王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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アニエス、第一騎士団に行く

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「今日は第一騎士団に行く日よね」

先輩侍女のアイリスさんが
声をかけてくれる。
そう、今日は腕輪を外して初めて
の武術訓練です。
人手のない第二王女宮の侍女は、定期的に
武術訓練を受けることになっているのだ。

最初に聞いた時は驚いたけれど姫様の側に
護衛騎士が一人もいないという異常な環境
なので結局、私達が担うしかないのだろう。

しかも、私達は三人共に元々戦えた。
アイリスさんは、第二騎士団長様のお嬢様で
子供の頃からお父上に手ほどきを受けており
魔力も多くかなりの手練れです。

涼やかなお顔で情け容赦なく相手役の騎士達
を叩き潰してくれます。     

「私とアニエスは、子供の頃の夢が騎士に
なることだったのよね?」   
  
そう、私もアイリスさんも夢は、
目指せ騎士様でした。まあ、大人になった
らお互い侍女ですが。

アルマさんは魔力こそあまりないが武器の
扱いに長けている。とんでもない所から
武器が出てきて驚かされる。

そう言えば、なんでアルマさんは武器を
使えるんだろうか。うん。わからない。

今度聞いてみよう。

そして私は辺境育ち。
魔物相手に戦ってきました。

うん、私だけ相手が人じゃないです。

でも、養子になっていた五年間に何もして
いなかったのですっかり弱っていて……。 
この二年、グレン様達に鍛えられた。

今日もグレン様にしごかれるのか。
胃が痛い。あの金色の瞳を思いだして
ブルブル身震いする。

「せっかく腕輪が外れたんだから
思い切り暴れてきなさいな。
自由に動けるの久しぶりなんでしょ?
やっちゃえ!アニエス」

アイリスさんは、くしゃくしゃと私の頭を
撫でる。ああ、腕輪外れたんだよね。

前と同じに動けるかな?
ちょっと楽しみになってきた。
まあ、相手がグレン様なのが
嫌なんですけど。

あの人は本当に怖いんです。
なのにいつも絡まれる。
あれだけ避けてるのに……。
どうも気に入られているようなのだ。
あの人の距離感はおかしい。

余計に怖い。

アイリスさんに見送られ、第一騎士団の
訓練場までやって来るとすでに大勢集ま
っている。

第一騎士団の他にも第二、第三騎士団の
騎士達がいる。見物人多すぎでしょう。

「アニエス、久しぶり」

声をかけてくれたのはオ―ウェン様です。
私を王宮に連れて来てくれた方ですが、
今はなんと私の義父です。

私が姫様付きの侍女になって、すぐに
前の養家や元婚約者の家から戻って来いと
色々絡まれまして。
    
オ―ウェン様が面倒臭いと養子縁組して
完全に縁を切って下さいました。

「腕輪、外れたんだね。良かったねぇ」


オ―ウェン様は人の良さそうなお顔をさらに
ニコニコさせて私の頭を撫でる。

「今日はグレン様と魔力ありの試合だって?
王太子殿下、ア―サ―殿下、第二、第三騎士
団長の二人に魔術師団長。うん。
見物人が豪華だ。」

「……は?」

「まあ、怪我はしない程度に頑張りなさい」

「えっ?ただの武術訓練じゃないんですか」

「違うらしいねぇ。アルフォンスが周りに
被害がでないように結界を張ると言って
いたから。まあ、思いきりやっていいんじゃ
ない?」
  
  いや、いや、いや聞いてませんけど?

「アニエス」

後ろから声をかけられる。
振り向くと端正なお顔のア―サ―殿下が手を
振っている。

もう、本当に美形だわ。
姫様に良く似たお顔。
もう、それだけで親近感爆上がりです。

それにしても同じ金の瞳でも印象が全然
違うなぁ。
   
凛としていて、それでいて温かい穏やか
な瞳の姫様。

どこまでも澄んだ真っ直ぐな気性を感じさ
せる瞳のア―サ―殿下。
    
 肉食獣系のギラギラした瞳のグレン様。
あ~うん。思い出しただけで悪寒が……。

「調子はどう?腕輪が外れた後、体調を崩し
たと聞いたけど」

「はい。もうなんともないです。今は体が
凄く軽いです」

「それは良かった。グレンも心配してたよ?
今日は思い切り蹴り飛ばして、安心させて
あげてね」

「はい?」

いや、いや、いや。何で安心させるのに蹴り
飛ばすんですか?

「できれば私が蹴り飛ばしたいけど、無理
だからアニエスに託すね」

「はぁ、まあ……頑張ります」

なんだかよくわからない応援をいただき
ました。

「私がグレンと戦ってもまだまだ足元にも
およばないからさ。今後の参考に今日は
勉強させてもらうよ」

はい?やめて下さい。妙な期待と圧力を
かけるのは。私だって無理ですよ。
だってグレン様ですよ。

あの人、実はこの国で一番魔力が強いん
ですよ。そう、アルフォンス様よりも
国王陛下よりも王太子様よりも。

もはや魔王でしょう。

あれ?何かざわめきが。
見回すと……あぁぁぁ~!
出た!!魔王だ。
グレン様がこちらを見ている。

こっちに来る~!!

死んだふりでやり過ごせないよね?
仕方がない。もう、覚悟を決めるしかない。

私は深いため息をついた。












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