王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

文字の大きさ
99 / 135

アニエス、もう一晩お泊まりする

しおりを挟む
……ぬくい。う~ん。もうちょっと寝る。
でもなんか頬をつんつんされている。
目を開けると隣で寝転ぶグレン様が頬杖を
ついて私の頬をつんつん指でつついている。
グレン様……裸だよ。そりゃそうか。
私も裸だ。顔が熱い。


「お、目が覚めたな?起きるぞ。そろそろ
仕度をしとかないとマックスがオーウェンを
連れて迎えに来るぞ」

「あ~そうですね。私達も大概ふしだら
ですよね。オーウェン様も怒っているかも」

上掛けで胸を押さえてゆっくり起き上がる。
そっと自分の体を確認すると
う~わ~~もう!キスマークだらけ。
もう!少しは加減して下さい。

「あ~すごいな。消すのか?もったいない」

「何がもったいないんですか!」

「せっかくつけたのに……まあ、また
つければいいか。ほれ、こっちに来い」

呼ばれたのでちょっとだけグレン様の方に
にじり寄る。
後ろから抱きしめられる。
あれ?キスマークを消すんじゃないの?

「……グレン様?」

「うん?」

いや、手つきが怪しいんですけど!

「起きるんですよね?キスマークを消して
くれるんですよね?ああ~!もう増やして
どうするんですか!」

「後で消す。もうちょっとだけな?」

「この間、そんな事を言って三回も
したじゃないですか!」

「成る程。回数を覚えていられるほど
余裕がある訳だな?よし!」

何がよし!なの~~!!
あ、ああ~~!!

………よかった。
本当に時間がなかったみたい。
一度で済んでよかった。

グレン様……朝にしたがるよね?
それにしても結婚前に恥ずかしいわ。
もう、今さらだけど。

マーサさんに仕度をしてもらい朝食の席に
つく。侍女頭自ら私の世話をしなくても
いいのにね。
いくらキスマークを消してもらった後でも
お世話されるのは恥ずかしい。
昨日とはまた違う水色のドレスを着せて
もらい朝からしっかり朝食を食べた。

食後にのんびりお茶を飲んでいると、
マックス義兄様がお迎えに来た。
グレン様の予想通り、オーウェン義父様も
一緒に来たよ。

「アニエス、迎えに来たよ」

笑顔のマックス義兄様。
昨日のグレン様とのやり取りがあるから
気まずい。
グレン様に忖度する形になったものね。

「順序を守れと言ったはずですが。ははは!
本当に死にたいようだな……小僧」

オーウェン義父様が笑いながら怒っている。
そうだよね。この反応が普通だよね。
うちの実家の熊父はぜんぜん気にしてない。
おおらか過ぎるでしょ。
やっぱり、あれが変なんだ。

「もうすっ飛ばしたものは仕様がないだろ。
順序なんぞ今さらだ。
細かい事を気にするとハゲるぞ」

「あと一年ぐらい待てんのか。世間体という
ものを考えろ!このケダモノが!」

「世間を黙らせれば、お前も黙るのか?」

こてんと首を傾けるグレン様。
さすがの開き直り。
オーウェン義父様の怒りに油を注いでいる。

はらはらしながら、二人を見ていると
ヨーゼフさんがお茶を持ってやって来た。
家宰って偉いんじゃないの?
なんでお茶を持って来るの。

「おや、このエルドバルドの屋敷で
ザルツコードの若造が偉そうな事で。
マリーナ様はお元気でいらっしゃい
ますかな?」

「ヨ、ヨーゼフ、元気そうだな?」

「ええ、ええ。お陰様で。しぶとく生き
残っていますとも。あなたのせいで
マリーナ様を奥様とお呼びできなかった。
残念でなりません。
ですが、もうじきアニエス様を奥様と
お呼びできる。生きてはみるものですな。
ところでグレン様の幸せの邪魔はまさか
していないでしょうね?」

あれ?ヨーゼフさんとオーウェン義父様は
知り合い?マリーナ義母様が奥様って
どういう事?
ニッコリ笑って圧をかけるヨーゼフさん。
ひきつった笑顔で応戦する義父様。

何?この二人。

「アニエス様はしばらくこちらでお預かり
します。いいですね?」

「い、いや。それは困る。マリーナが
アニエスに会いたがっている」

「おや、それでは三日ほどこちらでお預か
りしてからザルツコードにお送りします。
エルドバルドでお預かりするのですから
丁重におもてなしさせていただますとも。
ご安心を……オーウェン?」

呼び捨てにしたよ。
ヨーゼフさんって一体。

「ヨーゼフ、心が狭いぞ。せっかく迎えに
来たんだ。今日はザルツコードへ帰そう。
アニエス、明日またうちに来ないか?
迎えに行く」

ヨーゼフさんと義父様のただならぬ雰囲気
にグレン様が妥協案をだす。

あ~うん。それで構いませんとも。
なんだろう?この帰る、帰らないの緊迫した
やり取りは。

「いいえ。今日はこちらでお預かりします。
アニエス様のためにシェフが夕食の
デザートにチョコレートケーキを用意して
いますし、おやつも準備しています。
それにまだ肝心のウエディングドレスの
デザイン画をご覧になっていただけて
おりません。マーサは明日のドレスをもう
準備していますし、庭師は明日の朝に
アニエス様のお部屋を飾る花を今から
選んでいます。……恨みますよ?」

チョコレートケーキ?それはうれしいかも!
あ、いや。ヨーゼフさんが怖い。

グレン様が遠くを見る目になっている。
仲裁するのを諦めたな魔王のくせに。
結局、オーウェン義父様が折れた。
今日はまたこちらにお泊まり決定。
明日、ザルツコードに帰る事になった。

「すみません。せっかく迎えに来て下さっ
たのに無駄足にしてしまって」

「いや、明日に帰ってくるのならまあいい。
ヨーゼフには負い目があって逆らえない。
仕方がない……明日また迎えに来るよ」

負い目って何?
マックス義兄様にハグされる。

「嫌になったらいつでも帰って来ていい
からね?迎えに行くから」

「はい。大丈夫です。マリーナ義母様に
よろしくお伝え下さい」

オーウェン義父様とマックス義兄様を
見送る。本当にごめんなさい。
なんだかよく分からないけれど
逆らえない雰囲気なんだもん。

「アニエス、マックスとの過度の接触は
禁止だと言ったはずだぞ」

グレン様がお怒りだ。ケチくさいな。
ハグぐらいいいでしょうが。
痛い。痛い~~頬をつねられる。

「だから、義兄ですから!」

「だからマックスは駄目だと言っている」

「え~~!!」

「え~~!!じゃない。二代続けて
エルドバルドの嫁がザルツコードに盗ら
れるのは洒落にならん」

「はい?」

え、グレン様。なんか聞き捨てならない事
を言ったわよね?

「中に入ろう。いつまでも外にいると
体が冷える。茶でも飲みながら話そう」

グレン様は自分の上着を私に羽織らせると
私の肩を抱いた。



暖かい部屋に戻って来た。
今度はヨーゼフさんではなく、侍女さんが
お茶を淹れてくれた。
うん。おいしい。

あ、黒竜が好きそうな焼き菓子がある。
いなくて残念。

「すごいだろ?うちのヨーゼフは」

グレン様がため息をつく。

「すごいですね。オーウェン様がたじたじ
でしたもの。二人はお知り合いですか?」

「元々ヨーゼフはエルドバルドに仕える
騎士でな。怪我が元で退職して先代の
エルドバルド公の家宰となった奴なんだ。
ちなみにオーウェンの元上官だ。
オーウェンは末子で家督を継ぐ事が決まる
までエルドバルド公に仕える騎士だった」

「え!そんな関係?」

元上官か。それは頭が上がらないかも。

「二人とも先代に心酔していたんだが
先代は白竜の生贄として死んだ。
白竜の生贄は託宣で十年の猶予を
与えられる。
血が絶えないように繁殖させるのが
目的だ。先代も先々代の国王から
子供を作るように命じられていたんだが
魔力が高過ぎて子を産める女が中々
見つからない。
仕方がなく先々代の国王は、帝国の奴隷で
魔力の高い女を買い取って先代に
あてがった訳だ」

「高い魔力を持つ奴隷の女。帝国は国が
荒れていて高位貴族の家が取り潰されて
奴隷に落とされる。
アルフォンス様と同じような境遇の
女性だったんですね?」

「その奴隷の女がマリーナだ」

「ええ!!」

「マリーナは先代のエルドバルド公の
嫁として高い魔力を持つがゆえに帝国から
買われて来た奴隷だったんだ」

「え?だってマリーナ義母様はオーウェン
義父様と結婚していますよね?」

「どんな経緯があったのかは知らん。
だが、先代が生贄になる前にマリーナと
オーウェンは結婚している。
ヨーゼフが恨んでいるのはそのせいだろう」

「ふ、不倫ですか?」

「いや、おそらくだが先代がマリーナを
オーウェンに託したのだと思う。
短い命、しかも子を設ければ次の生贄に
選ばれる可能性が高い。
大事な女なら手をつけずに逃がすだろ。
俺も実はお前も諦めようと思った事が
あるからな。気持ちは分かる」

「え?なんですかそれ」

「お前の事を避けまくっていた事がある
だろう?あの時だ」

何それ。
生贄なんて、もう二度と出しては駄目。
私はグレン様を抱きしめた。
温かい。この温もりが愛しい。

マリーナ義母様は先代のエルドバルド公を
どう思っていたんだろう。
今ではあんなに仲の良い夫婦なのに
オーウェン義父様とはどうして結婚した
のだろう。

白竜を解放して生贄を出さなくても
いいように、早く何とかしなくては。

グレン様の手を取り口付ける。
あなたが生贄にならなくてよかった。
生きていてよかった。

グレン様の金色の瞳と視線が合う。
どちらともなく唇が重なった。






















しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi
恋愛
 若様がお戻りになる……  イングラム伯爵領に住む私設騎士団御抱え治療士デイヴの娘リデルがそれを知ったのは、王都を揺るがす第2王子魅了事件解決から半年経った頃だ。  王位継承権2位を失った第2王子殿下のご友人の栄誉に預かっていた若様のジェレマイアも後継者から外されて、領地に戻されることになったのだ。  リデルとジェレマイアは、幼い頃は交流があったが、彼が王都の貴族学院の入学前に婚約者を得たことで、それは途絶えていた。  次期領主の少年と平民の少女とでは身分が違う。  婚約も破棄となり、約束されていた輝かしい未来も失って。  再び、リデルの前に現れたジェレマイアは……   * 番外編の『最愛から2番目の恋』完結致しました  そちらの方にも、お立ち寄りいただけましたら、幸いです

私、異世界で獣人になりました!

星宮歌
恋愛
 昔から、人とは違うことを自覚していた。  人としておかしいと思えるほどの身体能力。  視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。  早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。  ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。  『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。  妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。  父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。  どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。 『動きたい、走りたい』  それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。 『外に、出たい……』  病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。  私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。 『助、けて……』  救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。 「ほぎゃあ、おぎゃあっ」  目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。 「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」  聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。  どうやら私は、異世界に転生したらしかった。 以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。 言うなれば、『新片翼シリーズ』です。 それでは、どうぞ!

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

処理中です...