夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*

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 戦場に出て居た夫デイモンドが、間もなくこの地に帰って来る。

 これまで騎士団の中で誰よりも活躍し数々の戦果を上げた夫は、少し前に王様より「英雄」の称号を与えられた。


 
 そして私は、その妻のメイシーだ。

 デイモンドと結婚した時から、周りの女たちは美形の彼と一緒になれる私の事を羨んで居たが……英雄の妻と言う座に就いた事で、より一層羨望の目で見られる事となった。



 それに対し、少し気後れしないでもなかったが……デイモンドの居ない間この家をしっかりと守り、そして大事な役目を変わらず果たし続けて居た。



 ここを出る前、デイモンドが言って居たわね……。



『英雄になった事で、何でも一つ望みを叶える権利を王から授かったんだ。でも俺にはお前と言う良き妻が居て、公私共に順調な今願いが見つからない。そもそも、俺の望みはお前が叶えてくれる。だから俺が今度ここに帰って来るまでにメイシー、お前が何か考えておいてくれ。』

『いいんですか?じゃあ、私もあなたも幸せになれるような……そんな望みを一つ見つけておきますね。』



 と言う事があり、あれから色々と考えてみたけれど……物もお金も、今の私たち夫婦には十分満ち足りて居る。

 ただ一つ物足りないとすれば……未だに、彼との子供に恵まれない事だ。



 と言うのも、忙しく戦場を駆け回るデイモンドは家に居ない事がほとんどで……子が出来たとしても共にゆっくり子育てに励めるはずがないと言う彼の考えで、子作りを避けて来た節があったからだ。



 でも英雄になった今、何でも望みが叶うなら……一年ほど彼の休みを頂きたい、夫婦の時間をゆっくり取れるようにして欲しいと王様に願い出ようか。



 そしたら、これまでデイモンドと一緒に行きたくても行けなかったいろんな場所にバカンスに出かけ……そうして過ごす間に、子に恵まれる事があったらどれだけ喜ばしいか──。



 
 などとこの先の事を考え……私はデイモンドが帰って来るのを、今か今かと待つのだった。



 しかし……帰ってきたデイモンドの傍らには、意外な人物が寄り添って居た。

 それは生まれ故郷で結婚生活を送って居るはずの私の妹、カロリーヌだった。



「どうしてその子が一緒なのです?その子が遊びに来る予定など、何もなかったはずですが……。」
 


 不審に思い尋ねる私に、デイモンドは驚くべき言葉を言い放った。



「彼女を連れて来たのはな、俺の第二夫人になって貰いたいからだ。」

「あ、あなたには、私と言う妻が既に居るじゃないですか!第二夫人って……この国では一夫一妻制しか認められて居ないのだから、そんなの無理に決まって居ます!」
 


 そう反論する私に、カロリーヌは馬鹿にしたような笑みを浮かべこう言った。



「普通の男なら、間違いなく認められないでしょうね。でもお姉様、あなたの夫は英雄なのよ?英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来るの。だから彼は、私を第二夫人を迎える事を願ったのよ。」

「そんな……。デイモンド、あなたは願いが見つからないって……私に、代わりに願いを見つけて欲しいって言ってくれたじゃないですか!だからあなたが居ない間、私は互いが幸せになれる願いを考えて──」

「以前はそう言って居たがな、気が変わったんだ。カロリーヌはな、俺がお前の故郷近くの戦場に居ると知り危険を顧みず薬や食料を差し入れてくれてな……。そうして一緒に戦場で時間を過ごす内、自然と遠くに居るお前より近くにいる彼女に心惹かれるようになって行ったんだ。美人で愛嬌のある彼女に傍に居て貰えると自然と力が湧いて来て、今までのどの戦場よりも上手く立ち回れたんだぞ。」

「私はただ、あなたを影でお支えしただけです。まぁ、美人で愛嬌があると言うのは認めますわ。それこそそこの地味で真面目腐ったお姉様よりも、うんとあなたの事を満足させられるほどにはね。」



 そう言って意地の悪い笑みを浮かべるカロリーヌを……そんな顔もまた魅力があるなどと言って、デイモンドはギュッと抱きしめるのだった。



「わ、私はそんなの絶対に認めません!そもそもカロリーヌ、あなた少し前に結婚したばかりじゃないの!それも……私の幼馴染のライエルと!あなたが第二夫人になる何て事、ライエルも許すはずがないでしょう!」



 ライエルは、私の大事な幼馴染だ。
 
 そのライエルとどうしても結婚したいと、カロリーヌが涙ながらに気持ちを告げ……またライエルもそんな彼女を哀れに思い、カロリーヌと一緒になる事を選んだのだった。



 自分からライエルと結婚したいとあれほど大騒ぎしておいて、今度は私の夫の第二夫人になりたいだ何て……この子、一体どう言う神経して居るのよ──。
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