王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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アニエス、走る

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墜ちる!

負傷したグレン様に追い討ちをかけるように
三匹の竜がブレスをぶつけてくる。
被弾してグレン様が墜落する。

グレン様の竜体の手に持たれていた私は一瞬
宙に投げ出された。
落下する私は腕を掴まれ抱き寄せられる。

あ、グレン様の竜化が解けてる。
元の人の姿のグレン様だ。

地面からシュルシュルと蔦蔓が伸びてきて
私達をキャッチする。そのままそっと私達
を地面に下ろしてくれた。

ほっとしたのも束の間、グレン様の怪我に
血の気がひく。
肩口に大きく引き裂かれた傷が。
白い軍服は血で真っ赤に染まっている。

「グレン様!!」

「大丈夫だ。クソ、初見じゃ思ったより
上手く動けん。これは竜化の修練を積まん
といかんな。アニエス、走れるか?
白竜の結界が消えた今なら、増援を呼べる。
頼めるか?」

増援……助けを呼びに行くの?
行く!死ぬ気で走るわ。

私はポロポロと泣きながらへたくそな
治癒魔法をグレン様にかける。
止血しか出来ないのがもどかしい。
私、絶対に今度こそ治癒魔法の修練を
積むわ!大切な人が大怪我しているのに
治せないなんて辛すぎる。

また、ブレスが私達に向けて吐かれた。
防御結界でブレスが弾かれる。
グレン様が?

「黒竜、生きてたか」

ニヤリと笑ってグレン様が言う。
グレン様の視線の先に黒竜が人の姿で
立っていた。
ああ~無事だよ。黒竜!ボロボロだけど。
よかった~。また、ボロボロと涙が溢れる。

「勝手に殺すな。クソ、あいつら今頃
のこのこやって来て好き勝手しやがって!」

「ふん。その様子じゃ遠慮はいらんな」

グレン様は手に嵌めた指輪を抜き取り
私に手渡す。竜殺しの剣収納された指輪だ。

──成る程。

せっかく黒竜と国王陛下が和解して
竜との新しい関係を築けると思ったけれど、
いきなり襲ってくるような奴らに礼儀は
いらない。
私は自分の手に嵌めていた指輪をグレン様
に渡して交換した。私の指輪には剣が五本
残っていると言っていた。
グレン様の方の指輪には沢山剣が入って
いるはずだ。
僅かでも武器になるはず。

「グレン様、私が戻るまで死なないで」

「安心しろ。お前を嫁にもらうまで簡単
には死なん。行け!アニエス!!」

「何を言ってるんです!お嫁にもらって
くれた後もちゃんと長生きして下さい。
大ピイちゃん達!グレン様達を助けて!
私が戻るまで守ってお願い!!」

「「「ピイピイ、ピー!!」」」

豆花達が返事をくれる。
藁よりは頼りになりそう。
でも、ピイちゃん達は地べたを歩く花。
空飛ぶ竜相手じゃ不利だ。

ピイちゃんが飛べたらな。
こう、パタパタと羽が生えて飛べたら……。

パタパタ、パタパタ、パタパタ。

はい?

「おいおい、飛んだぞあれ」

黒竜が呆然と言う。

「俺はもうアニエスの魔法センスに
言及するのは控えさせてもらう。
傷に響くから笑わせるな。早く行け」

肩をプルプルと震わせてグレン様が笑う。

大ピイちゃん。飛んだよ。
白い鳥の羽が生えてる。
いや、思っただけで魔力を込めてないのに。
なんでだろう。

いや、ここは飛び大ピイちゃん達に任せて
私は応援を呼びに行かなきゃ!

「アニエス、行きます!」

私は転移魔法を使って本宮に飛んだ。
本宮の廊下を走る。

王宮の敷地内である王女宮に八匹の竜が
現れて攻撃を仕掛けて来た。
王宮内は大混乱だ。

目当てのチャコールグレーを探す。
王宮警護の第一騎士団だ陛下のお側に
いるはずだ。

見つけた!マクドネル卿だ。
あ、黒い騎士服を着た熊も一緒にいる。
マリック兄さんだ。


「マクドネル卿!グレン様が怪我をしま
した。助けて下さい!」

私はマクドネル卿に事情を話す。

「私はここを離れられません。マリックを
お連れ下さい。マリック!グレン様を頼む」

「おう!アニエス、任せておけ!
グレン様は義弟だ。絶対に助けてやる」


熊が頼もしい。ありがたいわ。
私はマリック兄さんに竜殺しの剣を
一本渡す。とりあえず助っ人を一人確保だ。

「いや、ちょっと待て俺も行くぞ。
マクドネル、お前も俺について来い」

不意に後ろから言葉をかけられる。
え?国王陛下だ。

「陛下!?いや、何をおしゃいます!」

いや、国王自ら竜と戦わなくても。
マクドネル卿が慌てて止める。

「人の家にズカズカ上がり込んだ上に
可愛い弟に怪我をさせた無礼者を野放しに
しておく訳にもいかんからな」

あ、可愛い弟ってグレン様の事か。
陛下にとっては弟なのね。グレン様。

「で、その竜殺しの剣とやらは俺達の分も
あるのかな?」

「グレン様が買い占めたので、たっぷり
あります。何本ご入り用ですか?」

陛下ったら、欲張りさんだわ。
マクドネル卿に空間収納させ、竜殺しの剣を
十本も持っていった。
陛下、マクドネル卿、マリック兄さんは
先に王女宮の跡地に向かっていただいた。

私は転移魔法と身体強化での爆走を組み
合わせて王都に向かう。

ロイシュタール様と青竜に知らせないと。
空に赤竜が見当たらない。
王都の戦闘はどうなったの?

「アニエス!無事か?お前、いつ王都に!」

走っていると濃紺の騎士服を着た
熊に遭遇した。
エリック兄さんだ!

「兄さん、グレン様が危ないの。助けて!」

「ああ?詳しく話せ!」

エリック兄さんに事情を話し、
竜殺しの剣を渡す。

「あれ?アニエス?いつ王都に?」

あ、マシュー義兄様だ。
マシュー義兄様にも事情を話した。

「馬鹿だね。一人で走り回らないで少しは
人を使いな。後は俺達が人を集めるから
アニエスはロイシュタール様の所に早く。
あの人の治癒魔法はすごいから、
グレン様の治療を頼みな。
さっき中央公園の辺りで戦っていたよ」

「ありがとうございます」

二人には竜殺し剣を沢山持って
行ってもらった。
私は中央公園へと急ぐ。

うわっ!公園が……。無惨にも抉れたり
焼け焦げた所が何ヵ所も。ああ、ひどい。
グレン様との思い出の場所なのに。
また、ボロボロ涙が出てきた。

「アニエス?何、また泣いてるの?」

名前を呼ばれた。
振り向くとマックス義兄様がいた。
ロイシュタール様、青竜、カーマイン卿も
一緒にいる。あと、知らない金髪のご立派
な体格の男の人が一人いる。

「ロイシュタール様、グレン様が!」

「グレンがどうしたって?」

「八匹の竜にいきなり攻撃されました。
グレン様が負傷した体で黒竜と一緒に残って
います。助けて下さい」

「八匹の竜だって?青竜、どういう事だ」

「北大陸に逃げた奴らだな。今頃、何しに
帰って来たんだ」

あ、青竜も苦虫を噛んだような顔だ

「青竜、女神像の庭の溝を消してくれる?
せっかく白竜の結界が消えたのに、
あれのせいで王女宮の跡地に他の人が
入れないかも」

「白竜の結界が消えたなら俺の道も
自然に消える。あれは結界と王女宮を分断
するために作ったものだからな」

「よし、早く行こうぜ!親分、大丈夫だ。
グレン様は俺が助けてやる!」

カーマイン卿だ。
うん、お願いします。カーマイン卿。

「でも、こいつをどうする?このまま
ここに転がしておく訳にもいかんだろう?」

ご立派な体格の男の人が地面に倒れている
赤い髪の男を指差す。
首から肩にかけて黒い刺青が見える。
赤竜だ。人化している。

「そうだな。目が覚めて暴れられたら困る。
マックス、赤竜の見張りを頼めるか?」

ええ?人手が足りないのに。
見張りに一人もっていかれるのは
もったいない。
よし、赤竜も連れて行こう。
私は赤竜を空間収納した。


「え?赤竜が消えた!」

「あ、私が空間収納しました」

「え?あれはでかい竜になるんだぞ。
収納の容量は大丈夫なのか?」

ご立派な体格の男の人が尋ねてくる。
この人誰だろう?

「お、はじめましてお嬢さん。カナンの
司令官のバルドだ。マチルダの兄だよ」

あ、王妃様のお兄様か。王妃様が心配で
アルトリアに来たのかな?

「アニエス・ザルツコードと申します。
容量は全然余裕があります。大丈夫です」

「マックスの義妹だな。グレンの婚約者か
すげぇな。ま、これで人手を割かなくても
よくなったな。ありがとうよ」

「アニエス嬢、グレンの怪我はひどいの?」

ロイシュタール様だ。

「竜の爪で肩から胸にかけてザックリと。
結構な出血でした。
私じゃ止血しかできなくて……」

「止血できただけでも上出来だよ。
よし、行くぞ!」

「あ、待って下さい。竜殺しの剣を持って
いって下さい。まだ沢山あります」

「え?沢山?あれは滅多に手に入らない
貴重品だろうに」

「グレン様が買い占めてくれました」

「アイツの財力は半端ないな。ははは!
買い占めかぁ。大人買いだな。
よし、大富豪を助けに行くか!」


全員、王女宮の跡地へ走り出した。














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