王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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アニエス、三度目の『穴』落ち

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──中央公園は封鎖された。
『穴』が新しく二つ出来て、ゴブリンと
火焔熊が転移して来たからだ。
『穴』が出来てすぐに低魔力の者にも視認
され、すぐに敵が転移して来た。
以前は三ヶ月から二週間は時間があった
はずなのに……。
確かにだんだん時間が短くなってはいたが。
明らかに『穴』の性質が変わってきている。

二度目の王都襲撃。不安は尽きない。


「お手柄だったなアニエス」

マルク義兄様とセドリック兄さんが戻って
来た。二人とも怪我はないみたい。
良かった。

「ところで……これ、どうするの?」

マルク義兄様が後ろを見る。
私も見る。
セドリック兄さんも見る。

──中央公園の広い芝生広場一面がピンク
に染まっている。

うねうね。にょろにょろ。揺れる花畑。
ピイちゃん達の群れだ。
自己増殖したので、ものすごく増えた。
しかもピイピイとうるさい。


これ、どうやって引っ込めるのだろう。
とりあえず、消えろと念じるけれど。
変わらず、うねうねしている。

「これ、偶然出来たもので引っ込め方が
分からないんです。前は気持ち悪くて
焼き払ってしまったので。今回も焼いちゃ
いますか」

「え!こんなに頑張ってくれたのに焼き
殺してしまうなんて……可哀想だろう」

セドリック兄さんがピイちゃん達に
同情している。
うちの熊は優しいな。

確かに前回と違って愛着があるかも。
よく見ると可愛いと言えなくもない。
それに前回、焼き払った時のピイちゃんの
この世の物とは思えない断末魔を思い出す。
あれはエグい。焼き払らうのを躊躇する。


「おい、収納しとけば?」

ああ、成る程!兄さんナイスアイデア!
また、必要な時にすぐ出せるし。
よし。やって見よう。


「ウソだろ……あれ、全部しまったのか?
こんなのしまう余裕があるなら、武器でも
しまっておけよ。才能の無駄遣いだな。
すぐ増えるやつなのに全部取って置く必要
ないだろ。
王女宮の生鮮食品の備蓄も担当してるん
だろうに……。
出したら消せるようになれよ?」

う、マルク義兄様に叱られた。
確かに、アイテムボックスがピイちゃんで
いっぱいだ。
それに武器か。そうだよね。
なんで持っておかなかったのだろう。
……そうね。消せるように練習しよう。
まだ、ピイちゃん出したの二回目だし。
改良の余地は沢山ある。
そもそも、夢はグレン様の蔦蔓だ。
あのくらい自由自在に使いこなせる日は
くるのでしょうか?

グレン様、ピイちゃんの事。
大笑いしてたよね……。
ものすごく楽しそうだったな。
またグレン様の事を思い出しちゃった。
……会いたい。
鼻の奥がツンとする。

「おい、何、アニエス泣かしてるんだ?」

エリック兄さんの地を這うよう声がする。
第二騎士団も戻って来たんだ。
あ、私また泣いていた?
もう、最近どうなっているの私の涙腺。

「アニエス?すまない。俺の言い方がきつ
かったのか?叱った訳じゃないぞ?」

慌てるマルク義兄様。

「違う、違うの!グレン様の事を思い出して
少し、しんみりしてただけです。
ここ、初めてグレン様とデートで来た場所
なの。だから……」

「あ、そうなのか。まぁ……大丈夫だろう。
あの人は強いから。無事に帰ってくるさ」

そう言ってマルク義兄様が私の頭を撫でる。
他の兄や義兄様も順番に頭を撫でてくれた。

騎士団は事後処理や調査、その他諸々あると
の事で私はここで別れた。
マックス義兄様がまた、馬車で迎えに来て
くれたので甘える。
最近、王宮以外でのお出かけには必ず
マックス義兄様が付き添ってくれる。
なんだか申し訳ない。

「いつも付き添って下さってすみません。
マックス義兄様、私、お仕事の邪魔をして
いまませんか?無理はしないで下さいね」

五男で末子のマックス義兄様だけれど
なぜかザルツコードの跡目は彼が継ぐ
事になっている。

長男であるマルク義兄様は騎士の仕事に
誇りを持った方なので爵位に興味が
さらさらないので分かる気がするけど。

他のご兄弟はどうなんだろう?
次男、三男の義兄とはまだ一度しか
お会いしていないので良く分からない。

マシュー義兄様も騎士馬鹿だしね。
『三度の飯より稽古が好き』というのが
口癖な熱血騎士様だ。
ちょっとうちの熊兄に系統が似ているのか
結構仲良くしてくれている。


本を読んでいたマックス義兄様が
ため息と共にパタンと本を閉じる。

「今の僕の一番の仕事は、君を守る事。
君が負担に思う必要はないよ。
アニエスに何かあったら父にも兄達にも
何よりもグレン様に殺されるよ」

「そういえば、マックス義兄様達はグレン
様と『地獄のキャンプ』で一緒だったん
ですよね。グレン様とは親しいのですか?」

マックス義兄様がとても嫌そうな顔になる。

「あの人は父の次に鬼だから!どれだけ
僕がしごかれたと思う?
まあ、面倒見は良かったので、可愛いがっ
てはもらったけど……。
あれを可愛いと言い切るキルバンの国王と
我が国の国王は頭がおかしいから。
全く国王になる人は、どこか他の人とは
違うのかね。あの感性は分からない」

アルバート様とロイシュタール様か。
確かにグレン様を可愛いとはすごい感性だ。
実際、アルバート様とグレン様は仲が良い。
歳の近い王族で一緒に育ったらしいから
弟のように思っているのかな?
姫様もグレン様をちょっと、やんちゃな弟
のように扱っているような気がするし。
姫様とロイシュタール様か。
引き裂かれた恋人達。
姫様の『私の優しいロイ兄様』か……。
どんな方なのかな。


無事に王宮に戻って来た。
マックス義兄様は遠慮したのに女神像の庭
まで付いて来てくれた。
女神像の庭に最近できた三つの『穴』には
規制線が張られ、騎士様達が見張りに
立っている。
この辺りも物々しくなったなぁ。
ちらりと四阿を見る。

あそこでグレン様の出征を聞かされた。
あ、ズキンと胸が痛む。
何だか不安だ。
まだ、離れて一月。
辺境は遠い。グレン様からの連絡はない。
戦況も伝わっては来ない。
あ、しまった。また涙腺がヤバい。

「アニエス?どうしたの。君は本当によく
泣く子だね。なんでまた泣くのかな?」

ほら、マックス義兄様に心配かけた。
手でゴシゴシ擦ってマックス義兄様に
笑顔を向ける。

「ごめんなさい。最近、グレン様の事を
考えると涙脆くて。心配かけてすみません」

「……大丈夫だ。あの鬼のような人がどうか
なるわけないさ。きっと無事に君の元へ
帰って来るよ」

優しくマックス義兄様がそう言って
私の頭を撫でてくれる。

「マックス義兄様は、グレン様を鬼と呼んで
いるのですね。私は魔王と呼んでいます」

「ぶは!魔王!!何それ、ぴったりだな。
よし、僕も今度からそう呼ぼう。
そうか、アニエスもグレン様に稽古を
つけられていたよね。
あの人、ひどいだろう?女の子でも容赦ない
だろう?鬼畜だろう?」

「それはもう……毎回、立ち上がれなくなる
まで稽古をつけられてましたよ。
確かに鬼で鬼畜で魔王です」

私が力一杯力説するとマックス義兄様は
大笑いした。
送ってもらった礼を言い、マックス義兄様に
手を振って王女宮へと駆け出す。
地面へ足がつく前に、足元に『穴』が……。

「アニエス!!」

マックス義兄様の叫び声が聞こる。

私は『穴』へと吸い込まれた。

暗転する。
私の意識はそこで途絶えた。












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