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嬉しい賛辞
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徐々に近付いてくる船団を眺めながら俺達は桟橋で待っている。
旗印は間違いなく戸田家のものだ。伊豆下田城から出陣してきた水軍に間違いない。
「姫様! ご無事でしたか!」
先頭はなんと、伊東の義父殿だ。桃が心配で老体にムチ打って出陣して来たのか。甲冑姿が厳めしい。
続いて接岸してくる船からぞろぞろと降りてきた鎧武者達が、口々に桃を心配したり、状況を確認したり。
「じい! この通り、私はピンピンしていますよ」
桃がそう言いながら俺をちらりと見る。
「それより、指揮しているのは誰ですか?」
「は、安形様自ら……」
「まぁ……」
城代を務めている安形様自ら出陣とは、これはかなり大事になっているんだろうなぁ……
桃は一緒に叱られて、なんて言ってたけど、俺の首、大丈夫かね?
とりあえず、全ての船はとてもじゃないが接岸できない為、全部で六艘の船が桟橋に寄せてきた。その中にひと際立派な甲冑姿の武将がいる。あれが安形様だろう。その安形様が、桃の前に来て片膝を付いて控える。お付きのお侍達も同様だ。
「姫様! よくぞご無事で!」
うん、心底安堵した表情だ。この人も、切腹覚悟だったんだろうなぁ。
「おい貴様。伊東殿のところに養子に入った鍛冶職人の弥五郎と申したな?」
おっと、安心したら今度は俺に鋭い視線が飛んで来た。
「は。伊東弥五郎にございます」
俺も御城代の前だ。きちんと畏まる。
「少し、話を聞きたい。顔を貸せ」
「お待ちなさい、安形殿! 弥五郎はなにも――」
恐らく俺は責任を追及されるんだろうな。それを案じて桃が止めようとするが、俺はそれを制する。
「は、どこへなりとも」
俺がそう返事をすると、安形様は配下に何事か指示を出し、俺に付いてくるよう促してきた。桃は俺を心配そうに見ていたけど、安形様の部下達に色々と話しかけられ、どこかへ行ってしまった。何度も何度も、こちらを振り返りながら。
俺はそれに、心配いらないとばかりに笑顔で手を振る。
俺と安形様は、少しばかり歩いて、人気のない断崖から海を眺めていた。潮風がやや強いが、中々心地いい。
「随分と男前になったな」
「はあ」
俺の頬の傷の事を言ってるんだろう。この傷はしばらく、いや、下手したら一生残るだろうなぁ。
「お主には聞きたい事が山ほどある」
「は」
それから俺は本当に山ほど質問を受けた。
先ず、海賊達はどうなったのか。
俺が四十人余りを倒し、残りの二十人程は桃姫様、孫左衛門、護衛の隠密で倒した事を話すと、安形様はあんぐりと口を開けて暫く固まっていた。
「昨夜より三人の同行者が死体を検めておりますゆえ、確認されるのがよろしかろうと存じます」
「う、うむ」
そして、なぜ桃を同行させたのか。
それについてはハッキリと不可抗力だと述べた。なにせ、出航後しばらくしてから船の荷物に紛れて隠れていたのを見つけたんだからな。俺にどうしろと。
「お主が姫様を唆して連れ去ったのだと言う者もおる」
はあ?
そんな噂を立てられてんのか。
「ありえませぬ。なぜみすみす敵中に赴くのに人質になりやすい桃姫様を連れて行かねばならぬのです? その虚言を吐いた者、今すぐ戻り次第斬り捨ててよろしいか?」
俺は自分が献策したからには、責任を持って遂行するために命を懸けたんだ。それをそんな風に邪推するヤツがいるなら、ちょっと許しちゃおけねえよな。
「自分が献策した際、誰も手を上げる者はおりませんでした。そのような腰抜け共に下らぬ虚言を吐かれるとは……やり切れませんね。そう思いませんか? 御城代」
俺は全身から怒りを発して安形様を見る。安形様は、それを冷や汗を流しながらどうにか受け流しているが、それほど余裕は無さそうだ。
「まず、抑えろ」
「……は」
俺が殺気を抑えると、安形様は大きく息を吐く。
「お主のようなひょっこり現れた者が、姫様に重用されているのを快く思わぬ者もいる。この先もこのように陰口を叩かれたり、嵌めようと画策する者が出てくるであろうな。それでもお主は姫様を守り続けると言えるか?」
「無論!」
夜明けまで桃と語り合い、誓いを立てたんだ。誰が相手でも絶対に引かねえよ。
「取り敢えず、今回の海賊討伐を手柄を手土産に、下らぬ讒言を吐いた連中を黙らせてご覧に入れましょう」
「ふむ。お主の心意気はよう分かった。城に戻る頃には殿も御帰還なさっておられるだろう。御前で申し開きをする機会もあるやもしれぬ。上手く使え」
「は!」
そう言って立ち去ろうとする安形様だが、どうやら俺の敵って訳じゃなさそうだ。へえ、中々話の分かるお人じゃないか。
「おっと」
ん?
安形様が途中で何か思い出したように立ち止まって振り返る。何だろう?
「よくぞ姫様を守り抜いた。ようやったな。それと……」
まだ何か?
「お主の鉄瓶で沸かした白湯は美味いな」
そうニッコリ微笑みながら言ってくれた。
「ははっ! 有難き幸せ!」」
ははっ! 俺の鍛冶職人としての腕を褒められるのは嬉しいぜ!
旗印は間違いなく戸田家のものだ。伊豆下田城から出陣してきた水軍に間違いない。
「姫様! ご無事でしたか!」
先頭はなんと、伊東の義父殿だ。桃が心配で老体にムチ打って出陣して来たのか。甲冑姿が厳めしい。
続いて接岸してくる船からぞろぞろと降りてきた鎧武者達が、口々に桃を心配したり、状況を確認したり。
「じい! この通り、私はピンピンしていますよ」
桃がそう言いながら俺をちらりと見る。
「それより、指揮しているのは誰ですか?」
「は、安形様自ら……」
「まぁ……」
城代を務めている安形様自ら出陣とは、これはかなり大事になっているんだろうなぁ……
桃は一緒に叱られて、なんて言ってたけど、俺の首、大丈夫かね?
とりあえず、全ての船はとてもじゃないが接岸できない為、全部で六艘の船が桟橋に寄せてきた。その中にひと際立派な甲冑姿の武将がいる。あれが安形様だろう。その安形様が、桃の前に来て片膝を付いて控える。お付きのお侍達も同様だ。
「姫様! よくぞご無事で!」
うん、心底安堵した表情だ。この人も、切腹覚悟だったんだろうなぁ。
「おい貴様。伊東殿のところに養子に入った鍛冶職人の弥五郎と申したな?」
おっと、安心したら今度は俺に鋭い視線が飛んで来た。
「は。伊東弥五郎にございます」
俺も御城代の前だ。きちんと畏まる。
「少し、話を聞きたい。顔を貸せ」
「お待ちなさい、安形殿! 弥五郎はなにも――」
恐らく俺は責任を追及されるんだろうな。それを案じて桃が止めようとするが、俺はそれを制する。
「は、どこへなりとも」
俺がそう返事をすると、安形様は配下に何事か指示を出し、俺に付いてくるよう促してきた。桃は俺を心配そうに見ていたけど、安形様の部下達に色々と話しかけられ、どこかへ行ってしまった。何度も何度も、こちらを振り返りながら。
俺はそれに、心配いらないとばかりに笑顔で手を振る。
俺と安形様は、少しばかり歩いて、人気のない断崖から海を眺めていた。潮風がやや強いが、中々心地いい。
「随分と男前になったな」
「はあ」
俺の頬の傷の事を言ってるんだろう。この傷はしばらく、いや、下手したら一生残るだろうなぁ。
「お主には聞きたい事が山ほどある」
「は」
それから俺は本当に山ほど質問を受けた。
先ず、海賊達はどうなったのか。
俺が四十人余りを倒し、残りの二十人程は桃姫様、孫左衛門、護衛の隠密で倒した事を話すと、安形様はあんぐりと口を開けて暫く固まっていた。
「昨夜より三人の同行者が死体を検めておりますゆえ、確認されるのがよろしかろうと存じます」
「う、うむ」
そして、なぜ桃を同行させたのか。
それについてはハッキリと不可抗力だと述べた。なにせ、出航後しばらくしてから船の荷物に紛れて隠れていたのを見つけたんだからな。俺にどうしろと。
「お主が姫様を唆して連れ去ったのだと言う者もおる」
はあ?
そんな噂を立てられてんのか。
「ありえませぬ。なぜみすみす敵中に赴くのに人質になりやすい桃姫様を連れて行かねばならぬのです? その虚言を吐いた者、今すぐ戻り次第斬り捨ててよろしいか?」
俺は自分が献策したからには、責任を持って遂行するために命を懸けたんだ。それをそんな風に邪推するヤツがいるなら、ちょっと許しちゃおけねえよな。
「自分が献策した際、誰も手を上げる者はおりませんでした。そのような腰抜け共に下らぬ虚言を吐かれるとは……やり切れませんね。そう思いませんか? 御城代」
俺は全身から怒りを発して安形様を見る。安形様は、それを冷や汗を流しながらどうにか受け流しているが、それほど余裕は無さそうだ。
「まず、抑えろ」
「……は」
俺が殺気を抑えると、安形様は大きく息を吐く。
「お主のようなひょっこり現れた者が、姫様に重用されているのを快く思わぬ者もいる。この先もこのように陰口を叩かれたり、嵌めようと画策する者が出てくるであろうな。それでもお主は姫様を守り続けると言えるか?」
「無論!」
夜明けまで桃と語り合い、誓いを立てたんだ。誰が相手でも絶対に引かねえよ。
「取り敢えず、今回の海賊討伐を手柄を手土産に、下らぬ讒言を吐いた連中を黙らせてご覧に入れましょう」
「ふむ。お主の心意気はよう分かった。城に戻る頃には殿も御帰還なさっておられるだろう。御前で申し開きをする機会もあるやもしれぬ。上手く使え」
「は!」
そう言って立ち去ろうとする安形様だが、どうやら俺の敵って訳じゃなさそうだ。へえ、中々話の分かるお人じゃないか。
「おっと」
ん?
安形様が途中で何か思い出したように立ち止まって振り返る。何だろう?
「よくぞ姫様を守り抜いた。ようやったな。それと……」
まだ何か?
「お主の鉄瓶で沸かした白湯は美味いな」
そうニッコリ微笑みながら言ってくれた。
「ははっ! 有難き幸せ!」」
ははっ! 俺の鍛冶職人としての腕を褒められるのは嬉しいぜ!
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