王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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黒竜、昔語り2

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「は?金の鱗を与えたですって?」

「うん。フィリスが受け入れてくれたんだ」

竜王様がとんでもない事を言い出した。
金の巻き髪をくるくる指に絡めながら、
まるで乙女のように恥じらっている。
少し前から黒い森の近くに住む人の娘と
仲良くしていたのは知っていた。

二人は恋仲でそのうち番になるかも
しれないとは思っていた。

ただ、あくまで婚姻鱗を与えるだけ。
人の寿命が尽きるまでの仮初の番だと
思っていた。
まさか竜王様が人に金の鱗を与えるなんて。
大変な事になった。

俺は深くため息をついた。

人の寿命は短い。だがなぜか竜と人の間には
子を授かる事が多い。
生まれた子は人の血で竜の血が薄まる。
そのままでは竜ではなく人として生きる
事になる。だが、竜が血や鱗を与え、
それなりの魔力を与えさえすれば竜となる。

竜属には雌が生まれにくい。
竜の雌と番になれない雄はあまりにも多い。
人を仮初の番として子を成して繁殖する。
この頃はよくある事だった。

人と番になる。
だからこそ、竜は人化を始めたんだろうよ。
竜王様のお言葉だ。

確かに竜が人化する理由としては正しい
ような気がする。
もはや竜の姿でいるよりも人の姿で過ごす
事の方が多いのだから、なおさらだ。
竜体でいるより人の姿の方が魔力を消費
しない。

竜は好んで人の姿をしていた。

赤竜も青竜も人の娘と恋をした。
彼らの恋は熱烈で子を数人成した後、
仮初の人の番に金の鱗を与えようとした。

人に金の鱗を与える事は、自分の寿命を
半分分け与え、同じ時を生きる真の番と
なる事だ。
数百年から千年生きる竜と百年にも
満たない短い寿命の人。
そんな短い寿命の人に自分の寿命を
分け与える。

人は数百年の寿命を手に入れるが、
与えた竜は寿命が半分に縮まる。
圧倒的に竜の方が損をする事になる。

だが、人の番は大抵、金の鱗を拒絶する。
人の寿命を遥かに越えて生きる事に恐怖を
覚え、金の鱗を拒むのだ。
さらに愛する者の寿命を縮める事を厭う。


赤竜、青竜の番達も金の鱗を拒んだ。
人の娘が年老いて亡くなるまで彼らは
ずっと寄り添った。

「なんで受け入れてくれなかったんだ。
ずっと一緒にいたかったのに」

青竜が番の墓に花を手向けながら涙を
流す。年老いて病を得てなお、番は頑なに
金の鱗を拒んだ。

『一緒にいられて幸せだった』

そう、言い残して青竜の番は儚くなった。

青竜はしばらくの間、立ち直れなかった。
青竜よりも大分前に、やはり金の鱗を拒んだ
番に死なれた赤竜が荒れて傷ついた青竜に
ずっと側にいて寄り添った。
二人の婚姻鱗は番が亡くなったために
新しい鱗が生えてきている。

それでも再び二人が番を持つ事はなく
死に別れた人の番だけを想っていた。

長い時を費やしたが青竜は立ち直った。
俺も赤竜も安堵した。

「もう、短い命の人の番は懲り懲りだ。
今度は可愛い竜の雌と番になりたいな」

「倍率が凄いけどな。クロはいいな~。
お前にはシロがいるもんな」

青竜と赤竜が言う。
シロか。
白竜だ。とても可愛い雌でいろんな雄から
求婚されている。

本人はどれもピンとこないと振りまくって
いるけれど、いつかアイツが気に入る雄が
できるかもしれない。
正直気が気じゃない。

うん。シロと番になれたら最高に幸せだ。
でもシロは俺の事は友達としか思ってない。
いや、頑張れ俺。

友達でも、シロと一番仲がいいのは俺だ!
望みはあるはずだ。うん。


人は長い時を望まない。金の鱗を受け入れ
てはくれない。そのはずだった。

なのに、よりによって千年以上生きる金竜
が人に金の鱗を与え、人の娘がそれを受け
入れた。
赤竜と青竜は竜王様に真の番ができた事を
喜んだ。
自分達は番に受け入れてもらえなかった。
でも、竜王様は同じ時を連れ添う相手を
手に入れた。めでたいという。

だが、俺は手放して喜べなかった。

人が金の鱗を拒むのはそれなりの理由が
あるからだ。
竜王様の番はそれをきちんと分かっている
のだろうか?

それに竜王様の寿命が半分になって
しまった。
赤竜、青竜以外の他の仲間達は嘆き
悲しんだ。

その日から百年ほどまではよかった。
竜王様の番であるフィリスは気立ての良い
可愛い女性で、俺達とも仲良くやっていた。

竜王様との間に子供にも恵まれた。
仲睦まじい二人に俺も安心していた。

だが百年を過ぎた頃、
ある日、久しぶりにフィリスが人の町に
出かけた。

普段は俺達と共に黒い森で暮らす彼女。
時々は人の町に行っていた。
人の一生分の時が過ぎ去り、
親兄弟も友達も皆、死に別れた。
その度に泣き崩れた彼女。
段々と町へ行く事がなくなった。

だからその日、彼女がなぜ急に人の町に
行こうと思ったのかは未だに分からない。


竜王様にも黙って一人町に行ったフィリス。
最後に残っていた妹を訪ねた。
妹は数年前に亡くなっていた。

老年の甥に化物を見るような目で見られ、
町の人達から口々に化物と罵られて
深く傷つき黒い森へと戻ってきた。

自分は人の時間とは別の時間を生きる
生き物なのだと初めて本当の意味で自覚
したフィリス。

その日を境に塞ぎ込む事が多くなった。
竜王様はフィリスにずっと寄り添った。
だが、フィリスは段々と病んでいった。

静かに、静かに壊れていく彼女。
百五十年を過ぎたある日、フィリスの子供が
亡くなった。
竜と人との間に生まれたその子は竜の血と
鱗を与えられ、竜として生きていた。

その子も人の娘と真実の番になり寿命を
分け与えていた。
親子二代、人に金の鱗を与えた。
元々人の血で薄くなった竜。
番に寿命を分け与えたためにそう長くない
寿命を削った。

番と共に僅か百五十年で寿命を迎えた。
番と共に迎える死。
とても幸せそうに二人は旅立った。

残されたフィリスはとうとう完全に壊れた。
それから数年は地獄のようだった。
気の触れた番に寄り添う竜王様。

竜王様も次第に病んでいった。
あんなに無邪気で明るい方だったのに。

悪い事は重なるもので新しくできた人の
国との間に小競り合いが起こった。
赤竜の血をひく人の王が治める国。
赤竜は酷く心を痛めた。

竜王様も赤竜を気遣い、事をなるべく
穏便に済ませようとしていた。
それが災いした。
増長したその国の民は黒い森に火を放った。

神聖な森に火を放つ。
竜達の怒りは凄まじかった。
人の国を滅ぼそうとする竜達を竜王様が
何とか宥めた。

混乱を収めるために竜王様はフィリスの
側を離れた。
壊れた彼女は竜王様がいない事に錯乱し
自ら命を断った。





















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