少女の面影など、既になく、彼女は、崩れた聖堂の中央――神聖な儀式が行われていた円形の台座跡に、じっと立ち尽くしていた。
吹き抜ける風が、髪を揺らす。足元の石畳には、隙間から伸びた雑草がさらさらと音を立てていた。
瓦礫の合間に溜まった水溜まりが、朱に染まる空を反射し、空が焦げるように色づいていく。
リリアの瞳には、その光景すら映っていない。
――彼女の視線は、もっとずっと深くを見ていた。
瓦礫の下、地中の奥深く、儀式場の中心には、この国の魔導核が眠っている。
王都、そして王国全土の魔力の流れを束ねる魔力の根。
表向きは誰にも知られていないその存在を、彼女は知っていた。
彼女がまだ、この世界に転生していなかったころ――つまり、ゲームをしていた時に設定資料として残っていた事。
本来ならば、ハイデンがこの場所に来て騒ぎを起こす、と言うのがあるルートのシナリオの一つだ。
全てのゲームのエンディングをクリアしていた転生者のリリアはわかっているかのように、呟いた。
「……ここを止めれば」
囁くように、声が落ちた。
「街も……学園も……王城も……全ての【演出】が、止まる」
視線がゆっくりと動く。瓦礫に埋もれた地面を見下ろしながらリリアの口元がかすかに歪む。
「この国は……もう【物語】として機能してないのよ。ヒロインが選ばれず和すボスが舞台を奪って……ハッピーエンドすら見失って……」
震える手が、胸元に触れる。そこには、契約によって得たばかりの闇の魔術核が微かに脈動していた。
その力が、自身の中で静かに目を覚ましていくのを、リリアは感じていた。
「なら……壊すしかないでしょう?」
その声は怒りでも悲しいでも、絶望でもなかった。
まるで、当たり前の結論に至ったかのように、笑って言うように淡々と、そして冷たく、けれどどこか優しげに。
「こんな歪んだ世界……無理に続ける意味なんて、もうどこにもないじゃない」
指先が、そっと空を撫で――そこに浮かぶのは、魔力を断絶する三つの座標。街、学園、そして王城。その三点を結ぶ魔力回廊を遮断すれば、この国の魔術インフラは崩壊する。
「みんな忘れてるのよ。これは私が中心になる、私が愛される世界だったって事を」
リリアの瞳に、そこには既に可愛らしい柔らかな光はもうない。元々彼女はこの世界を現実と思っておらず、【物語】の世界だと思っている。
そして、間違えればやり直しが出来るとも考えていたのだ。
「フフ……もう、誰にも選ばれなくていい……自分を見てくれないなら、全部終わらせて最初からやり直す」
振り返ったリリアの足元、瓦礫の隙間から黒い魔力が立ち上がり始めていた。
聖なる場所だったはずの聖堂跡に、闇の気配が満ちていく。
それでも彼女は、崩れた祈祷台の前に立ち、まるで聖女のように両手を組み、目を閉じた。
ただし、その祈りは――救済ではなく、【終焉】のためのものだ。
魔導核の中枢を破壊すれば、王国の魔力供給は完全に停止する。魔力塔は沈黙し、王城の結界は無力となり、そして――学園に敷かれた管理魔術も崩壊する。
国そのものが、魔力という【血液】を絶たれ、静かに息絶えるのだ。
「これで……この国は崩壊する……そして、私の新しい世界が始まるんだ!」
声が震えていた。しかし、それは恐怖ではなければ熱でも、痛みでもない。
ただ、純粋な――焦がれるような渇望だった。
壊してしまえばいい――もはや彼女の頭にはそれしかない。
「……私が主役じゃない世界なんて、いらないもの」
彼女は自分の願いを叶えるために、自分の欲望を吐き出す為に、この国を、いいや、この世界を終わらせる。
そんな笑っているリリアの姿を、一人の少年が高い場所で見つめていた。
「……さて、アイツとハイデンはどのように出るかな?それが楽しみだから悪い事はやめられないんだよねぇ」
まるで全てを悟っているかのように、少年は楽しそうに笑っている姿があった事をリリアは知らない。
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