1 / 5
1
しおりを挟む
戦場に出て居た夫デイモンドが、間もなくこの地に帰って来る。
これまで騎士団の中で誰よりも活躍し数々の戦果を上げた夫は、少し前に王様より「英雄」の称号を与えられた。
そして私は、その妻のメイシーだ。
デイモンドと結婚した時から、周りの女たちは美形の彼と一緒になれる私の事を羨んで居たが……英雄の妻と言う座に就いた事で、より一層羨望の目で見られる事となった。
それに対し、少し気後れしないでもなかったが……デイモンドの居ない間この家をしっかりと守り、そして大事な役目を変わらず果たし続けて居た。
ここを出る前、デイモンドが言って居たわね……。
『英雄になった事で、何でも一つ望みを叶える権利を王から授かったんだ。でも俺にはお前と言う良き妻が居て、公私共に順調な今願いが見つからない。そもそも、俺の望みはお前が叶えてくれる。だから俺が今度ここに帰って来るまでにメイシー、お前が何か考えておいてくれ。』
『いいんですか?じゃあ、私もあなたも幸せになれるような……そんな望みを一つ見つけておきますね。』
と言う事があり、あれから色々と考えてみたけれど……物もお金も、今の私たち夫婦には十分満ち足りて居る。
ただ一つ物足りないとすれば……未だに、彼との子供に恵まれない事だ。
と言うのも、忙しく戦場を駆け回るデイモンドは家に居ない事がほとんどで……子が出来たとしても共にゆっくり子育てに励めるはずがないと言う彼の考えで、子作りを避けて来た節があったからだ。
でも英雄になった今、何でも望みが叶うなら……一年ほど彼の休みを頂きたい、夫婦の時間をゆっくり取れるようにして欲しいと王様に願い出ようか。
そしたら、これまでデイモンドと一緒に行きたくても行けなかったいろんな場所にバカンスに出かけ……そうして過ごす間に、子に恵まれる事があったらどれだけ喜ばしいか──。
などとこの先の事を考え……私はデイモンドが帰って来るのを、今か今かと待つのだった。
しかし……帰ってきたデイモンドの傍らには、意外な人物が寄り添って居た。
それは生まれ故郷で結婚生活を送って居るはずの私の妹、カロリーヌだった。
「どうしてその子が一緒なのです?その子が遊びに来る予定など、何もなかったはずですが……。」
不審に思い尋ねる私に、デイモンドは驚くべき言葉を言い放った。
「彼女を連れて来たのはな、俺の第二夫人になって貰いたいからだ。」
「あ、あなたには、私と言う妻が既に居るじゃないですか!第二夫人って……この国では一夫一妻制しか認められて居ないのだから、そんなの無理に決まって居ます!」
そう反論する私に、カロリーヌは馬鹿にしたような笑みを浮かべこう言った。
「普通の男なら、間違いなく認められないでしょうね。でもお姉様、あなたの夫は英雄なのよ?英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来るの。だから彼は、私を第二夫人を迎える事を願ったのよ。」
「そんな……。デイモンド、あなたは願いが見つからないって……私に、代わりに願いを見つけて欲しいって言ってくれたじゃないですか!だからあなたが居ない間、私は互いが幸せになれる願いを考えて──」
「以前はそう言って居たがな、気が変わったんだ。カロリーヌはな、俺がお前の故郷近くの戦場に居ると知り危険を顧みず薬や食料を差し入れてくれてな……。そうして一緒に戦場で時間を過ごす内、自然と遠くに居るお前より近くにいる彼女に心惹かれるようになって行ったんだ。美人で愛嬌のある彼女に傍に居て貰えると自然と力が湧いて来て、今までのどの戦場よりも上手く立ち回れたんだぞ。」
「私はただ、あなたを影でお支えしただけです。まぁ、美人で愛嬌があると言うのは認めますわ。それこそそこの地味で真面目腐ったお姉様よりも、うんとあなたの事を満足させられるほどにはね。」
そう言って意地の悪い笑みを浮かべるカロリーヌを……そんな顔もまた魅力があるなどと言って、デイモンドはギュッと抱きしめるのだった。
「わ、私はそんなの絶対に認めません!そもそもカロリーヌ、あなた少し前に結婚したばかりじゃないの!それも……私の幼馴染のライエルと!あなたが第二夫人になる何て事、ライエルも許すはずがないでしょう!」
ライエルは、私の大事な幼馴染だ。
そのライエルとどうしても結婚したいと、カロリーヌが涙ながらに気持ちを告げ……またライエルもそんな彼女を哀れに思い、カロリーヌと一緒になる事を選んだのだった。
自分からライエルと結婚したいとあれほど大騒ぎしておいて、今度は私の夫の第二夫人になりたいだ何て……この子、一体どう言う神経して居るのよ──。
これまで騎士団の中で誰よりも活躍し数々の戦果を上げた夫は、少し前に王様より「英雄」の称号を与えられた。
そして私は、その妻のメイシーだ。
デイモンドと結婚した時から、周りの女たちは美形の彼と一緒になれる私の事を羨んで居たが……英雄の妻と言う座に就いた事で、より一層羨望の目で見られる事となった。
それに対し、少し気後れしないでもなかったが……デイモンドの居ない間この家をしっかりと守り、そして大事な役目を変わらず果たし続けて居た。
ここを出る前、デイモンドが言って居たわね……。
『英雄になった事で、何でも一つ望みを叶える権利を王から授かったんだ。でも俺にはお前と言う良き妻が居て、公私共に順調な今願いが見つからない。そもそも、俺の望みはお前が叶えてくれる。だから俺が今度ここに帰って来るまでにメイシー、お前が何か考えておいてくれ。』
『いいんですか?じゃあ、私もあなたも幸せになれるような……そんな望みを一つ見つけておきますね。』
と言う事があり、あれから色々と考えてみたけれど……物もお金も、今の私たち夫婦には十分満ち足りて居る。
ただ一つ物足りないとすれば……未だに、彼との子供に恵まれない事だ。
と言うのも、忙しく戦場を駆け回るデイモンドは家に居ない事がほとんどで……子が出来たとしても共にゆっくり子育てに励めるはずがないと言う彼の考えで、子作りを避けて来た節があったからだ。
でも英雄になった今、何でも望みが叶うなら……一年ほど彼の休みを頂きたい、夫婦の時間をゆっくり取れるようにして欲しいと王様に願い出ようか。
そしたら、これまでデイモンドと一緒に行きたくても行けなかったいろんな場所にバカンスに出かけ……そうして過ごす間に、子に恵まれる事があったらどれだけ喜ばしいか──。
などとこの先の事を考え……私はデイモンドが帰って来るのを、今か今かと待つのだった。
しかし……帰ってきたデイモンドの傍らには、意外な人物が寄り添って居た。
それは生まれ故郷で結婚生活を送って居るはずの私の妹、カロリーヌだった。
「どうしてその子が一緒なのです?その子が遊びに来る予定など、何もなかったはずですが……。」
不審に思い尋ねる私に、デイモンドは驚くべき言葉を言い放った。
「彼女を連れて来たのはな、俺の第二夫人になって貰いたいからだ。」
「あ、あなたには、私と言う妻が既に居るじゃないですか!第二夫人って……この国では一夫一妻制しか認められて居ないのだから、そんなの無理に決まって居ます!」
そう反論する私に、カロリーヌは馬鹿にしたような笑みを浮かべこう言った。
「普通の男なら、間違いなく認められないでしょうね。でもお姉様、あなたの夫は英雄なのよ?英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来るの。だから彼は、私を第二夫人を迎える事を願ったのよ。」
「そんな……。デイモンド、あなたは願いが見つからないって……私に、代わりに願いを見つけて欲しいって言ってくれたじゃないですか!だからあなたが居ない間、私は互いが幸せになれる願いを考えて──」
「以前はそう言って居たがな、気が変わったんだ。カロリーヌはな、俺がお前の故郷近くの戦場に居ると知り危険を顧みず薬や食料を差し入れてくれてな……。そうして一緒に戦場で時間を過ごす内、自然と遠くに居るお前より近くにいる彼女に心惹かれるようになって行ったんだ。美人で愛嬌のある彼女に傍に居て貰えると自然と力が湧いて来て、今までのどの戦場よりも上手く立ち回れたんだぞ。」
「私はただ、あなたを影でお支えしただけです。まぁ、美人で愛嬌があると言うのは認めますわ。それこそそこの地味で真面目腐ったお姉様よりも、うんとあなたの事を満足させられるほどにはね。」
そう言って意地の悪い笑みを浮かべるカロリーヌを……そんな顔もまた魅力があるなどと言って、デイモンドはギュッと抱きしめるのだった。
「わ、私はそんなの絶対に認めません!そもそもカロリーヌ、あなた少し前に結婚したばかりじゃないの!それも……私の幼馴染のライエルと!あなたが第二夫人になる何て事、ライエルも許すはずがないでしょう!」
ライエルは、私の大事な幼馴染だ。
そのライエルとどうしても結婚したいと、カロリーヌが涙ながらに気持ちを告げ……またライエルもそんな彼女を哀れに思い、カロリーヌと一緒になる事を選んだのだった。
自分からライエルと結婚したいとあれほど大騒ぎしておいて、今度は私の夫の第二夫人になりたいだ何て……この子、一体どう言う神経して居るのよ──。
4,005
あなたにおすすめの小説
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
番ではなくなった私たち
拝詩ルルー
恋愛
アンは薬屋の一人娘だ。ハスキー犬の獣人のラルフとは幼馴染で、彼がアンのことを番だと言って猛烈なアプローチをした結果、二人は晴れて恋人同士になった。
ラルフは恵まれた体躯と素晴らしい剣の腕前から、勇者パーティーにスカウトされ、魔王討伐の旅について行くことに。
──それから二年後。魔王は倒されたが、番の絆を失ってしまったラルフが街に戻って来た。
アンとラルフの恋の行方は……?
※全5話の短編です。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
婚約者の番
ありがとうございました。さようなら
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。
大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。
「彼を譲ってくれない?」
とうとう彼の番が現れてしまった。
あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる