【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山

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38、お礼の鞄です

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 馬車の前方から戻って来たエミリーが博美に言う。

「博美様、申し訳ございません。御者が言うには、どうにも馬が言うことを聞かないようなので、お屋敷にはこのまま徒歩で帰ることに」

 そこまで言ったエミリーだが、声を詰まらせる。

「どうしたの、エミリー?」

 博美が不思議そうに尋ねた。

 客車の開いた扉が死角になっていたため、前方から戻って来たエミリーには見えなかったが、博美の前に銀色の狼がいた。しかも大人しくお座りをしている。

「博美様……、その狼は、もしかしてフェンリルですか」

「うん、そうだよ」

 けろりと言った博美の隣で、銀色の狼が嬉しそうにブンブン尻尾を振っている。

 エミリーが鋭い視線を狼に向けた。

「なぜこのようなところに、またフェンリルが」

 エミリーの視線に、ロルフが後ずさりをする。

「くぅううん」

「ロルフは元の狼の姿に戻っていたんだよね。もう大丈夫だかよね、ロルフ」

「ワン!」

「ほんと、かわいいね。ロルフは」

 銀色の毛の体をなでると、ロルフも博美に頭をこすりつけて、ペロペロと顔を舐める。

「ハッハハ、くすぐったい」

 じゃれているロルフと博美が遊んでいる所に、小柄なおじいさんが現れた。
 街で大きな黒い獣となったロルフの前で両手を広げていたドワーフだった。

「お嬢さんのおかげで、助かりましたじゃ。このようにロルフが元の姿に戻ったのはお嬢さんのおかげだと赤い服の男性に言われましての」

 博美はすぐに気付いた。

「エミルマイトさんですね」

 でも、わたしのおかげ?

 博美は詳しく聞こうと思ったが、ドワーフのおじいさんが言葉をつづけていたので、とりあえず話を聞くことにした。

「すぐにでもお礼を述べたかったのですが、あのような騒動を起こしたらわしらは、もうあの街には戻ることができません。ですから、ここで足止めまでして申し訳ないです」

「いえ、馬車を停めたのことは気になさらないでください。あのとき、ロルフといっしょにいたドワーフさんですね。ご無事で何よりです。わたしは鎌本博美です。そちらがエミリーです」

 博美が紹介をすると、ドワーフも同じく、

「申し遅れましたの。わしの名前はガンディと申します。もうご存じでしょうか、そこにいるのがロルフです」

「ワン!」

 挨拶するようにロルフが吠えた。

「ああ、そうですじゃ、お嬢さんにこれを」

 思い出したかのようにガンディが背負ていた大きな荷物を下ろし、中から、革のバックを取り出した。

「お嬢さん、コレを受け取ってくださいませんかの」

「それは?」

 エミリーが尋ねた。

「お礼をさせてもらいたくて……。ですがの、今のわしにはこれしかなくて」

 ガンディが言いながら革製のバックを博美の前に差し出す。

「わしらの村でこしらえたカバンですじゃ。受け取ってもらえませんかの」

 一目見て価値のあるものだと分かるほどの品物だった。

「このように素敵な鞄をいただいてもよろしいのでしょうか」

「もちろんですじゃ。ぜひとも受け取ってくだされ」

「そうですよ。博美様、せっかくガンディさんがこのような時間までお待ちになられていたのですから」

 エミリーの言うとおりだ。
 ここは素直に感謝の気持ちを、頂こう。

「早速、使わせていただいてもよろしいですか」

 図々しいかと思ったが、あまりにも素敵なカバンなので博美はすぐにでも使いたくなった。

「もちろんですじゃ」

 ガンディの前で、博美は肩からバックを斜めがけにした。

「すごく軽くて、大きめのマチが横にふっくらしていて、とても可愛いです。ガンディさん、ありがとうございます」

「いやいや、受け取ってもらって嬉しいですの」

「博美様、とてもお似合いですよ。使っていうるうちにいい風合いがでますよ。とても貴重なバッファローの革でしょうから」

 エミリーの言葉にガンディが感心したような声を出す。

「よくご存じですな」

 エミリーがニコリと笑う。

「ええ、わたくしこう見えて、目利きもできますから」

「なるほど。やはり、王子様のお屋敷で働かれているメイドさんたちは違いますの」

 エミリーが慌てて、訂正する。

「いえ、私はメイドですが、博美様はハロルド王子のお客様です」

「ほう、そうでしたか」

「本当に素敵なバックをありがとうございます。大切に使わせていただきますね、ガンディさん」

「いやはや、そこまで言っていただけますと、そのカバンを作った村の者たちも喜びますじゃ」

「では、ガンディさんの村では武器や装備品ではなくて、鞄を作られているというわけですか?」

 エミリーが尋ねると、ガンディが頷いた。

「そうなのですじゃ。わしらドワーフが鞄づくりなど珍しいと思われるでしょうが」

 二人のやり取りから話しの流れを掴もうとしていた博美に、エミリーが声をかけてきた。

「博美様、ガンディさんのようにドワーフという種族は、とても手先が器用で、力もあります」

「そうなんだ」

「ですから、ドワーフが作る武器や装備品は丈夫で評判が良く、最高級のものばかりです。その鞄にも使われているバッファローの革は耐久性もありますから、通常なら防具などに使われます。なのに、なぜガンディさんの村では防具や武器ではなく、カバンを作っているのか不思議に思いまして」
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